内閣府が2019年3月7日に発表した1月の景気動向指数が経済界に衝撃を与えている。国内の景気がすでに後退している可能性が浮上、安倍政権が高らかに宣言していた「戦後最長景気の記録達成」のアベノミクス成果に疑問符がついたからだ。

正式な景気動向の判断は1年以上後の内閣府専門家会議にゆだねられるが、このビッグニュースを主要新聞はどう報道したか。8日付の各紙朝刊を読み込んでみると、それぞれに意外な差が......。

アベノミクス批判が色濃い、あの「産経」と「東京」

主要6紙(朝日・読売・毎日・日本経済・産経・東京新聞)のうち、1面トップで大々的に取り上げたのは朝日新聞と産経新聞、東京新聞だ。毎日新聞と読売新聞は1面だが、ともに3段の見出し。日本経済新聞に至っては、経済紙なのに、5面に掲載するといった扱いだった。ちなみに、読売の1面トップは「子会社社外取締役を増 『親子上場』統治強化」という経済ニュースだが、日本経済新聞では同じネタを5面のベタ記事で扱うという温度差を見せている。

見出しをみると、とかく安倍政権寄りと見られがちな産経新聞が、強烈さでは群を抜いている。朝日新聞の「景気すでに後退の可能性」、東京新聞「景気後退入りか」に対して、1面こそ「景気『下方へ変化』 すでに後退の可能性」と押さえ気味なものの、2面では「『戦後最長景気』幻にも」と打ち出した。これは、安倍政権が1月に戦後最長の「いざなみ景気」(2002年2月~2007年10月の69か月間)を抜いたと発表。アベノミクスの成果を強調したことに疑問を投げかけた形だ。

産経新聞は、中国経済の減速による輸出の不振で日本のメーカーの業績が悪化している例を、半導体大手ルネサスエレクトロニクスの生産停止をはじめ、川崎重工業、三菱電機、新日鉄住金、日産自動車の売上減少などの例を詳しく紹介。「『戦後最長の景気拡大局面だ』が幻だった恐れが出てきた」とした。

東京新聞も「『戦後最長』に疑問符」を見出しに打った。同紙は「消費増税に逆風も」と渥美龍太記者の署名入りの「解説」を掲載した。消費増税に切り込む記事を掲載したのは大手6紙で東京新聞だけだ。渥美記者は今年10月に予定されている消費増税が厳しくなる理由をこう書いている。

「今年はもともと米国や中国の経済が減速する予測を専門家が出しており、増税へのハードルは高い。増税を延期した2017年4月の段階では世界経済が順調に拡大しており、『最大の好機を逃した』ともいわれる」
「景気悪化の備えには不安が残る。
最大の柱の日銀の『金融緩和』は、目標の物価上昇率2%がほど遠い。先進国最悪の財政も改善の兆しが見えず、支出の余地は限られる」
「さらに春闘の時期でもあり、景気の先行きに不安が出れば、経営者の賃上げ判断は厳しくなり、内需にも不安な要素が増える」
「安倍政権は景気拡大が永遠に続くかのように、増税で国民に社会保障の負担を求めるべき時はやらず、過剰な経済政策にブレーキをかけてこなかった。負担増など国民へのツケが表面化しかねない」

というのである。

先行きに悲観的な「朝日」 模様眺めの「読売」

朝日新聞も「震源地は中国」として「中国経済の減速が日本を直撃した」との立場だ。

「過剰な債務を減らすために中国政府がとってきた引き締め策に加え、米国との対立が追い打ちをかけた。自動車やスマートフォンの売れ行きが悪くなり、中国企業が投資を手控える動きも広がる。
あおりを受けたのが日本企業だ」

と指摘する。そのうえで、「(落ち込みが一時的か長期化か)1年ほどのデータも見る必要がある」と性急な判断を控えたが、次のような悲観的な見方を打ち出した。

「今回は、震災や増税後といった特殊要因は見当たらず、先行きへの楽観的な見方は多くない。食品などの相次ぐ値上げは、消費者の心理を冷やしかねない」
「米中対立は、新たな段階に入った。中国の通信機器大手ファーウェイが、同社製品を米国政府の機関が使うことを禁じた米国法は米憲法に違反している、と訴えたからだ」

そして、

第一生命経済研究所の新家義貴氏は『2月の指標でリバウンドが限定的なら、景気後退の観測は一段と強まる。景気はまさに正念場を迎えている』と指摘する」

と結んだ。

一方、読売新聞は「景気が後退局面に入った可能性が出てきた」としながらも、「1月には特殊要因も重なっており、これから発表される2月以降の経済指標の内容が焦点になる」と模様眺めの様子だ。「1月の特殊要因」とはこうだ。

「1月に輸出と生産が減少した背景には、中華圏の春節(旧正月)が昨年より約10日早く始まり、春節前に中国の工場で操業休止が増え日本からの部品の輸出が減った」
「一部自動車メーカー(スバル)が部品の不具合で日本の工場の操業を一時停止した」

という事情を指す。

唯一1面で取り上げなかった「日経」のスタンス

6紙の中でただ1社、1面に取り上げなかった日本経済新聞は、見出しに「景気後退」という言葉を一切使っていない点でも唯一の存在だ。ほかの5紙はすべて「景気すでに後退(局面)か」(朝日、読売、東京、産経)、「景気後退局面の可能性」(毎日)などと使っているのだが......。記事の主見出しは「景気指数3か月連続低下 基調判断を下方修正」で、何が問題になっているのかよくわからない書き方だ。

そして、記事の内容も茂木敏充経済財政・再生相の記者会見での「過去にも下方修正されても(事後に)後退局面とされなかった事例がある」というコメントを計29行(菅義偉官房長官は12行)も引用しており、全体的に政府側の「景気回復基調は変わらない」というトーンでまとめられている。

毎日新聞も、「『戦後最長の景気拡大』に疑問符が付いた格好だ」として、

「それでも政府は(今年1月に発表した)『戦後最長を更新したとみられる』との認識を崩していない」

と述べている。そして最後に第一生命経済研究所の新家義貴氏の

「輸出や生産の減少分を2月に取り戻せるかが焦点。取り戻せなければ『戦後最長景気』でなかったと判断される可能性もある」

というコメントで結んでいる。

しかし、不思議なのは、この第一生命経済研究所の新家義貴主席エコノミストが、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、日本経済新聞の4紙に登場していることだ。朝日新聞、読売新聞、毎日新聞では「景気状況はこれから厳しさが増し、まさに正念場を迎える」というニュアンスで、一方、日本経済新聞では「2月の指数が焦点」として、まだまだ判断を下すのは早いというニュアンスでコメントが使われている。

第一生命経済研究所のホームページを見ると、新家義貴氏は1998年に第一生命保険入社、内閣府に出向し、経済の総合指標の作成・検証・分析などに携わった経歴がある。それにしても、景気を予測・判断できるエコノミストの数が、それほど少ないということだろうか。

(福田和郎)