地方銀行の再編のうねりが東海地方にも押し寄せた。

いずれも名古屋市に本店を構える第二地銀の愛知銀行と中京銀行が、新設する持ち株会社の下で2022年10月に経営統合することで基本合意した。

次の段階として、2024年をめどに両行の合併を目指す。決断した理由は何だったのか――。

激しい融資競争、「ナゴヤ金利」で脆弱に...

「攻めの統合だ」――。

2021年12月10日、両行トップが名古屋市内で臨んだ記者会見で、愛知銀行の伊藤行記(いとう・ゆきのり)頭取は、中京銀行との経営統合の意味を強調した。だが、その言葉を額面どおりに受け取る関係者は少ない。

東海3県に本店がある地銀7行を貸出金残高で比較すると、愛知銀行は6位、中京銀行は7位。

愛知県内に本店を置くもう一つの地銀である名古屋銀行は4位だ。単純に合算すると、愛知銀行と中京銀行の合併行は、名古屋銀行を抜き、十六銀行(岐阜市)、大垣共立銀行(岐阜県大垣市)に次ぐ3位に浮上することになる。

東海3県の中でも、特に愛知県は自動車や航空に関連する製造業が盛んで、金融需要も活発だ。都市銀行の一角を占めた東海銀行をルーツに持つ三菱UFJ銀行などのメガバンクや隣県の地銀に加え、地元の信用金庫も含めて金融機関が激しい融資競争を繰り広げており、「ナゴヤ金利」と称される低金利が常態化している。

それゆえに事業規模を拡大して経営効率を高めるのではないかと、愛知県内に本店を置く地銀3行が絡む経営統合はたびたび噂されてきた。だが、長年しのぎを削ってきたライバル同士でもあり、具体化はしなかった。

それでも、日本銀行の金融政策がもたらした超低金利の環境は、地銀の体力をジワジワと奪い、特に東海3県で最も規模が小さい中京銀行の経営悪化は深刻で、店舗や人員の数を削減する方針を打ち出していた。

今回の経営統合は、中京銀行を救済する意味合いが濃く、統合後の基幹系システムは愛知銀行のシステムに統一。持ち株会社の社長には愛知銀行の頭取が就き、本社は現在の愛知銀行の本店がある名古屋市中区に置く方向だ。

地銀再編が活発になった1年、さて来年は?

2021年は地銀再編の動きが活発な年だった。1月には第四銀行(新潟市)と北越銀行(新潟県長岡市)が合併して、第四北越銀行(新潟市)が誕生。5月には三重銀行(三重県四日市市)と第三銀行(三重県松阪市)が合併して、三十三銀行(四日市市)が発足した。

10月には福井銀行(福井市)が福邦銀行(福井市)を子会社化し、11月には青森銀行(青森市)とみちのく銀行(青森市)が経営統合に最終合意した。

これらに共通するのは、同じ県内に本店があり、主要営業エリアが重なっていることだ。

同一県内の地銀再編を巡っては、長崎県内に本店があった地銀2行の経営統合が実現すると県内融資シェアが一定水準を超えるとして、公正取引委員会が難色を示した事例があった。このままでは地銀再編が進まないため、政府は2020年、同一県内の地銀再編を独占禁止法の適用から時限的に除外する特例法を施行。この動きに前後して、同じ県内の地銀再編が一気に動き出したわけだ。

もっとも地銀の規模が拡大して経営効率化が進んでも、超低金利や少子高齢化、地域経済の低迷で衰えている「稼ぐ力」まで改善するとは限らない。

愛知銀行と中京銀行を含め、再編に動き出した地銀の真価が試されるのは、これからだ。

(ジャーナリスト 済田経夫)