経団連がトヨタ自動車の豊田章男社長らをトップとする「モビリティー委員会」の議論を2022年9月にスタートさせた。
経団連には、分野ごとに経済界が求める政策の実現を目指す、政策委員会がある。
モビリティー委員会は2022年6月に発足し、初会合が9月22日に東京・大手町の経団連会館で開かれた。各企業から、オンラインを含め約400人が参加した。
トヨタ、デンソーなど自動車・部品メーカーはもちろん、電力・石油・ガスなどエネルギー業界、交通・運輸・旅行業界、化学業界、金融業界など幅広い企業が名を連ねた。
初会合でモビリティー委員会の委員長を務める豊田氏は「これからは業界、業種を超えて皆で動くことが何より重要になる。モビリティーの未来のため、オールジャパンで前へ進んでいきたい」と力を込めた。
モビリティーとはもちろん移動手段、乗り物のことだが、現在の自動車やバイクに限らず、将来的に「空飛ぶクルマ」など、まだ実用化されていない乗り物が登場することを意図している。
カーボンニュートラル(脱炭素化)、自動運転、MaaS(次世代移動サービス)、DX(デジタルトランスフォーメーション)など、主に自動車関連業界が実現を目指す技術やサービスが含まれる。
業界横断で200社超の参加、現職経団連会長の委員長就任は異例経団連の委員会のメンバーが業界横断で200社を超えるのは過去にあまり例がない。
しかも、モビリティー委員会の委員長は豊田氏に加え、経団連会長の十倉雅和氏(住友化学会長)、日本自動車部品工業会の有馬浩二氏(デンソー社長)が就任し、3人体制とした。
委員長3人というのは珍しくないが、現職の経団連会長が就任するのは初めてという。
十倉会長は9月20日の記者会見で、モビリティー委員会について「モビリティーに焦点を当てているので、自動車以外にもいろいろある」と前置きしながらも、「自動車は非常に経済波及効果が広く、何よりも日本が(国際競争で)残っている唯一といっていいほどの基幹産業だ」と発言。「モビリティー産業というか、自動車産業の成長と、抱える課題を広く議論しようという委員会だ」と指摘した。
この発言の背景には、トヨタを筆頭とする、日本の自動車メーカーの危機感がある。
日本はトヨタが1997年に世界初の量産ハイブリッドカー「プリウス」を発売し、世界をリードしたが、近年は米テスラや欧州メーカーの電気自動車(EV)に環境対応の次世代技術と販売実績で先を越されている。
日本は三菱自動車が2009年に「アイミーブ」、10年に日産自動車が「リーフ」を発売。いずれも世界初となる本格的な量産EVだったが、テスラほどの革新性はなく、市場をリードできなかった。近年は販売台数でBYDなど中国の新興メーカーの後塵を拝している。
次世代技術のアイデア出し、政府に求める政策の立案目指すそれは、EVだけでなく、日本の急速充電システム「CHAdeMO(チャデモ)」も同様だ。日本はアイミーブやリーフとともに世界に先駆けて、急速充電のサービスをチャデモで始めた。しかし、利便性で欧州方式のコンボ(CCS)などに太刀打ちできず、世界標準とはならなかった。
水素で発電して走る燃料電池車(FCV)もトヨタ、ホンダが世界に先駆け市販しながらも、水素の供給インフラが追い付かず、日本はじめ世界市場で支持を得られていない。
トヨタ、ホンダに続き、メルセデス・ベンツ、現代自動車などもFCVに参入したが、ライバルは近年、EVシフトを強めている。
日本の自動車産業は世界初の技術開発や市販で先鞭をつけながらも、近年はちぐはぐな対応が続き、世界市場の主導権を握ることができていない。この反省を生かし、トヨタを筆頭に次世代技術のアイデアを出し合い、政府に求める政策を立案するのが経団連のモビリティー委員会だ。
「多くの企業が業界を超えて協力しなければならない」
初会合では、参加企業からこんな意見が出たという。
このままでは日本の基幹産業である自動車産業が斜陽化してしまうという危機意識は、関係者に共通するのだろう。オールジャパンで始動した同委員会の今後に注目したい。(ジャーナリスト 岩城諒)