寒空の下、東京都内の住宅街をのんびりと散策していたのは香川照之(56)だった。

ドラマや映画での役柄ではエネルギッシュでせっかちなイメージが強いが、時間つぶしをしているようで、立ち止まってスマホを眺めたり、たばこをふかしたり……。

やがて予定の時間になったのか、小さなビルのなかへ入っていった。

本誌が彼を目撃したのは56歳の誕生日当日の夕方のことだ。テレビ局関係者はこう語る。

「香川さんの活動の幅は広がるばかりです。12月12日に最終回をむかえたドラマ『日本沈没-希望のひと-』(TBS系)では地球物理学界の異端児・田所雄介博士を怪演しました。

歌舞伎役者・市川中車としては十二月大歌舞伎に出演中です。

昆虫好きでも知られていますが、自身でプロデュースした自然教育絵本『インセクトランド』はアニメ化が決定しました。また、なんといっても今年話題になったのは情報番組『THE TIME,』(TBS系)でのキャスターデビューでしょう」

『THE TIME,』では金曜日の司会を担当する香川。12月3日の放送で視聴者に送ったメッセージも話題を呼んだ。

「今週の私は大きな喪失感に包まれ、力が抜けて、悲嘆に暮れていました。みなさまにもそういうときがあるかと思います。それでも人生は続いていきます。

毎日を生きていかなければなりません」

前出のテレビ局関係者が続ける。

「香川さんが番組で明かした“大きな喪失感”とは、人間国宝の中村吉右衛門さん(享年77)の逝去によるものだと言われています。吉右衛門さんは香川さんにとって歌舞伎役者の大先輩。また吉右衛門さんが主演して人気を博した時代劇ドラマ『鬼平犯科帳』では、香川さんが長谷川平蔵の部下の同心役を演じていたこともありましたからね」

本誌が香川を目撃した日、彼が訪れていたのは花柳流の日本舞踊の稽古場だった。そして同じ場所で汗を流していたのは、一人息子で歌舞伎役者の市川團子(17)。

香川は昼ごろには歌舞伎座で十二月大歌舞伎に出演。

その後、誕生日であるにもかかわらず、父子で日本舞踊の稽古に励んでいたのだ。

■父から子への教えは台本を丸暗記すること

梨園関係者はこう語る。

「花柳流の稽古場を選んだのは中車さんでしょう。歌舞伎役者が習う日本舞踊といえば、宗家藤間流や尾上流が多いのです。中車さんが所属する澤瀉屋ですと、紫派藤間流を習う方が多いのではないでしょうか。

しかし紫派を創流したのは故・藤間紫さん。

中車さんからすれば、自分の家庭から父を奪った女性ですから、避けたいというのも人情かもしれません」

息子・團子が初舞台を踏んでからすでに10年近くになるが、その間に香川自身の家庭環境も激変。’16年12月に21年間連れ添った元CAの妻と離婚したのだ。

現在、香川は東京都内にある一軒家で生活し、團子は母と暮らしている。

「離婚原因の1つは、中車さんが團子さんの梨園入りにこだわりすぎて、奥さんがついていけなくなったためとも言われています。

しかし中車さんと團子さんの関係は、その歌舞伎を通じて良好です。17歳という多感な年齢にしては珍しいぐらいかもしれません。

團子さんが『半沢直樹』の大和田常務や『昆虫すごいぜ!』のカマキリ先生のまねをして友人を笑わせているという話も聞いたことがあります。とにかく明るい子ですからね」

團子は“父から教わったこと”について、インタビューで次のように語っている。

《最近教わった中で特に印象に残っていることでは、台本の暗記です。相手役の部分を含め、台本をどれだけ覚え込むか……。日常でもすんなり言葉が思い出せるぐらいになれば、余裕が生まれて、感情をセリフに乗せて表現するといった他のことも考えられる、という意味だと受け取っています》(「with online」’21年9月1日)

この証言からも香川の息子にかける大きな期待が伝わってくるが、“誕生日の父子特訓”について、前出の梨園関係者はこう語る。

「この10年ほどで歌舞伎を支えてきた名優たちが次々に逝去しており、関係者たちの間でも“歌舞伎の未来”への危機感が強まっています。

特に先日の中村吉右衛門さんの逝去に“大きな喪失感”を抱いたのは中車さんばかりではないのです。

私は誕生日にあえて團子さんと稽古をしていたのは、“息子の成長を通じて歌舞伎界の将来を守りたい”という中車さんの決意表明ではないかと思います」

ドラマでは日本沈没を唱えていたが、“歌舞伎沈没”はさせない、ということなのだろう。

稽古を終え、寒風の吹くなか、團子と肩を並べて歩く香川。すでに背丈は自分を追い越した息子に投げかけるまなざしは温かだった。