【中道改革連合・前衆院議員 江田憲司氏 70歳】
「今回は何をしてもダメだった」――。
先の総選挙で、’05年から21年間にわたり守ってきた議席を失った中道改革連合(以降、中道)の重鎮議員・江田憲司氏はこう振り返った。
これまで、みんなの党幹事長、結いの党代表、維新の党代表、民進党代表代行、そして立憲民主党代表代行と野党の要職を歴任。4つの政党の結党に深く関わり、自民党に対抗しうる勢力を作るため、野党再編の中心的役割を担ってきた。
「自民党総裁選のときあたりから、高市さんの人気は『(これまでの首相とは)質的にも量的にも違う』と感じていました。だから、一番困るのは、支持者に『江田は大丈夫』と思われてしまうこと。選挙の出陣式でも『今回は江田が危ない!』と言ってくださいとお願いしたほどです。
ただ、実際の選挙戦では、街頭の有権者の反応は悪くなかったし、ビラのはけ方や枚数も前回の総選挙と比べて遜色はなかった。正直、ここまで負けるとは思ってなかったんです。でも、地中奥深く、見えないところで、大きな“地殻変動”が起きていたんですね。
日本初の女性首相で、従来の首相と比べてハキハキと話す。
高市旋風が凄まじかったゆえに、今回は選挙で『ああすれば良かった、こうすれば良かった』というような後悔は一切ないんです。今回は何をしてもダメだった。だから、過去に2回負けたときは、ちょっと精神的に滅入ったけど、今回は落選翌日からむしろサバサバしてましたね」
「中道に対する嫌悪感は確かにありました」
「これまでの当選は全て小選挙区で、比例復活したことはありません。かねてより、比例復活には小選挙区で落選した議員が“ゾンビ”のように生き返るといった批判も少なくなかった。自身の地元選挙区ですら信任を受けていない議員が、中央(国会)で偉そうなことを言っても、まともに聞いてもらえないとも思っていました。だから、小選挙区での敗北は、すなわち落選同然という覚悟はしてました」
江田氏が所属する中道への批判も、大きな逆風となった。昨年まで26年の長きにわたって自民党と連立政権を組んできた公明党との合流は、「選挙のための数合わせ」「野合」にしか見えず、有権者の厳しい目に晒されていた。
「街頭で表立って私に文句を言ってくる人は少なかったのですが、後で選挙ボランティアに聞くと『信頼していたのに、なぜ中道に行ったのか?がっかりした』『なぜ無所属で戦わなかったのか?』『新党を立ち上げればよかったのに』といった失望の声が多かったと言います。中道に対する嫌悪感は確かにありましたね」
高市人気、中道への嫌悪感、そして3つめの敗因として江田氏が挙げたのが、SNSの影響だ。
「近年、SNSが選挙に大きな影響を与えていることは認識していたので、昨年末から1か月ほど初めてYouTubeに広告を打ちました。地域を絞ることができるので、私の選挙区の横浜市青葉区と緑区に広告を打つと、それだけでチャンネル登録者が8000人も増えたんです。広告の効果は絶大です。
でも、選挙戦に入ると、候補者個人は広告が打てません。ところが、政党なら広告を打てる。もちろん野党も選挙中にYouTubeなどのネット媒体に広告を出していましたが、自民党が突出して莫大な資金を投じ、広告というかたちで動画を大量に拡散していたのは明らかでしょう」
先の総選挙では、高市首相が公示前にYouTubeに投稿したメッセージ動画が、選挙中の2月4日に再生数1憶回を超え、話題となった。人気アーティストのYOASOBIの「アイドル」のミュージックビデオでさえ、再生数1憶回を超えるのに公開から36日間を要している。政治家の動画であることを考えれば、異常な再生数だったのは間違いない。
江田氏が指摘するように、公職選挙法では、候補者個人による選挙運動のための有料ネット広告は禁じられているが、政党が選挙運動用ウェブサイトに直接リンクした有料インターネット広告を出すことは認められている。総選挙の期間中、YouTubeやXなどのSNSを開けば、高市首相の動画が繰り返し流れてきたのも、有料の広告の効果だったという見方が有力だ。
「地元の支持者が『YouTubeを開いたら、1分おきに高市さんの動画が流れてきてすごかった』と驚いてました。選挙運動のチラシなど紙媒体は枚数に法的制限がありますが、YouTubeにはそれがない。
その言葉通り、中道は167議席から49議席へと大幅に議席を減らす惨敗を喫した。特に、旧立憲民主党は、144議席から21議席と123議席を失う壊滅的敗北となった。選挙結果を受けて、中道の斉藤哲夫、野田佳彦の両共同代表は辞任している。
そもそも、彼は民主党政権のときも、周囲の反対を押し切り、総選挙を断行し惨敗を喫しており、野党第一党を二度も焼け野原にした大戦犯ですよ。にもかかわらず、いまだに国会議員の職にとどまっている。『万死に値する』などという言葉は、二度も使ってはいけません。
’12年、与党民主党の野田首相は、国会で行われた安倍晋三自民党総裁との党首討論のなかで、解散の日時を明言して、総選挙に打って出る。ただでさえ、民主党への国民の信頼は失墜していた。
当時、野田首相の解散は「自爆」とも評されたが、なぜこんな振る舞いができてしまうのか。
「特に旧民主党幹部の人たちは、実社会で人を使った経験があまりないので、組織というものを知らなない。だから、そのマネジメント能力が決定的に欠如している。だから、代表や幹事長に就任すると、自分たちだけで決めても、あとの人間はついてくると本気で思っている。でも、組織は、感情を持つ人間の集合体です。理屈だけでは組織は動かない。トップたる者、心配りが必要です。
今回の突然の新党結成にしても、やっていたのは野田代表と安住(淳)幹事長の2人ぐらいで、役員ですら、その多くは事前に聞かされていなかった。重要な決定を下す際は、要路要路への気配りが重要なんです。一言でもいいから直接説明したり、電話の一本くらい入れるのが当たり前でしょう。
江田氏によれば、民主党政権が短命に終わったのも「組織を知らない」ことが大きかったという。
「実は、旧民主党、特に若手議員の政策立案能力は、決して自民党に引けを取ってはいません。ただ、例えば、自民党にも民主党にも官僚出身の議員は少なくありませんが、両者には決定的な違いがある。自民党は、官僚トップの事務次官や局長、部長等の管理職経験者が議員になりますが、旧民主党では課長補佐、係長クラスから若くして政界に転身する人が多い。霞が関でも管理職になって初めて、10~20人の部下を持ち、人事管理の難しさを学ぶのです。こうした人を使った経験のない人が、民主党ではトップや幹部になってきたのですから、政権に就いても、そうでなくてもプライドの高い霞ヶ関官僚を使いこなすことはできなかったのです。
野田さんにしても、大学を出てすぐに松下政経塾に入り、地方議員を経て若くして国会議員になっている。つまり、実社会での組織管理、ガバナンスの経験、知見がない。鳩山さん(由紀夫・元首相)、菅さん(直人・元首相)にしてもそう。トップは頭が良い、政策ができるだけでは務まりません」
野田氏によって2度目の焼け野原となった中道は惨敗。江田氏も議席を失った。
新事務所は3畳のレンタルルーム、秘書は全員辞職
自民党副総裁や衆院議長を歴任した大野伴睦の言葉だが、「ただの人」となった江田氏は、給料である歳費だけでなく、政党交付金や公設秘書の給与、文通費(旧文書通信交通滞在費・調査広報研究滞在費)など、ざっと6000万円弱の収入が消え去ることになる。立憲出身の落選議員からは「生活するのさえ大変で、政治活動を続けられない」と悲鳴も上がるが、江田氏はどうか。
「幸い、妻も働いてくれているので、正直、生活に困るということはありません。
もともと私は初当選以来、企業・団体献金は1円も受け取らず、お金をかけない政治活動をしてきました。秘書も公設秘書3人の他に、私設秘書は1人か2人でした。ただ、今回の落選で全員に辞めていただくしかありませんでした。
事務所も引き払いました。青葉台駅前の土地を借りて、そこにプレハブを建てて20年以上活動してきましたが、大家さんの都合で解体することになりました。今は、来客対応やSNS発信等のために、3畳ほどの、人が3人も入ったらいっぱいのレンタルルームを借りて何とかやっています。人が常駐する場所もないので、今後も常設のスタッフは置かず、タスク毎に適任者に業務を委託して活動していくつもりです。
議員宿舎も借りていませんでした。都外だから入居できるのですが、家賃が安いといわれる議員宿舎でも、月に固定費が13万円くらい出ていきますからね。ブリッジの会(通称・江田グループ)の運営でも、隔週一回の昼の会合ではサンドイッチにコーヒー。夜の会食も参加者から5000円徴収して会費制でやっていたくらい。サラリーマンの皆さんと同じ、割り勘です。
大量の落選議員を出した中道は、政党交付金が激減し、党財政は火の車。50人超の落選議員の政治活動を支える資金も必要だ。そんな懐事情を受け、小川淳也・新代表は3月の会見で、これまで執行部には自粛を求め、開催に後ろ向きだった政治資金パーティー開催について「自粛どころか、むしろ奨励した」と180度方針を転換した。
「なぜ、私が企業・団体献金の禁止を自らに課してきたのか。特定の企業や団体から多額な献金を頂いたら、人間だれしもお世話になった人に恩返しするのは当然でしょう。そこに「しがらみ」ができる。選挙前に献金を受け取って、選挙が終わったら『知らんぷり』なんていうのは逆に人間失格ですよ。
私もそう言われないために元から絶つ、1円ももらわずにやってきました。金権、利権、政治腐敗の元である企業・団体献金は禁止すべきとの考えは変わっていませんが、自民党が大手を振って献金をもらっている今の状況で、中道の他の議員にまで、それを押しつけようとは思ってはいません」
落選すれば議席だけでなく、経済的にも多くのものを失う。さらに、所属政党の混乱が追い打ちをかける。
「連休明けには、今回の民意を厳粛かつ真摯に受け止めた上で、身の振り方を決めたいと思っています」
これまで4つの政党の結成に大きくコミットしてきた江田氏の「政界再編」に賭ける思いは、落選中の今もいささかも変わっていないようだ。
神奈川8区 当選 8回 落選 3回
通産省から首相官邸へ出向(海部・宮沢内閣)。橋本内閣総理秘書官などを経て、’02年、初当選。以降、8選。結いの党代表、維新の党代表、民進党代表代行など要職を歴任
取材/山本和幸 取材・文/齊藤武宏 撮影/山田耕司
―[有名元議員たちの落選後]―
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