『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは「高級海苔弁当」。
孤独のファイナル弁当 vol.31「今週も、高級海苔弁当でございます」
まさかの2週連続高級海苔弁。ただし今回はいただき物。でも見た瞬間「ついこないだも食べた……」と思った。連載としても海苔弁連続はどうかなあと思ったが、人生にはこういうこともある。
というか、毎日違うものを食べたい、というのがそもそも贅沢な話。こういうことを現代日本人は忘れている。
野生動物は、毎日同じものを食べるのが当たり前だ。肉食動物は何日も食べることができないこともある。草食動物は生えてる同じ草を食べ尽くしては移動して同じ草。魚だって鯨だって毎食違うものなんて食べてない。
人間も大昔は同じものを食べていたんだろうが、道具と火を手に入れ、食生活が変わった。切ったり煮たり焼いたりすることで、画期的に栄養素を効率よく、しかも「おいしく」摂取できるようになった。
と言ったって明治時代くらいまで、庶民は毎日毎晩、少量の漬物や干物でごはんをバクバク食べていたのだろう。
それに比べてなんだろう今は。いや、恵まれてる時はそれに気づかないもので、あと10年もしないうちに日本はもっともっと貧乏になって、毎日同じようなものばかり食べるのが普通の生活、ご馳走は年に数回の冠婚葬祭の時だけ、となるかもしれない。
海苔弁、それも1000円以上の弁当を2日続けて食べて不満顔だったあの頃……。
と思って、熱いほうじ茶を淹れて、冷たくなった海苔弁をいただきました。先週のよりは安い。海苔も2段にはなってない。
だがしかしこのシャケのはらす焼きの立派なことよ。身が軟らかくて、香ばしい皮までいいおかずになる。それが小3切れ入っているから、もったいぶらずに最初からガブリといける。
ちくわの磯辺揚げも、地味~に端っこに埋まってるし。
で、先週箸で切れなかった海苔だが、この弁当はちゃんと切れた。ザクッと箸を入れ。ごはんと醤油の染みた海苔とをひと口分ずつ取って食べることができた。そうだよね。こうだったよね。おいしい。ごはんはすっかり冷たくなってるけど、問題ない。ウマイ。
鶏の照り焼きも小兵ながら強い関脇力士的な重量感、密度を感じる。焦げ目もシブい。
そこにピリ辛の高菜漬けがありがたい。なかなか海苔弁に高菜は登場しない。だいたいがピンク色の大根桜漬けだ。ところがこれが見た目重視で味軽視ケースが多いのだ。高菜は見た目地味だが味はいい。
とにかく海苔ごはんが食べやすく普通においしいので、ガンモもポテサラもしば漬けも輝く。卵焼きとにんじんはカワイイので最後のほうまで残した。これはご馳走を最後まで取っておくケチな根性でなく、弁当の花。
食べ終わって、新たに熱いほうじ茶を淹れる。
―[連載『孤独のファイナル弁当』]―
【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など。Xアカウント:@qusumi
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