「10周年を迎えても、僕の気持ちに変化があるわけではないんです。僕は記念日を気にしないタイプなので、10周年といってもあくまで通過点。

今まで通り、これからも色んなことにチャレンジしながら、歌手生活を送れたらいいなと思います」

こう語るのは、演歌歌手の徳永ゆうき(28)。

徳永は’11年7月に出場した『NHKのど自慢』で「今週のチャンピオン」を受賞し、翌年3月に行われた『NHKのど自慢チャンピオン大会2012』でグランドチャンピオンに輝いたことがきっかけとなり、当時のレコード会社にスカウトされた。

満を持して’13年11月に“日本の孫”というキャッチコピーとともに18歳でデビューを果たし、’14年には「平成ドドンパ音頭」で日本レコード大賞も受賞。以降も着実に歩みを重ね、今年2月1日にはデビュー10周年記念のアルバム『徳永がくる』をリリース。若手演歌歌手のホープとして注目されている。

最近では、今年1月に放送された『千鳥の鬼レンチャン』(フジテレビ系)に出演し、人気企画「サビだけカラオケ」で見事チャレンジをクリア。

また’20年の『エール』や’22年の『カムカムエヴリバディ』といった朝ドラ、映画『家族はつらいよ』シリーズに出演するなど俳優業にも進出するなど、ジャンルを横断する異色の演歌歌手として、その活躍は留まることを知らない。

順風満帆に見える徳永だが、実は苦悩を抱えていたようだ。2月3日に行われたデビュー10周年記念の会見で、徳永はこう吐露している。

「デビュー当時は、歌一本でいく気持ちはあったんですけど、今の時代、演歌一本でいくのはなかなか難しい時代になってきている。いろんなことにチャレンジして、まずは徳永ゆうきという存在を知ってほしい」

徳永は現在の演歌界への危機意識を明かす。

「デビュー当時は『演歌一本でいくぞ』という思いがありましたが、次第に『それって難しいのかもな』と思うようになったんです。

まず今は歌番組が少ないですし、その中でも演歌歌手に用意されている枠はもっと少ない。

『NHK紅白歌合戦』ではどんどん先輩方が卒業されて、『演歌枠が空いた。若手が行けるチャンスや』と思ったら、ポップスの方が入られたり。時代の流れだと思いますが、演歌というジャンルそのものが忘れられそうで怖くなります。

それに僕自身、歌手になったからには有名になりたいんです。演歌一本では表に出る機会が少ないなか、どうすればいいのか。

そこで、歌以外のことも頑張る必要があるんやと気づきました」

■歌手人生を変えた「Lemon」との出会い

同じ業界で切磋琢磨する仲間たちも決して楽ではないようだ。

「ポップスの世界と同じように、演歌界でも毎年若い歌手がデビューしています。みんな歌が上手いし、キャラもいい。でも、表舞台が用意されていません。それに新型コロナの影響でコンサートもできなくなり、みんな苦境に立たされました。

僕も緊急事態宣言が初めて出た時、コンサートや地方営業がどんどん中止や延期になって。

スケジュール帳が真っ白になって、まるで新しい手帳みたいになっていました。でも鉄道番組に呼んでもらったりして、なんとか歌以外の部分でカバーできました。しばらく鉄道番組が続いたんで、『あれ、自分の本業は何やったかな?』って思いましたけどね(笑)」

徳永自ら売り込みをすることも。

「番組でご一緒したスタッフさんに『歌番組に出させてくださいよ!』ってお願いすることもあります。今一番したいのは、若手の演歌歌手が中心になってできる歌番組。みんなで楽しくトークしたり、自分の歌を披露したり。

ちょっとずつそういう機会が増えるだけでも、環境は変わってくると思うんですよね」

そんな徳永にとって、ターニングポイントとなったのは’18年9月の『演歌の乱』(TBS系)で披露した米津玄師(31)の「Lemon」。このカバーで「歌手人生が変わった」という。

「ポップスにもいい曲がたくさんあるとわかってはいるのですが、いざ自分が歌うってなると、全然体に入ってこなくて。譜割りやキーの高さ、テンポの速さが難しい。転調もあるし、一曲で二曲を覚えている感覚。いまだに苦手意識があります。

でも、『Lemon』を歌ってから『徳永さんのポップスをもっと聴いてみたい』という声が多くなりました。そこで、ポップスを中心にしたライブを開催したり。色んなジャンルの曲を聞く機会も増えましたし、まさに視界が開けたという感じです」

マルチな活動ゆえに、冗談交じりに両親から「お前芸人みたいになっとるぞ」と言われることもあるという徳永。だが、両親や祖父の影響で子供の頃から演歌に魅了され続けてきた徳永の“軸足”は常に演歌にある。

「今でも基本的には演歌か昭和歌謡しか聴かないんです。演歌の魅力といえば、やっぱり“こぶし”。他にも“がなり”とか“しゃくり”とか様々な技法があります。それに演歌と一口に言っても大人の恋愛を歌ったり、旅を歌ういわゆる股旅演歌や望郷の歌など様々なジャンルがあります。着物を着て、手をしなやかに動かしながら歌う演歌はやっぱり日本独自の文化ですよね」

■「演歌と若者の架け橋になりたい」

“冬の時代”とも言われる演歌界だが、徳永に諦める様子はない。

「歌手を辞めたいと思ったことは、一度もないんです。ありがたいことに10年活動するうちにファンの方が年々増えてきて、皆さんの反応をステージで見ていると僕も嬉しい気持ちになります。手拍子する姿や笑顔を見ると『やっぱり歌手っていいなぁ』って思います」

そして、様々なジャンルでの活動にもいずれ演歌に“還元”させたいという思いがあるようだ。

「昨年の音楽劇『歌妖曲~中川大志之丞変化~』で共演した中川大志さん(24)は『いいなぁ、トクちゃんの声』と、そして浅利陽介さん(35)も『やっぱトク、いいねぇ』と歌声を褒めてくださって。また『カムカムエヴリバディ』の撮影で歌を口ずさんでいたら、新川優愛さん(29)が喜んでくださいました。皆さん、こっちが逆に恥ずかしくなるくらい『いいなぁ、上手いなぁ』と言ってくれて(笑)。こういうことは演歌一本では経験できないことだなと思います。

それにお芝居にしろバラエティにしろ、色んな経験が何かしら歌に繋がるものだと思います。チャレンジの結果、歌の表現力が増すかもしれませんしね」

最後に徳永は“夢”を明かしてくれた。

「演歌歌手の枠にハマらないのは、僕の強みだと思います。実際、芝居やバラエティで知ってくれた方がキャンペーンにも遊びに来てくれるんです。いろんな角度から知ってくださるのは嬉しいことです。

デビューの時から『演歌と若者の架け橋になりたい』と思ってきました。演歌もいっぱいええ歌があるし、僕をきっかけにしてぜひ若者の皆さんにも聞いてほしい。それに、僕は死ぬまで歌い続けたいんです。そのためにも演歌歌手であることを軸にして、色んなチャレンジができたらいいなって思います。

でも、ジェットコースターに乗るロケはもう勘弁かな。高所恐怖症なので、叫びすぎて喉がカスカスになって、ディナーショーにもちょっと影響が出ましたからね(笑)」

枠組みに囚われない挑戦を続ける徳永。演歌界の“新時代”は徳永の進む先にあるのかもしれない――。