今、日本は外国人にとっての「安い旅行先」となっている。外国人特需による物価高、円安による物品やサービスの値上がり。

これからの日本を待ち受ける(恐)シナリオとは……。

円安がすさまじい。4月29日には1ドル160円台と34年ぶりの円安水準を記録した。その後、政府・日銀による為替介入があったとみられるが、「円安基調は止まらない」というのが大方の見方だ。

「円安は、消費者にとってマイナスでしかありません」

そう話すのはエコノミストの斎藤満さん。以前、日本は円安のほうがもうかると聞いたが……。

「円安とは円の価値が下がること。輸出企業にはプラスですが、お金の価値が下がり、消費者は買えるものが減って貧しくなります。自国の通貨が安くなって潤う国はありません」(斎藤さん、以下同)

円相場は、’24年初の1ドル140円台から先日の160円台まで、5カ月足らずで10%以上下落している。これは輸入にかかるコストが10%増えることを意味する。

「日本の輸入総額は年100兆円余り。10%の円安で、輸入コストは年約10兆円増える計算です。

これを誰が負担するのか。企業は商品価格に転嫁するので、結局消費者が払うことになるのです」

概算だが、約10兆円の負担増を1億人の国民で賄うと、1人あたり年間10万円となる。乳児から高齢者までが一様に10万円とは相当なダメージだろう。さらに円安が170円まで進むと、春闘で獲得した賃上げ効果は消滅し、実質賃金はマイナスのままだという。

生活の隅々まで広がる円安のデメリットとは? 斎藤さんに20の項目を聞く。

■輸入品の値段は1割上昇。

影響を強く受ける品目

【1】小麦・うどん

需要の約9割を輸入に頼る小麦は、政府が買い上げ売渡価格を決めている。次回10月の改定で10%程度上がってもおかしくない。政府が値上げ分を吸収するというが、「負担吸収には限界がある。いずれ10%高となるでしょう」。1杯500円のうどんは、約半分の輸入コスト250円がまずは円安で275円に上昇。それだけなら525円で販売できるが、人件費や輸送費、電気・ガス料金なども高騰中だ。

10%値上げして550円で販売しないと採算が合わない。

【2】国産米、納豆

輸入とは無縁に感じる国産米も肥料の多くを輸入に頼る。また、大豆は9割以上が輸入品。輸入大豆を多く使う納豆も、円安の直撃が大きいもののひとつだ。ただ納豆などは値上げがむずかしいため、生産者の利益を圧迫し、廃業が増加するリスクが大きい。

【3】オリーブ油

記録的な不作で、家庭用オリーブ油は5月から最大66%値上げされた。

これに10%の円安が追い打ちをかけ、さらなる値上げがあるだろう。もう使えないかも。

【4】海外ブランド品

輸入コストの割合によって円安の影響額は異なる。人件費や輸送費、電気・ガス料金など円安以外のコスト上昇も大きく、結局10%程度の値上げになるのでは。

【5】輸入車

テスラ社などの自動車は輸入コストが大きく、円安の影響がダイレクトだ。約600万円の「Model3」は約660万円に上がるだろう。

【6】外国産ワイン

’23年産のボジョレーヌーボーは約3千円。輸入コストは半分程度だが、人件費や輸送コストも含めると’24年産は10%値上げかも。

■エネルギー価格の高騰であおりを受けるもの

【7】ガソリン

原油自体の値動きがなくても、10%の円安で10%値上げの可能性は大。だが、政府の補助金があるので急激な値上げはないだろう。「政府の補助金の元は税金です。今ガソリン価格を抑えられても、ツケは国民に回ってくるでしょう」

【8】輸送業や製造業

ガソリンを多く使うトラック輸送やタクシーなど、またエネルギーを使って機械を動かす製造業なども、コスト増加は必至だ。そして配送と無縁な産業はないので、ガソリンの高騰は全産業に波及するだろう。

【9】電気・ガス料金

液化天然ガスなどを輸入する東京ガスでは、1円の円安が6億円の減益要因になるという。6月から政府の補助金廃止と円安が重なり、家計は大打撃を受けるだろう。

■インバウンドの増加で享受できなくなること

【10】観光地のホテル

需要が増え宿泊料が2倍以上になっても、訪日外国人には「日本は安い」。宿泊料が右肩上がりで、日本人は旅行にも行けない。

【11】ビジネスホテル

宿泊料が3倍になったビジネスホテルや、1泊1万円超のカプセルホテルも。「出張手当で泊まれるホテルがない」と嘆く声も。

【12】海外旅行

外国パック旅行の料金は’23年比で7割の値上げ(’24年4月、東京都区部の消費者物価指数)。海外旅行はかなわぬ夢になりそう。

【13】海外での外食

海外旅行が実現しても、ハワイではラーメン1杯3千円、ハンバーガー1個2千円とか。パックごはんなどを持参して、日本人は“海外で自炊”がトレンドに。

【14】各地の名物料理

豊洲の6千980円の海鮮丼が“インバウン丼”と話題。米ドル換算ならチップ込みで約43ドル。高くないようで、さらに高価なプレミアム丼も。日本人には高嶺の花だ。

【15】マンション購入

都内のマンションも外国人には「安い買い物」。需要増→価格上昇→それでも売れてさらに高騰。日本人に買えない億ションばかりに。

【16】コンビニ

日本に進出する外国企業は、高時給で周辺からの転職を誘う。人材が流出した企業は人手不足、倒産の危機に。近くのコンビニがバタバタ閉店に追い込まれることも。

【17】介護などの福祉ケア

外国人労働者は円安の日本で働いてももうからないので、日本に来ない。外国人の労働力に依存する産業は存続すら危うく。特に介護産業など、なくなると地域で暮らせなくなる高齢者が増える。

■見えづらいが確実に波及効果のある事象

【18】貯蓄の目減り

円安による物価高がお金の価値を低下させ老後資金が目減りする。「投資でもうかる保証はないし金利も上がりません。個人は節約して貯蓄を増やすしかありません」

【19】日本企業の価値の減少

企業の時価総額も円安で安くなる。外国人に勤め先が乗っ取られた挙げ句のリストラが現実問題に。

【20】増税

円安で物価が上がると消費税が増え、賃上げで所得が上がると所得税や社会保険料も増える。政府には“インフレ増税”がかなう好機だが、国民には物価高と隠れ増税のダブルパンチだ。

円安は全方位から家計を苦しめる凶器といえよう。岸田首相に国民の困窮は見えないのだろうか。