7月18日から8月31日まで、都内で開催されている展覧会「恐怖心展」。昨年10万人の動員を記録した「行方不明展」の続編にあたる内容で、連日多くの客が訪れ、賑わいを見せている。
大森といえば、同局で手掛けたホラーテイストのフェイクドキュメンタリー番組『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』(‘21年)や『このテープもってないですか?』(’22年)が話題を呼び、昨年からは不定期のフェイクドキュメンタリー特別番組『TXQ FICTION』を立ち上げるなど、ホラー業界を代表するクリエイターの1人だ。
昨年公開された映画『変な家』が興行収入50億円超えの大ヒット、8月に実写映画も公開される小説『近畿地方のある場所について』が発行部数70万部を記録するなど、ここ数年ホラーが大流行している。そこで、大森にホラーブームへの思いや、恐怖心展について話を聞いた。
現在のホラーブームについて、「正直全く想像していなかったですね」としつつ、「この数年で一気にジャンルとして進化したというか、受け入れられ方には目を見張るものがあると思います」と明かした大森。その上で、ホラーが人々の心を掴む理由についてこう分析する。
「嫌なことや苦しいことが多い今の時代のなかで、自らが感情を持ってコンテンツを感じきることが、みんな億劫になってきている時代だと思っています。現実世界で誰も怖い思いをしたくないし、嫌な思いもしたくないから、『不気味なもの』や『怖いもの』といった感情自体をアウトソーシングしたい時代に来ているというか。概して、基本的にみんな嫌なことが多い時代になってきてるっていうことが、やっぱりいちばん大きいと思いますね」
ホラーブームに影響を与えたひとつの存在として、大森は前述した映画『変な家』の同名原作小説の著者である雨穴氏や梨氏を輩出した“ゆるく笑えるコンテンツ”を届けるWEBメディア「オモコロ」の存在をあげる。“紙一重”と言われることもある「笑い」と「恐怖」の関係については、こう考えているようだ。
「紙一重かどうかはちょっとよくわからないと思うところもあるんですけど、どちらかというと僕は球体的なイメージを持っていて。ある一点を超えた笑いはホラーに繋がっていって、怖すぎるものは面白いものに繋がっていくという。
■ホラーブームを陰から支える“考察ブーム”の存在
ホラーの楽しみ方の一つとして、散りばめられた謎を考察しながら楽しんでいる人も多い。実際、大森が手掛ける『TXQ FICTION』シリーズでも、ブログ上で自身の考察を発表している人も少なくない。果たして、大森は作り手として考察をどのように捉えているのだろうか。
「考察自体がバイラルしていって番組を盛り上げていただいている面もありますし、そういう楽しみ方を否定するつもりは全くありません。ただ、僕は考察の楽しみ方がわかっていないからか、あまりそこに興味がないんです。作り手が考察に頼りすぎることは、陰謀論を広めるメソッドと近しいように感じています」
近年はSNS上などでも「陰謀論」が至る所で浸透している。フェイクドキュメンタリー作品でありながら、『TXQ FICTION』とあえて番組名で“フィクション”と謳っているが、そこには大森の作り手としての“矜持”があるようだ。
「本当は繋がってない2つのピースを、恣意的に結びつけて、そこに物語性を見出すことが陰謀論だと思っています。その行為は確かにすごく面白かったりするんですけど、僕がとにかく“フィクションを作りたい”とすごく思っているのは、そこに対抗したいって気持ちがあって。
ネットで見る情報も、一つ一つそれが陰謀論なのか真実なのかを精査しようもなくなっている段階で、完全なポストトゥルースの時代になっているなと。真実と虚構が全く見分けがつかなくなっている世の中で、真実かフィクションかわからないコンテンツに対して、『面白いんだっけ』という気持ちがあります。
■恐怖心展を通して考えること
そんな大森が手掛けた今回の「恐怖心展」。音、匂い、ビジュアルなどに対して人々が抱く様々な「恐怖心」を展示した展覧会だが、今回なぜ“恐怖心”をテーマにしようと思ったのだろうか。
「例えば嬉しかったりテンションがあがる瞬間って、バリエーションがあまりないように感じていて。お金とか名誉とか、『何かを得る』ということにほとんどが帰結すると思うのですが、恐怖心にはそういった統一感が一切ないっていうのが面白いと思ったんですよね。例えば命の危険はないけど『高いところが嫌だ』『集合体が嫌だ』とか、それは本当に人それぞれですし、統一もできない不確かなバラバラさがかなり人間的で面白いなと。なので恐怖症をまず600ぐらい集めてから厳選して、ひとつひとつの恐怖にリアリティを持たせて組み立てる、ということを今回の展示ではかなり意識しましたね」
開幕から2週間にして多数の来場者を獲得している同展だが、最後に今後の展望について明かしてくれた。
「今回の恐怖心展は海外に持っていけるフォーマットではないかと考えています。恐怖心自体は人類が始まった時からあるものだと思っていて、人間がどんどん進化するにつれてどんどんいろんな恐怖心が増えていき、特にSNSが誕生してからは自分の顔に対する恐怖心や『FOMO(編集部注:Fear Of Mssing Outの略)』と呼ばれる、SNSとかで情報に取り残されることに恐怖を覚える人とかも出てきているわけです。そういう時代や地域によっての恐怖っていうものを展示する、というフォーマットはもしかしたら世界に行けるかもしれないと思っています」