作家デビューから10年。最新作『あの子のかわり』(河出書房新社)では妊娠や出産をめぐる葛藤を描いた、セクシー女優の紗倉まなさん。


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 作品に込めた想いと、女性たちの間に横たわる、見えない「分断」について聞いた前編に続き、本記事では、作家そしてAV女優として、自らの立ち位置を問い直し続ける理由や、執筆の意外なルーティンについても詳しく聞きます。

「産む理由」より「産まない理由」を求められる

「なぜAVに出たの?」と「なぜ産まないの?」は似ている――紗倉まなが語る“理由を求められる窮屈さ”
紗倉まなさん
──最新作『あの子のかわり』を書かれるなかで、妊娠や出産への考えに変化は生まれましたか?

紗倉
:この小説を書くにあたって、出産を経験した女性たちから詳しくお話を聞く機会が何度かあったんです。私自身の根本的な考えは変わらないけれど、具体的な話を聞けば聞くほど、そして年を重ねれば重ねるほど、「妊娠や出産って簡単には語れない話だな」とますます強く感じました。

私自身、今は子どもを持つことにあまり積極的ではありません。けど、だからといって「絶対に産まない」と決めたわけでもなくて。ただ、なんとなく日々感じるのが、「産む理由」についてはさほど問い詰められないのに、「産まない理由」については尋ねられること。体の事情もあることなのでそう簡単には聞かれませんが、たまに「なんで? 産みたくないの?」と聞かれると、そのたびに、相手が納得してくれるような言葉を繰り出さなくてはならない。

これ、妊娠や出産の話と重ねることではまったくないんですが、この質問って「なんでAVに出たの?」というこれまでずっと投げかけられ続けてきた質問と、構造が似ているなとも思うんです。

「なぜAVに出たの?」と「なぜ産まないの?」は似ている

「なぜAVに出たの?」と「なぜ産まないの?」は似ている――紗倉まなが語る“理由を求められる窮屈さ”
紗倉まなさん
──「なんでAVに出たの?」という質問も、聞かれた側はすべての人が等しく納得する答えを差し出さなきゃならない空気がありますよね。私も紗倉さんに同じ質問をした経験がありますが(笑)、答えるほうは大変な質問だなと思います。

紗倉
:これ、すごく難しい話なんですけど、もしも18歳の私が、今みたいにいろいろと考えていたら、AV業界に入らなかったかもしれないなと思うんです。

もちろん、これから新しくAVの世界に入ろうとする人には、メリットもデメリットも全部含めてきちんと知った上で、なるべく傷つかないでほしいと勝手に願ってしまいますし、AVの仕事を無責任に勧めたいわけでは決してありません。

ただ、もしも今の思考過多な私が、もう一度あのスタートラインに立って決断を迫られたら、きっと足がすくんでやらない道を選んでいると思うんです。

人生の中には大縄跳びみたいに、どこかで「エイッ」と飛び込む力が必要な場面って何度かある気がします。
私の場合、AV業界には飛び込んだけど、出産に関しては自分を解放して飛び込むタイミングを多少なりとも逃してしまったんだな、と今は感じていますね。

作家活動10年目。執筆メンタルを支える「神スポット」

「なぜAVに出たの?」と「なぜ産まないの?」は似ている――紗倉まなが語る“理由を求められる窮屈さ”
紗倉まなさん
──作家活動をはじめて10年目。執筆活動についても、以前とは向き合い方がだいぶ変わってきたそうですね。

紗倉
:以前の私は、書いた先から大量に文章を削ったり、大幅に修正したりすることも珍しくなかったんです。でも今回は、テーマそのものは重い一方で、とても楽しく書き進めることができました。

やはり大きかったのは、担当編集者さんの存在ですね。作品に対して自分が抱いている熱量と同じか、それ以上の熱量で編集者の方が言葉を返してくださることが、何よりの励みになりました。「豚もおだてりゃ木に登る」じゃないですが、私も担当編集者さんに褒められて木に登り始めるような……そんな高揚感もありました(笑)。

これまではずっと、書くことは孤独な個人戦だと思い込んでいたんです。けれど良い点や改善すべきポイントを具体的にフィードバックしてもらえることが、執筆の道しるべになった気がします。

──書くためのルーティンはあるんですか?

紗倉
:メンタルを整えるために、作業場には自分の好きな神様だけを集めた「神スポット」があるんです。
ネットで神札スタンドを買って、自分に向けて書いた「書け!」という紙や、担当編集さんからいただいた、「天才です!」という嬉しいメールも一緒に飾っています。締め切り前の苦しい時期には、それらを眺めてなんとか気持ちを奮い立たせてきました。

まあ、その神棚についても母が、「方角が悪い!」「神を雑にまとめるな!」なんて言ってきて、また口喧嘩になったこともあるのですが……(苦笑)。

「女性性を売る立場」という矛盾。AVと小説の両方に救われた

「なぜAVに出たの?」と「なぜ産まないの?」は似ている――紗倉まなが語る“理由を求められる窮屈さ”
紗倉まなさん
──紗倉さんは長年、「本業はエロ屋」と公言されていますね。小説のお仕事とAVのお仕事、ふたつの相互作用や好循環はありますか?

紗倉
:この仕事をしていると、「女性としてのあり方」を嫌でも突きつけられるんです。

AV女優としては、「女性性を商品として売る立場」であるがゆえに、AV以外の場所で「女性ならではの苦しさ」を語ろうとすると、「お前は男性の需要があって成立している仕事だろ!」という声が必ず飛んでくる。

そのたびに自分は、「矛盾を抱えた立場なんだ」と痛感させられるんです。そしてその両方の思いが併存することがおかしいという見立てや風潮にも、違和感を覚えています。また、両方のお仕事で、「お前はこれから、どうやって生きていくつもりなんだ!」と、ずっと滑稽なものを見られているような感覚が常にありますね。

ただ、そういった葛藤を抱いて自分の感情を見つめ直す作業は、必然的に書くことへと繋がるように感じますし、今は、AVと小説のお仕事の双方に苦しんで、それでいて救われていますね。自分自身を内省するのは、私にとっては生きていくためにどうしても必要な作業です。
だからこそ、この先もきっと書き続けていくのだな、と感じています。

<取材・文/アケミン 撮影/星亘>

「なぜAVに出たの?」と「なぜ産まないの?」は似ている――紗倉まなが語る“理由を求められる窮屈さ”
紗倉まなさん


【アケミン】
週刊SPA!をはじめエンタメからビジネスまで執筆。Twitter :@AkeMin_desu
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