窓の外を転がる黒い物体
黒木豆華さん(仮名)が語るのは、母が高速道路で経験したトラブルだ。黒木さんの地元は田舎の雪国であり、GW期間中も高速道路がひどく混雑することはない。目的地は隣県。最寄りのインターから高速へ乗り、約1時間半走り続ける予定だった。
季節はGW、冬用のスノータイヤからノーマルタイヤへの交換を済ませ、初めての遠出に出かけたタイミングだった。タイヤ交換は毎年ガソリンスタンドのプロに依頼していたため、母はまったく不安を感じていなかったという。
異変が起きたのは、最寄りインターから2つめのインター手前あたりだった。左車線を走行していると、運転席の窓の外を、黒い物体が前方へ転がっていった。よく見ると、それはタイヤだった。
幸いなことに、右車線にも後続にも車はなく、前方車両とも十分な距離があった。母は「どこから来たタイヤだろう」と考えた瞬間、車体がガタンと大きく傾いた。
「あのタイヤは、私の車のものだ……」
傾いた車体が、すべてを物語っていた。前方のタイヤは、自分の車から外れたものだったのだ。「あのタイヤは、私の車のものだ……」
母はすぐに冷静さを取り戻し、まだ制御できるうちに車を路側帯へ停車させた。
「まだ住んでいる市内を出たばかりの出来事だったので、迎えにも行きやすかった。不幸中の幸いだったと思います」と黒木さんは振り返る。
そしてこう続ける。
「ケガなく帰ってこられたことも、奇跡だと思っています」
右車線に車がいれば、後続に車がいれば、あるいは前方車両との距離が近ければ……。状況が少し違うだけで、深刻な接触事故につながっていた可能性は十分にある。高速道路を走る車から外れたタイヤが、どれほどの危険物になりうるか、想像するだけで背筋が冷たくなる。
二重のチェックが習慣に
タイヤ交換をプロに依頼していたにもかかわらず脱輪が起きてしまった。スノータイヤからノーマルタイヤへの交換は、雪国では毎年春に行われる恒例作業なのだとか。ガソリンスタンドや整備工場などのプロに任せれば安心、と考えるドライバーは多いはずだが、作業後に走行を重ねるうちにナットが緩んでくるケースがあることは、見過ごされがちなリスクだ。
この体験以来、黒木さんの家では、プロによるタイヤ交換のあとも自分たちでナットの緩みがないかを確認し、空気圧が適切かどうかをチェックするようにしたという。
「高速道路に乗るたびに、あの出来事を思い出してしまいます」と黒木さんは言う。
スノータイヤを使う習慣のある地域では、毎年春と秋にタイヤ交換が発生する。つまり、脱輪のリスクと向き合う機会も、年に2度必ず訪れるということだ。
タイヤ交換後の確認は、専門的な知識がなくてもできる。ナットに手をあててガタつきがないかを確かめること、タイヤの空気圧を数字で確認すること——いずれも数分でできる作業だ。
黒木さんの母が体験した脱輪は、田舎の高速道路だったからこそ、奇跡的に無事で済んだ。交通量の多い都市部の高速道路や、後続車との距離が近い状況であれば、結末は大きく異なっていたかもしれない。黒木さんは、この体験をぜひ教訓にしてもらいたいと語る。雪国に住んでいる人は、GWの長距離ドライブ前に確認してみて欲しい。
<構成/藤山ムツキ>
【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。
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