公演では歌手や児童合唱団が台湾原住民(先住民)の言語や台湾語(閩南語)、客家語で歌ったほか、伝統人形劇の「布袋戯」(ポテヒ)やパーカッション、ダンスなどのアーティストが出演した。
これらの演目や幕間の呼吸までもを音楽でつなぎ合わせた卓さんは、中央社の記者に対し「私の役割は、作品同士を縫い合わせる針と糸のようなものです」と語る。
「神将が島を護(まも)る巡行」と題した場面では、台湾で信仰される神々を現代風にアレンジした「電気神将」と、打楽器奏者が共演した。卓さんは打楽器の演奏を録音して音楽に組み込み、舞台で電気神将が歩くのと同時に、観客が生の打楽器演奏と録音された打楽器を同時に聴けるよう工夫した。演出に立体感が生まれた。さらに銅鑼(どら)や太鼓、爆竹などの音も用いて寺廟の雰囲気を再現した。
大学の音楽学科で作曲を専攻した卓さん。作曲を学んで何ができるのかを大学時代から考えており、先輩たちが大学院に進んだり、留学したり、教師を目指したりする姿を見つめ続けた。彼らの選択を否定しないとした上で「自分はもっと好奇心が強く、他の可能性をずっと探していた」と語った。
大学3~4年の時、学校に劇場芸術学科が新設された。卓さんはその頃学び始めたコンピューター音楽制作を実践する機会だと考え、劇場音楽を手がけるきっかけになった。卒業後も多くの劇団と関わり、映像やポップ音楽の編曲にまで仕事が広がったと振り返った。
さまざまな試行錯誤を繰り返して経験を積み重ねていくうちに、今の創作は人々と共に一つの作品を完成させるものだと理解するようになったという。立場ごとにそれぞれの責任があり、照明や衣装、舞台設計などにそれぞれの役目があるとした上で、バランスが最も大切だと語り、さらに観客に余裕があれば、裏方の優れた部分にも目を向けてもらえるのだと話した。
(王宝児/編集:田中宏樹)