耳垢でストレスレベルを測定できるツールが登場/iStock
ストレスはどうやら耳ににじみ出ているようだ。
イギリスの研究グループが新たに開発したツールは、耳垢からその人が日頃抱えているストレスレベルを測定することができるという。
ストレスは心身に様々な問題を引き起こす。このツールを使えば、うつ病をはじめとするストレスに起因する症状の診断が手軽に行えるというのだ。
【ストレスの大きさを客観的に知る方法】
ストレスを受けると、副腎からはストレスホルモンと呼ばれる物質「コルチゾール」が分泌される。
コルチゾールは「闘争・逃走反応」を制御するためのホルモンで、ストレスを感じる危機的な状況に陥ったとき、血糖や血圧を上げるなどして、体が対応できるようにリソースを今もっとも必要としている部位に分配するという役割を担っている。
そのために体内にあるコルチゾールの量は、ある人が抱えているストレスを客観的に把握するバイオマーカーになる。
これをきちんと測定することができれば、ストレスが原因で起きるうつ病や、クッシング症候群やアジソン病といったコルチゾールの過不足に起因する病気を診断するために利用することができる。
だが生憎なことに、コルチゾールを測定する手軽で信頼性の高い方法は今のところない。
コルチゾール検査としては、毛髪に含まれる量を測定するのが一般的なのだが、これはコルチゾールの変化に敏感すぎるので、一度の検査では普段から抱えている慢性的ストレスを正確に知ることができない。
それだけでなく、時間がかかる上に高価だ。また人によっては、検査できるだけの髪の毛がない場合もある。
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【抗菌作用のある耳垢で自宅でお手軽に検査】
そこでUCL認知神経科学研究所のアンドレス・ハレン・ヴィヴェス博士らが目をつけたのが、耳垢だ。
ヒントになったのは、ミツバチの巣であるという。
ミツバチの巣を構成する蝋は、抗菌作用があることが知られている。ハレン・ヴィヴェス博士らは、耳くそにも似たような性質があると考えた。
また耳垢に含まれるコルチゾールは、髪の毛に比べると安定しているらしことも分かっていた。
こうした性質を利用すれば、自宅で一人で耳くそを採取しても、細菌などで汚染されることのないまま専門機関に送り届けて検査できる。信頼性が高く、手軽だし、コロナ禍の現在、いちいち病院に行かなくても診断できる方法は望ましい。
そして考案されたのが、この新しい耳垢採取ツールだ。
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image by:UCL
使い方は簡単、溶液がついた有機素材スポンジで、耳垢をほじくるだけ。これで耳垢を採取したら、あとはそれを病院などに郵送で送り届けて、診断結果を待てばいい。
先端には返しのようなストッパーがついており、奥に突っ込みすぎて耳を痛めてしまうこともない(これだけでもコルチゾールに影響する)。
【効率的で信頼性の高い耳垢ストレス診断】
パイロット実験では、まず最初に37名から耳垢をシリンジで採取(一般的な採取法だが多少の苦痛をともなう)。
その1か月後に再度、片方の耳からシリンジで、もう片方の耳からは新型ツールで耳垢を採取。そのサンプルからコルチゾールの量を測定した。
その結果を髪の毛を使った診断法と比べた場合、素早く、安価で、かつ信頼性が高い方法であることが確認されたとのことだ。
また耳垢による診断は、アルコールのようなコルチゾールに影響する要因によって受ける影響も比較的小さかったという。
なお新しい診断ツールは、ストレスレベルだけでなく、新型コロナウイルスの抗体やブドウ糖の検査にも応用できる可能性があるとのこと。
ハレン・ヴィヴェス博士は現在、スタートアップを設立し、この新型採取ツールの市販化へ向けて準備を進めているそうだ。
この研究は『Heliyon』(11月1日付)に掲載された。
References:ucl/ written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:ストレスは耳から。
耳垢でストレスレベルを診断できるツールが登場(英研究) http://karapaia.com/archives/52296416.html