これまで、約5億3500万年前のカンブリア紀の海で、複雑な体を持つ動物が形作られ始め、現代生命の最初の痕跡を残したと考えられてきた。
だがそれよりも古い、中国南西部のエディアカラ紀(約5億3900万年前)の海底だった地層から、複雑な特徴を持つ動物の化石が発見された。
雲南大学やオックスフォード大学などの研究チームによると、ある化石には口と摂食(せっしょく)に適した体構造が見られ、これらの動物は、カンブリア紀以前の海にすでに存在していた可能性が高いという。
この研究成果は『Science[https://www.science.org/doi/10.1126/science.adu2291]』誌(2026年4月2日付)に掲載された。
5億3900万年前の海で起きていた「動物の起源」
地球の歴史において、複雑な体を持つ動物たちが海の中に一斉に現れた時期は約5億3500万年前の「カンブリア爆発」と考えられてきた。
もちろん、それ以前にも生物は存在したが、それらは現代の動物とは姿形が大きく異なり、直接的なつながりは不明だった。
中国雲南省の江川にある地層は、以前からエディアカラ紀(約6億2000万年前~約5億4200万年前にあたる原生代最後の地質時代)の藻類の化石が豊富な場所として知られていた。
そして今回、雲南大学の叢培允教授や範巍准教授、そしてオックスフォード大学の研究チームは10年近い調査の末、同じエディアカラ紀の地層から700点を超える大量の化石を発掘した。
そこに複雑な動物が含まれていることを突き止め、江川生物群(約5億5400万年前~5億3900万年前)と名付けた。
大きさはわずか 1~2cm ほどだが、そこにはエディアカラ紀特有の生物と並んで、カンブリア紀に繁栄したはずの「現代に近い特徴を持つ動物」が共存していたのだ。
この発見により、複雑な生命が海で誕生した時代は、少なくとも400万年以上さかのぼることになった。
ヒトへと続く「背骨を持つ動物」もすでに誕生していた?
今回の発見のすごいところは、エディアカラ紀の海に、現代の動物の「体の基本設計(動物門)」を備えたグループがすでに存在していたことを示した点にある。
これまでの研究でも、クラゲやイソギンチャクに近い原始的な「刺胞動物」の仲間ハオオーティア(Haootia)などは、エディアカラ紀から存在したことが知られていた。
しかし、今回見つかったのは、それよりも遥かに複雑な進化を遂げた「後口動物(新口動物)[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BE%8C%E5%8F%A3%E5%8B%95%E7%89%A9]」や、体の左右が同じ形をした「左右相称動物[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B7%A6%E5%8F%B3%E7%9B%B8%E7%A7%B0%E5%8B%95%E7%89%A9]」の証拠だ。
新口動物には、現代のヒトデやウニ、さらにはヒトや魚などの脊椎動物へとつながるグループが含まれる。
また、左右相称動物は、昆虫やエビなどの節足動物や、ミミズなどの環形動物を含む広大なグループの総称だ。
化石の中には、U字型の体を海底に固定し、触手を使ってエサを食べる高度な仕組みを持つものや、内臓を備えた虫のような姿のものがいた。
オックスフォード大学のフランキー・ダン博士は、これらがエディアカラ紀にいたということは、背骨の元となる構造を持つ「脊索動物[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%84%8A%E7%B4%A2%E5%8B%95%E7%89%A9]」もこの時期にすでに誕生していたはずだと指摘している。
奇跡の保存状態が複雑な動物の存在を解き明かす
なぜ、これほど重要な動物たちが今まで見つからなかったのだろうか。
それは、エディアカラ紀の化石が「砂の押し型」としてしか残らないことが多く、体の内部までは詳しく分からなかったからだ。
そのため、多くの化石は動物ではなく、植物の仲間である「藻類[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%97%BB%E9%A1%9E]」だと勘違いされてきたのである。
しかし、「江川生物群」が含まれる地層の条件は特別だった。
生き物が死んだ直後に泥に深く埋まったため、体の組織が「炭素の薄い膜」となって残ったのだ。
カナダの有名な「バージェス頁岩」と同じ非常に優れた保存状態だったのだ。
オックスフォード大学のロス・アンダーソン准教授は、この特別な条件のおかげで、口や消化器、移動するための器官といった細かな構造が観察できたのだと説明する。
これまで「いない」と思われていたのは、単に化石として残らなかっただけだったのかもしれない。
エディアカラ紀とカンブリア紀を繋ぐ進化の連続性
これまで、エディアカラ紀の生物たちは一度「大量絶滅」によって姿を消し、その後に全く別の新しい動物たちがカンブリア紀に現れたという「生物の入れ替わり説」が一般的だった。
だが、今回発見された江川生物群は、古い時代の生き物と現代に繋がる新しい動物たちが同じ海で肩を並べて暮らしていた、いわば「時代の境目」の証拠であることを示している。
生命の進化は、カンブリア紀に突如として加速したのではなく、それ以前の時代から連続的に進んでいたと考えられる。
オックスフォード大学のルーク・パリー准教授は、「初めてこれらの標本を見たとき、全くユニークで予想外のものだと確信した」と語る。
中国の海底で見つかった小さな化石は、私たち人間を含むすべての動物が歩んできた、5億年以上も前の「はじまりの物語」を、新しく書き換えようとしている。
References: Spectacular fossil treasure trove pushes back origins of complex animals[https://www.earth.ox.ac.uk/article/spectacular-fossil-treasure-trove-pushes-back-origins-complex-animals] / pectacular fossil treasure trove pushes back origins of complex animals[https://www.eurekalert.org/news-releases/1121553] / The dawn of the Phanerozoic: A transitional fauna from the late Ediacaran of Southwest China[https://www.science.org/doi/10.1126/science.adu2291]











