大型のアリたちが、小型のアリが住む巣を訪れ、体を舐めて掃除してもらうという行動が世界で初めて確認された。
これは、スミソニアン国立自然史博物館の昆虫学者マーク・モフェット氏が米アリゾナ州の砂漠で観察したものだ。
大型アリは寄生虫などを取り除いてもらい、小型アリは体に付着した食べかすを得ているとみられ、異なる種のアリがこのような関係を結ぶことは昆虫界ではこれまであまり知られていなかった。
この研究成果は『Ecology and Evolution[https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ece3.73308]』誌(2026年4月12日付)に掲載された。
異種のアリたちの奇妙な光景を目撃
スミソニアン国立自然史博物館の研究員でアリの社会生物学を専門とする昆虫学者マーク・モフェット氏は、米アリゾナ州南東部、チリカワ山脈の麓の乾燥した砂漠地帯に、調査のために訪れていた。
ある朝、周囲を眺めていると、赤みがかったアリたちが巣から出て種子を集めているのが目に入った。モフェット氏は急いでカメラを構えた。
これはアカシュウカクアリ(Pogonomyrmex barbatus)と呼ばれる種だ。
北米南西部の砂漠や草原に生息し、主食は種子で、大きな顎で種子をすりつぶして巣に集める習性をもつ。
体長5~7mmと、最大で10mmに達するアリの中では比較的大型の種だ。強力な毒針を持ち、刺されると激しい痛みを伴うことでも知られている。
よく見ると、そのうちの何匹かが全く動かなくなっていることに、モフェット氏は気が付いた。
常に動き回るはずの働きアリが静止するのは奇妙である。
モフェット氏がカメラでズームインすると、立ち止まったアカシュウカクアリの体の上に、小さなアリが何匹か乗っているのが見えた。
その小さなアリは、体長3~4mmほどのカタアリ亜科Dorymyrmex属で、巣の入口周辺に円錐状の土盛りを作ることからコーンアントとも呼ばれている。
Dorymyrmex属はいずれも毒針を持たず、砂漠のような昼間の高温乾燥した環境でも活発に動き回ることができる。
今回、アカシュウカクアリの体に乗っていたコーンアントは、Dorymyrmex属の中でもまだ学名がつけられていない未記載新種だった。
大型アリが小型アリの巣に通い、体を掃除してもらう
モフェット氏が数日間にわたって観察を続けたところ、少なくとも90匹のアカシュウカクアリがコーンアントの巣を訪れていることがわかった。
その行動には一定のパターンがあった。まずアカシュウカクアリが自らコーンアントの巣に近づき、顎を開いたまま脚を張って体を高く持ち上げた姿勢でじっと静止する。
アカシュウカクアリの働きアリはすべてメスだ。
すると1分以内にコーンアントが巣から出てきて、大きなアリの体によじ登り、舌状の口器を使って全身を丹念に舐め始める。
多いときには1匹のアカシュウカクアリに対し、5匹のコーンアントが同時に乗り込み、鋸歯状の顎に入り込み、隙間までくまなく舐め回した。
この行動は15秒以下で終わるものもあれば、5分以上続くものもあった。
アカシュウカクアリは噛みつくことなくじっと静止し続け、満足すると体を激しく揺すってコーンアントを振り落とし、勢い余って自分が仰向けになることもあった。
「最初は攻撃行動だと思った。しかし大きなアリのほうから小さなアリの巣に近づき、舐めてもらっていたのだ」とモフェット氏は語っている。
海の掃除魚と同じ関係にあるのか?
この行動がモフェット氏の目を引いたのは、海で知られるある共生関係と驚くほど似ていたからだ。
サンゴ礁には「クリーニングステーション」と呼ばれる決まった場所があり、ホンソメワケベラなどの掃除魚やエビが、大型魚の体表に付いた寄生虫や傷んだ皮膚組織を食べてきれいにする。
掃除される側の魚は口を開けたり体を斜めに傾けたりして掃除を受け入れる合図を送り、サメのような捕食者でさえおとなしくクリーニングを受ける。
掃除魚の中には、コーンアントと同様に顎の中まで入り込んで掃除するものもいる。
今回のアカシュウカクアリとコーンアントの関係は、まさにこの関係の陸上昆虫版といえる。
大型アリが自ら小型アリの巣を訪れ、顎を開いて静止するという行動は、掃除を受け入れる合図そのものだ。
強力な毒針と大きな顎を持つアカシュウカクアリは、本来ならコーンアントを攻撃できる存在である。
にもかかわらず、顎を開いたままおとなしく掃除させていることに、モフェット氏は驚いた。
昆虫でこのような種間の掃除共生が記録されたのは、これが初めてだという。
共生関係が成り立っているのか?
コーンアントとアカシュウカクアリは持ちつ持たれつの関係にあるのか。モフェット氏はその可能性が高いとみている。
コーンアントが大型アリの体表からしごき取った、種子のかすなどカロリーの高い微細な食べかすを摂取しているとみている。
アカシュウカクアリは大きな顎で種子をすりつぶして巣に貯蔵しており、体表には種子の細かなかすが付着しやすい。
実際、モフェット氏が巣の外に置いたアカシュウカクアリの冷凍標本に、コーンアントは見向きもせず、生きたアカシュウカクアリにしか近づかなかった。
一方、アカシュウカクアリにとっても利点がある。
アリは通常、同じ巣の仲間と互いに毛づくろいをして寄生虫や病原菌の胞子、ゴミを取り除く。
しかし体の小さなコーンアントであれば、大型の仲間では届かない細かな部分まで掃除できる可能性がある。
ただし、これはあくまでも推測の段階に過ぎない。
コーンアントの掃除がアカシュウカクアリの感染率を下げるのか、あるいはどちらかのマイクロバイオーム(体内や体表に生息する微生物の集まり)を改善するのかを明らかにすることが今後の課題だとモフェット氏は指摘している。
自然の中には、予想だにしない驚くべき発見が待ち受けている。細心の注意を払って小さなものに注意を向けることで、それを知ることができるのだ。
References: The First Cleaner Ant? A Novel Partnership in the Arizona Desert[https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ece3.73308] / Smithsonian research associate discovers ants assemble to be picked clean by ‘cleaner’ ants, a novel insect behavior[https://www.eurekalert.org/news-releases/1123748] / Smithsonian Research Associate Discovers Ants Assemble To Be Picked Clean by ‘Cleaner’ Ants, a Novel Insect Behavior[https://www.si.edu/newsdesk/releases/smithsonian-research-associate-discovers-ants-assemble-be-picked-clean-cleaner]











