波間に漂う紫色の発光キノコ?波に揺られて青緑色に光り輝く「海のエイリアンマッシュルーム」の正体がSNSで反響を呼んでいる。
その見た目から「海の肝臓」 とも称されるウミシイタケ(学名:Renilla reniformis)は、実はクラゲやイソギンチャクに近い軟体サンゴの一種で、生物発光(バイオルミネセンス)する性質を持つ。
アメリカ・カリフォルニア州の海岸で発見されたユニークな海洋生物。研究者も注目のウミシイタケにせまっていこう。
紫色のキノコ?実はサンゴのウミシイタケ
2026年3月、南カリフォルニア在住のグレタ・エスクリッジさんが、地元の海岸で紫色のキノコのようなものを発見。
さらに驚くことに、それは波に揺れては緑色に光り輝くという。
「最初はキノコかと思った」というエスクリッジさん。
だが、まもなく西半球の海域に生息する軟体サンゴ(ソフトコーラル)の一種、ウミシイタケ (英名:Sea Pansy )であることに気づき、インスタグラムでさっそくシェア。
英名の直訳なら「海のパンジー」。紫色のパンジーの花をイメージして命名したのだろう。
サンディエゴ在住のアーティスト、モーガン・ホフマンさんも、海のパンジーとしてインスタグラムにシェア。「見つけたら海に戻してあげて!」とコメントしている。
「海のエイリアンマッシュルーム」「海の肝臓」の異名も
一方、地元シュノーケリングのツアー企業アロハ・ツアーズが、インスタグラムでこのサンゴの動画と絶妙な呼び名を紹介していた。
私たちはそれを”海のエイリアンマッシュルーム”と呼んでました
確かにそっちのほうがしっくりくる。初見はキノコと言ってもキクラゲ系かと思ったが、普通に生えるキノコの柄(え)や襞(ひだ)にしかみえない部分もあるし。
これが夜の海で緑に光っているのを見かけたら「よその星のキノコかな?」ってなる。
さらに漁師の間では「海の肝臓(sea liver)」と呼ばれたりもしているそう。生々しいネーミングだが、表面の質感や色的に肝臓っぽくも見えるのか。
キノコよりクラゲやイソギンチャク系
ウミシイタケの大きさは5~10cmほど。色は紫色をしている。刺胞動物門 花虫鋼 八放(はっぽう)サンゴ亜綱ウミエラ目に属するサンゴの一種だ。
他のサンゴ同様、ポリプと呼ばれる小さな個体が集まって形成されるコロニー(群体)生物であり、実際は菌類のキノコより、クラゲやイソギンチャクに近い。
サンゴといえば、炭酸カルシウムでできた石灰質の硬い骨格を形成するサンゴ(ハードコーラル)を思い浮かべるかもしれない。
対してこちらのウミシイタケは柔らかく、骨格を形成しない軟体サンゴ(ソフトコーラル)に属する。
独特の紫色の質感は、体内に散在する骨格材料、主に炭酸カルシウムでできた微細な骨片(こっぺん)によるものだそう。
生息域は西半球の暖かい大陸棚の海域。特に北東フロリダでは強い風や荒波の後に砂に埋もれた状態で浜へ打ち上がることが多い。
また、干潮時には砂に完全に埋まった状態で生息していることもあるそう。
ポリプたちの“共同体”として生きる
ウミシイタケを構成するポリプは様々な種類があり、それぞれが異なる役目を持つ。
”柄”のような部分は、単一の巨大なポリプ。
”傘”の大部分はイソギンチャクにあるような、摂食ポリプとよばれるたくさんの小さなポリプで形成されている。
それぞれが粘液を分泌し、網のように広がる粘りにかかったプランクトンを触手と刺胞で捕食する。
摂食ポリプの隙間に散らばる小さな白い点もまたポリプで、収縮した群体を膨張させるポンプとして機能し、触手のないポリプが排水バルブの役目を果たす。
このように各ポリプの活動はバラバラだが、消化器系は共有している。天敵はウミウシなどだそう。
生物発光(バイオルミネセンス)で青緑色に光る性質
見た目にも個性的なウミシイタケだが、その最大の特徴が、刺激を受けると光る性質、生物発光(バイオルミネセンス)だ。
波に揺れたりすると緑や青緑色に光り、夜の海で幻想的な姿を見せる。
エスクリッジさんも「水に揺られると緑に光る」と説明してたが、夜ならとりわけ海底に潜む光る宝石のように見えたかも。さらに見ようによってはエイリアン風。未知で不気味にもみえるかな。
インパクトあるウミシイタケはYoutubeでも時折話題に。こちらはフロリダ州 パナセアを拠点とする非営利団体、ガルフ・スペシメン海洋研究所が運営するガルフ・スペシメン水族館からの映像だ。
こっちはけっこう大型で、手でつかむと光るシーンも映っているが、海外ユーザーからはこんな反応が。
- 傷つけないであげて!
- 「つまんだり刺激を与えると捕食者を驚かせたり混乱させる防御反応として発光する」なら、この小さな生物は人間に掴まれて脅威を感じていたということ
- すごい!! 1年くらい前に浜で見つけたことがあるけど、名前の由来を今日初めて知った。まさに驚きの生き物だ
- 科学的でワクワクさせてくれるものは本当に素晴らしい
- なんてクールなんだ!シーパンジーなんて初耳。おかげですごく勉強になった
- 浜に打ち上がった個体の生存確認方法を知りたい
- その種だとわかったこともすごい…
ホタルとわずかに異なるウミシイタケの生物発光メカニズム
生物が光を放つ現象、いわゆる生物発光は、化学反応で生じる。
その光は、「ルシフェリン」という発光物質(光の素、発光基質)と「ルシフェラーゼ」という発光酵素の触媒作用で起こる酸化反応により放出されるもので、ほとんど熱を出さず、極めて効率が良いことで知られる。
またルシフェリンとルシフェラーゼの組み合わせは、生物ごとに種類があり、さらにいえば発光メカニズムにもやや違いがあったりする。
例えばホタルの場合、ホタルのお尻にある「ホタルルシフェリン」と「ホタルルシフェラーゼ」、そして酸素とATP(アデノシン三リン酸)[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%87%E3%83%8E%E3%82%B7%E3%83%B3%E4%B8%89%E3%83%AA%E3%83%B3%E9%85%B8]を必要とする。
ちなみにATPは、「エネルギー通貨」とも呼ばれる。生物の細胞に欠かせないエネルギー供給源だ。
一方、ウミシイタケの場合は、ウミシイタケ由来のルシフェリン、「セレンテラジン」と「ウミシイタケルシフェラーゼ」そして酸素のみ。”ATP依存型”とされるホタルの発光とは異なり、ATPなしで光る。
発光イメージングに役立つ!研究者が注目するセレンテラジン
ウミシイタケが光る仕組みは、生物学の研究でも重要な位置を占めるとされ、サンゴ類の進化を探る意味でも、研究が盛んにおこなわれているそう。
ガルフ・スペシメン水族館によると、ウミシイタケのようなセレンテラジンを使った光は医療分野でも注目されており、生物発光イメージングという形で幅広い用途が見込めるという。
生物発光イメージングとは、生物発光を利用し、細胞や生物そのものを生きた状態のまま、その遺伝子やタンパク質の働きなどをリアルタイムで観察したり追跡する技術。
その用途は多岐にわたり、以下のような応用が挙げられるという。
- 腫瘍治療
- 非侵襲的神経イメージング
- 創薬
- 遺伝子治療
- 疾患診断
- がん細胞追跡
- 遺伝子工学
- ウイルス学研究
なおセレンテラジンは、ウミシイタケ固有ではなく、同じ刺胞動物のクラゲ類や有櫛動物のクシクラゲ類、さらにエビやタコ、魚など、多くの水生生物の体内にあるそう。
生物医学分野でも注目されてるウミシイタケ。ユニークなビジュアルに加え発光と、生態も中身もかなり興味深い。いつか実物を眺めてみたいな。











