大麻草の成分が原料。沸騰した湯にも耐え、1600%伸びるプラスチック代替素材を開発
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 麻の一種で向精神作用がない「大麻草」を原料に、沸騰した湯にも耐え、自重の1,600%まで伸びるプラスチック代替素材が開発された。

 アメリカのコネチカット大学とパデュー大学の研究チームが、石油由来のプラスチックに匹敵する耐熱性と加工性を植物由来素材で初めて実現したものだ。

 マイクロプラスチックによる環境汚染が深刻化するなか、ペットボトルや食品包装の素材を根本から塗り替える可能性を秘めた発見だ。

 この研究成果は『Chem Circularity[https://www.cell.com/chem-circularity/fulltext/S3051-2948(26)00014-9]』誌(2026年4月30日付)に掲載された。

プラスチックが抱える深刻な問題

 毎年世界で生産されるプラスチックの量は4億トンを超え、その大半は使い捨てだ。

 コンビニで買うペットボトルの水、スーパーの食品トレー、宅配の緩衝材。便利さと引き換えに、私たちは膨大な量のプラスチックごみを生み出し続けている。

 問題は量だけではない。ペットボトルなどに広く使われるPET(ポリエチレンテレフタレート)は、製造に大量の石油と天然ガスを必要とする。

 そして廃棄されると紫外線や波にさらされて砕け、5mm以下の微細な粒子「マイクロプラスチック」になる。

 マイクロプラスチックはすでに深海から南極の雪、人間の血液精子にまで検出されており、炎症や細胞損傷との関連が指摘されている。

 科学者たちはPETに代わる植物由来の素材を長年探してきた。

 だが、植物由来のポリマーはほぼ例外なく、PETが持つ2つの重要な特性を再現できなかった。熱に強いこと、そして自在に伸び縮みできることだ。

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大麻草の成分が最適な素材に

 アメリカのコネチカット大学のグレゴリー・ソッツィング教授とパデュー大学のムケレム・チャクマク教授が率いる研究チームは、ついにプラスチック(PET)の代替となる植物由来の素材を開発した。

 研究チームが原料に選んだのは、大麻草の花に豊富に含まれるCBD(カンナビジオール)という成分だ。

 CBDはサプリメントや化粧品の原料として知られるが、もともとは大麻草が持つ天然の化学物質だ。

 大麻草は麻の一種で、日本では縄文時代から「大麻(おおあさ)」と呼ばれ、縄や布の原料として使われてきた歴史がある。

 植物分類学上はマリファナと同じ種だが、覚醒作用をもたらすTHC(テトラヒドロカンナビノール)の含有量が極めて低い産業用品種であり、法律上も用途上もマリファナとは別に扱われている。

 今回使用したCBDはその大麻草から抽出した成分であり、化学反応によってプラスチックに加工された時点で向精神作用は持たない。

 そのため、この素材に触れたり使用したりしてもハイになることは一切ないので心配はない。

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熱に強く伸び縮みするプラスチックの作成に成功

 研究チームはこのCBDをトリホスゲンという化学試薬と反応させ、プラスチックの一種であるポリカーボネート樹脂の合成に成功した。

 ポリカーボネートはCDケースやスマートフォンの画面カバーにも使われる透明で丈夫な素材で、従来はビスフェノールA(BPA)という化学物質から作られていた。

 BPAは体内のホルモンバランスを乱す疑いがある内分泌かく乱物質として知られており、CBDはそのBPAを置き換える安全な原料として機能した。

 完成した大麻草由来のプラスチックフィルムは、ペットボトルや食品包装に使われるPETに匹敵する性能を示しただけでなく、研究チームの予想をも超える特性を持っていた。

 まず注目すべきは伸縮性だ。

 このプラスチックフィルムは自重の1,600%まで伸びる。元の長さが10cmのフィルムなら、160cmまで引き伸ばせる計算になる。

 これは輪ゴムのように弾力があるのではなく、熱を加えることで自在に変形・成形できる「熱可塑性(ねつかそせい)」という性質によるものだ。

 この性質があるため、ペットボトルのような複雑な形状への加工も工場ラインで対応できる。

  次に耐熱性だ。

 このプラスチックフィルムはガラス転移温度が高い。

 ガラス転移温度とは、プラスチックが「硬くてガラスのような状態」から「柔らかくてゴムのような状態」へ変わる境界の温度のことで、この温度が高いほど熱に強いプラスチックといえる。

 沸騰した湯(100°C)に触れても変形せず、乾いた状態を保てることが確認された。天然資源由来のプラスチックでこの特性を持つものは、これまでほぼ存在しなかったとソッツィング教授は言う。

 さらに意外な発見もあった。このフィルムは水をはじく性質が非常に強く、石油系プラスチックの代表格であるポリオレフィン(ポリエチレンやポリプロピレンなど)よりも高い値を示した。

 この特性は、薬を体内の狙った場所に届けるナノ粒子製剤や、医療用カテーテルのコーティング素材としての応用も期待されている。

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普及への課題はあるが大きな可能性を秘めている

 最大の課題はCBDの生産量だ。現在世界で生産されるCBDの量は、PETを全面的に置き換えるにはまだ遠く及ばない。

 また、研究チームはCBDと製造過程で使う試薬トリホスゲンが反応して生じる副産物の安全性についても、引き続き調査中だ。

 機械的な強度をさらに高める改良と、工場規模での大量生産プロセスの確立も、これからの課題として残されている。

 それでも、大麻草という植物が持つポテンシャルは見逃せない。

 大麻草は幅広い気候帯で育ち、水の使用量が少なく、農薬もほとんど必要としない。

 トウモロコシや大豆との輪作にも適しており、農家にとって導入しやすい作物だ。

 衣料・建材・食品としての需要が世界的に高まるなか、大麻草の栽培量は増加傾向にある。栽培が増えればCBDの供給量が増え、コストも下がるとソッツィング教授は見通しを述べている。

 石油から生まれ、環境を汚染してきたプラスチックの歴史を、太古の時代から人間の暮らしを支えてきた植物が塗り替える日がやってくるかもしれない。

この研究でわかったこと

  • 大麻草に含まれるCBDを原料に、ペットボトルや食品包装に使われるPETの代替となるプラスチック素材を植物由来で初めて作ることができた
  • 完成した素材は自重の1,600%まで伸び、沸騰した湯にも耐える耐熱性を持つうえ、有害なBPAを含まないため人体への安全性も高い
  • 水をはじく性質が石油系プラスチックより強く、薬の運搬や医療器具のコーティングへの応用も期待される

未解決な問題

  • CBDと製造試薬トリホスゲンが反応して生じる副産物の安全性がまだ確認されていない
  • 機械的強度のさらなる向上と、工場規模での大量生産プロセスの確立が必要
  • PETを全面的に置き換えるだけのCBD生産量が世界的にまだ不足している

References: CELL[https://www.cell.com/chem-circularity/fulltext/S3051-2948(26)00014-9] / A hemp-based thermoplastic offers a greener alternative to plastic packaging[https://www.eurekalert.org/news-releases/1125383]

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