昨年12月に放送された『THE MANZAI 2017』(フジテレビ)でのウーマンラッシュアワーの政治風刺漫才は、あれから2カ月近くが経った現在でもしばしば話題にあがり続けている。

 原発や沖縄米軍基地問題や小池百合子やメディアの社会意識の低さを漫才のなかで直接突いた『THE MANZAI 2017』のネタがここまでのバズを引き起こしたのは、「タブー」であるとされた政治に関するトピックを漫才のなかにもち込んだというだけでなく、笑芸として高い質のネタに昇華し提示してみせたことで、「堅苦しくなるだけでどうせつまらない」という政治風刺にまつわるイメージを壊した、ということもあげられる。



 政治風刺に対するそのような負のイメージは、当のお笑い芸人ですらもっている。ツイッターに〈日本のお笑い芸人たちは、上下関係や空気を読んだ笑いに終止し、権力者に批評の目を向けた笑いは皆無〉と投稿して大炎上した茂木健一郎氏に対して反論した爆笑問題太田光は、昨年3月放送『JUNK 爆笑問題カーボーイ』(TBSラジオ)にて、「(アメリカのコメディアンがやっているような政治風刺のネタをつくるのは)簡単なんですよ。別に俺たちがとは言わないよ。ただね、政治風刺がいいっていうんだったらね。日本のお笑いのほうがよっぽど多様性がありますよ」としたうえで、日本においても直接的に政治を風刺したネタも存在しないわけではないが、それらの多くは笑芸としてのレベルが低いと断じていた。

「もし政治を風刺するネタが見たければ、いっぱいいますよ、そんなのは。地下にいます。我々も手のころは放送禁止ライブだなんだって(やってましたが)、そんなヤツは(メジャーの舞台に)出て来れないです。そういうヤツらのライブのところに行けばいい。いくらでもやってますよ、笑えねえネタをね。いくらでもやってるし、もっとライトなのが見たければ、新聞の表層を切り抜いたような、なんかやってる新聞みたいな、なんかそんな、文化人が『これは良い』っていかにも言う、浅えなっていうのそういうのやってますよ」

 この「政治的=お笑いのレベルが低い」というのはなぜ政治風刺をやらないか、と問われた芸人たちが口にする典型的な言い訳になっているが、しかし、ウーマンラッシュアワーの漫才は、こうした言い訳を無効化するような、「お笑いとしての質の高さ」も兼ね備えていた。あのスピード感や批評性は、これまでの政治風刺漫才にないものだった。


 しかも、このように"漫才"として高く評価しているのは、本サイトのようなリベラルメディアや文化人だけではない。お笑いに対して手厳しい意見を持つことで知られる漫才界の重鎮もウーマンラッシュアワーの政治風刺漫才を評価していたのだ。

 その重鎮とは、『M-1グランプリ』(テレビ朝日)や『THE MANZAI』など、多くの漫才コンテストで審査員を務めているオール阪神・巨人オール巨人だ。

 オール巨人は、「週刊プレイボーイ」(集英社)2018年2月12日号掲載の連載コラム「オール巨人の劇場漫才師の流儀」のなかで、ウーマンラッシュアワーの政治風刺漫才を〈ネタとしても完成度が高かった〉と評価している。

〈だいぶ話題になったのでご存じの方も多いと思いますが、原発などの社会問題に触れてたあのネタ、劇場などで何回か見ているんですが、僕はいいんじゃないかと思ってます。ネタとしても完成度が高かったし、沖縄や福井の人がいやな思いをしたというのならともかく、基本的には弱者の立場に立って政治を皮肉るスタンスですから。本人も福井出身だし、言ってみれば自虐ネタです〉
〈これが、誰かを立ち直れないほど傷つけたらそれはNGでしょうが、僕はあのネタが漫才のルールを逸脱しているとは思いません〉

 ここでオール巨人が用いている評価軸は、「「漫才に政治をもち込むな」のタブーを突き崩した!」というスキャンダラスなものではない。単純に〈ネタとしても完成度が高かった〉という普遍的なものさしである。

 それは、政治風刺というジャンルに笑芸としての可能性があるということの証左であり、このウーマンラッシュアワーの漫才がセンセーショナルな一過性のブームとして消費されてしまうものではないということを意味している。

 そうであれば、ウーマンラッシュアワーにはこれからも政治風刺ネタをつくり続けてもらいたいのだが、そんななか、村本大輔による少し気になる発言が話題となっている。

「アメリカに行きます。もう。
2年後ぐらいにアメリカに行って。(アメリカで)舞台に立つっていう」
「(ウーマンラッシュアワーは)解散します。スタンダップコメディやりたいんですよ」

 これらの発言が飛び出したのは、1月27日放送『渡邉美樹 5年後の夢を語ろう!』(ニッポン放送)でのこと。村本はピンでこのラジオ番組にゲスト出演。番組のタイトル通り、5年後の夢をテーマにトークするこの番組のなかで村本はこのように話し出したのだった。

「アメリカに行きます。もう。2年後ぐらいにアメリカに行って。(アメリカで)舞台に立つっていう。言いたいことを言いに行くという。もうテレビに興味なくなったんですよ。なんか、ゴールデンとかでクイズ"ピンポーン"とか押して、懐メロとか答えてる時間ないと。
僕には。マイクの前で金持ちになりたいんですよ」

 突然の渡米宣言に驚いた共演者のテリー伊藤は「相方はどうすんの?」と聞くのだが、それに対して村本は「解散します。スタンダップコメディやりたいんですよ」と即答。そして「すべてのタブーを笑いにして、大金持ちになる」と語るのだった。

 この発言を文字通り受け取るのも野暮な話なのかもしれないが、しかし、村本が本気でスタンダップコメディを勉強しているのは本当だ。

 彼はこれまでも定期的にアメリカへ短期留学しており、昨年は、その流れのなかで『町山智浩のアメリカの"いま"を知るTV』(BS朝日)にゲスト出演。ロサンゼルスのコメディハウスで、アメリカの最新コメディシーンの解説や、過激な政治風刺で人気を博した伝説のコメディアンであるレニー・ブルースなどについて町山氏から講義を受けるなどしていた。

 ただ、このまま、昨年の『THE MANZAI 2017』で見せたような日本の政治に鋭く切り込む漫才を捨ててしまうのはあまりにも勿体ない。

 確かに、ゴールデンのクイズ番組だの、情報バラエティ番組だのでひな壇に座ったりする仕事をくだらないと感じるのはよくわかるが、しかしそれでも、できればウーマンラッシュアワーとして、そして、アメリカではなく日本で「すべてのタブーを笑いにして、大金持ちになる」という夢を叶えてほしいのだが......。
(編集部)

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