大阪府HPより


 開催まで約1年にまで迫った大阪・関西万博の工事現場で、恐れていた事態が起こった。28日午前11時ごろ、万博会場予定地の北西側の「グリーンワールド」工区で、開幕中に使用されるトイレの建屋の溶接作業をおこなっていたところ、火花がガスに引火し、トイレの床およそ100平方メートルを破損する“ガス爆発”事故が起こったというのだ。

 NHKは「万博協会によると、地下の空間にたまっていたメタンガスに引火したとみられている」と報じているが、たしかにガス爆発が起こった「グリーンワールド」エリアのある夢洲1区は、もともと廃棄物の最終処分場。地下にはメタンガスが溜まっていることから爆発などの事故が起きるのではないか、と危険視されていた。

 たとえば、昨年11月29日におこなわれた参院予算委員会では、社民党の福島瑞穂党首が万博会場の問題に言及し、「いま、ここ、現場でメタンガスが出ていますよね。どういう状況ですか」と質問。すると、自見英子・万博担当相は「(万博)会場を含めた夢洲の一部においてメタンガスの発生を確認し、管理をおこなってきたと聞いている」とその事実を認めた上で、「仮に今後、工事に伴ってメタンガスが発生した場合には、施工者が直ちに必要な対策をおこなう」と答弁していた。

 ようは「工事中にメタンガスが出たら、そのとき対策する」などとおざなりな態度をとっていたわけだが、このとき福島党首は「メタンガスに火が付いたら爆発をします」と危険性を指摘。

つまり、福島代表が懸念したことが実際に起こってしまった、というわけだ。

 幸い、今回の爆発で作業員に怪我をした人はいないとのことだが、以前より国会でも危険視されていた問題が現実となってしまったとなれば、ことの重大さは言うまでもない。当然、吉村洋文・大阪府知事には今後の安全対策について説明する責任がある。

 ところが、今回の爆発事故が公表されて以降も、吉村知事は事故について一切言及していないのだ。

 実際、今回のガス爆発の事故については、29日13時半ごろに産経ニュースが「万博会場の工事中にガス爆発、けが人なし」と報じ、14時すぎにはNHKの「関西NEWS WEB」も報道。しかし、吉村知事の旧Twitter上では反応がなく、29日22時すぎに「大阪万博の経済波及効果 再試算で4000億円増加し約2.9兆円に」という記事を引用し、〈大きな経済効果は明白〉などと投稿。

その後も、能登半島地震の被災者を万博に招待することを検討している件やリニア中央新幹線の2027年開業断念のニュースについての投稿をおこなっているが、31日7時時点ではガス爆発問題には一切触れていない。

 経済効果や被災者招待といったニュースはコメントつきで拡散しながら、以前より指摘されていたガス爆発事故は無視する──。作業員の安全性を守るための対策を打ち出すべきときに、何事もなかったかのように万博の宣伝に勤しむとは、無責任にもほどがあるだろう。

 言っておくが、今回の事故は作業員の安全の問題だけにとどまらない。メタンガス対策をめぐっては、万博来場者をも危険に巻き込む可能性があるのではないかと疑問を抱かざる得ない状況だからだ。

 そもそも、夢洲1区にはメタンガスを排出するためのガス抜き管が地上に79本も設置されているという。

つまり、このエリアにはメタンガスが地上に放出されている状態にあるということになる。そんな場所に万博協会は屋外イベント広場やエントランス広場といった〈大人数が滞留することのできる開けた空間〉(万博協会資料より)をつくろうとしているのだ。

 しかし、立憲民主党の辻元清美・参院議員が〈夢洲の一部で、人体に有害なメタンガスが発生しており、大気放散していることを認識しているか〉と質問主意書で質すと、政府は〈大阪広域環境施設組合が(中略)「メタンガス」が滞留しないよう、御指摘の「大気放散」を行うことで、当該メタンガスの濃度を適切に管理しているものと承知している〉と回答。さらに、大阪市に対して、ガス抜き管対策をどうするのかと「夢洲の都市計画変更を考える市民懇談会」(夢洲懇談会)が質問したところ、その回答は「万博協会からは、ガス抜き管の機能を維持すると聞いておりますが、対策の詳細については同協会にお尋ねいただくことになります」と、完全に丸投げ。

 ようするに、大阪市も政府も「万博協会に聞いて」「大阪広域環境施設組合が管理しているはず」と、メタンガス対策の責任を放棄しているのだ。こんな有様で、来場者の安全対策は万全と果たして言えるのだろうか。

こうした問題についても、吉村知事には説明する責任があるのだ。

 しかも、万博会場ではメタンガス以上に危険視されている問題がある。それは、有害物質であるPCB(ポリ塩化ビフェニール)の問題だ。

 環境中での残留性が高く人や生物への毒性が高いPCBはストックホルム条約で国際的に廃絶すべき有害物質とされており、検出された場所の浄化が義務づけられているものだが、夢洲1区には大阪湾の海底から出たPCB汚泥を入れた袋が1万袋も敷き詰められている区画がある。なんと、万博ではこの上に土を盛ってアスファルトで覆うことで駐車場をつくる、というのだ。

 メタンガスが放出される管があちこちから地上に飛び出し、挙げ句、駐車場の真下には有害物質が埋まっている……。

それでなくても夢洲1区にはダイオキシンやPCBなどの有害物質を含む焼却灰が860万トンも埋め立てられているとされ、立ち入り禁止区域ともなっていたエリアだ。当初、夢洲1区は万博会場にはしない予定だったというが、これは危険な場所だという認識があったからではないのか。そんなところに屋外イベント広場といった〈大人数が滞留することのできる開けた空間〉をつくろうというのだから、正気の沙汰ではない。

 メタンガス爆発事故の発生に警鐘を鳴らした福島党首は、前述の国会質疑でこのように指摘していた。

「ありえないですよ。ここは立入禁止区域、ようするにごみの最終処分場。

有害物質があるのに、土壌改良せずにその上で万博やるって、ありえないですよ。子どもたちが来るのに、安全守られるんですか。守られないですよ。その確認はしているんですか」
「カジノ(用地)は土壌改良する。しかし、万博はやらない。時間がないからですよ。ごみの上に、有害物質の上に物を建て、人が行き来する。冗談じゃないですよ。健康をどう考えているのか」

 まさに「ありえない」ことだらけの大阪万博。しかも、懸念に追い打ちをかけているのは、不都合な事実に向き合おうとしない吉村知事の態度にある。このような状況で安心安全に万博を開催できると言えるのだろうか。