【動画】『his』予告編
俊英・今泉力哉監督の新作『his』は同性愛のふたりが主人公だが、これはフラットに恋愛映画として観ればいいのだろう。
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みんなの映画部 活動第61回[後編]
『his』
参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、オカモトレイジ(OKAMOTO'S)
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■泣けたレイジと腑に落ちなかった小出部長
小出 今、LGBTQの映画は世界的にすごく多いですよね。知識や情報という面ではだいぶ啓蒙が広くおよんでいるけど、まだ僕らが知らないことだったり、実感が追いついていない部分もたくさんある。
例えば『ある少年の告白』(2018年/監督:ジョエル・エドガートン)っていうアメリカ映画があったんだけど、舞台が中西部のゲイ矯正セラピーなのね。別にそんな昔話じゃない。
こういう問題が現在進行系で依然続いているのに比べると、『his』は良くも悪くもライトではあったなと。
レイジ ライト。さくっと。
小出 だったらね、いっそ最初からあの3人(迅と渚と空ちゃん)が当たり前に生活してほしかったな。田舎であの3人で何ごともなく生活してて。
レイジ そっからスタートする?
小出 そうそう。当たり前に3人が暮らしていて、「あ、このほんわかムード良いなあ」っていうさ。
あとはやっぱりキャラクターの魅力とか、日常のディテールをもっと詰めてほしいってとこかな。例えば、バカリズムさん原作・脚本・主演の『架空OL日記』の劇場版(監督:住田 崇)を観てきたんですけど、あれすごいんですよ。だって劇場版の尺100分だよ。
『his』もオフビートめではあるじゃない。だったらもっとキャラクター造形や役者さんが魅せてくれないと、なんて思いながら観てたんだけど、でも俺の隣の席の人、ずっと泣いてたんだよなあ。
レイジ 俺もめっちゃ泣いてましたよ(笑)。
■宮沢氷魚は10年に一度出てくる逸材
──この映画がリアルかファンタジーかでいうと、田舎の描写はかなりファンタジー寄りかなと思います。保守的な慣習が根強い場所で、あれだけ素敵な距離感でヨソ者を受け入れてくれるコミュニティって実際なかなか難しいんじゃないかと。だからこれに関しては希望や理想として描いたというか。
小出 そうですね。そうしたところに価値観やリテラシーのアップデートを望んでいるっていうのが見えるかなとは思います。
──“普通”の水準を引き上げようとしている意図は感じます。
小出 その意味で言うと、レイジがさっき言ってた一対一で夫婦ふたりが向き合う部分、その物語の着地は大好きなんです。あれで空ちゃんのお母さんを突き放すことはいくらでもできるけど、そうではなくお母さんも含めて、じゃあこのあとどういう風にしていけばいいんだろうって未来を考える、というのはすごくいい着地だと思う。親権がどっちか? って結論はゴールじゃないよっていう。典型的な裁判ものにしなかったのは素敵だと思います。
レイジ 最後に付け加えていいですか? あと単純に、俺は宮沢氷魚さんが好きなタイプのイケメンなんですよね(笑)。顔が好きなタイプ。スタイルもシルエットとして完璧だし、おしゃれ顔に転じることもできる正統派イケメンというか。やっぱああいう役者さんって10年に一回ぐらい定期的に出てくるんですね。永瀬正敏さんや加瀬 亮さんみたいな系譜のあらたな大物じゃないですか? これからも期待しています!
TEXT BY 森 直人(映画評論家/ライター)