美容院や散髪に行った後は、さっぱりした気分になり、自然と気持ちに張り合いが生まれませんか?
このように、身だしなみは生活のうえで非常に重要な要素になります。
特におしゃれを楽しむことは、自分の気持ちを高めることにもつながり、心身の機能が低下しやすい高齢者にとってもさまざまなメリットがあります。
介護サービスには訪問理美容があり、高齢者施設などで活用されています。
さまざまな訪問理美容の形態
訪問理美容とは、理美容師国家資格を持ち、さらに次のような専門的な知識を持った人が自宅や病院、介護施設に赴いて理美容室で受けられるカット・カラーリング・パーマなどを提供する介護保険外サービスです。
訪問理美容師が持つ専門知識- ケアマネージャー
- 介護職員初任者研修修了者
- 福祉理美容師
- サービス介助士
- 認知症サポーター など
介護では、健康と生活の支援が中心となるため、介護保険が適用されるのは、生きるうえで必要不可欠な支援に限定されます。
自治体によっては独自の助成を行っているところもあります。例えば、自己負担額が決まっているケースや、補助券やチケットを配布するところもあります。
私が活動している福岡県北九州市の場合は、市が委託している団体(理容組合・美容組合)もしくは市が委託する事業所の理容師・美容師が自宅を訪問し、カットやブローなどを行うと、市が出張料として1回あたり2,000円を助成しています。そのため実際の料金は、理容・美容いずれにしても3,500円ほどです。
利用については、各区役所の高齢者・障がい者相談係に申し込みに行けば、利用券を交付してもらえます。
ただし、施設に入所している場合や病院に入院している場合は助成対象にはなりません。
介護施設の中には、シャンプー台などを完備する理美容室を併設している施設もあります。また、訪問理美容車といって、トラックの荷台を改造して理美容室の機能を備えている業者もあります。
在宅の訪問理美容においては、カットする際の椅子などの設備がないため、自宅に機材を持ち込んで行っています。
また、オーナーがもともと美容師国家資格を取得していて、カットやシャンプーを無料で行うといったサービスを行うデイサービスもあります。
コミュニケーションを促す効果が期待できる
訪問理美容が介護施設で積極的に取り入れられているのは、身だしなみを整えることで得られる介護予防効果を期待しているためです。
高齢になると、外出の機会が減ってしまうと、身だしなみへの関心が減少しがちになります。身だしなみが乱れたままでいると、ますます社会参加への意欲が減少し、フレイルの状態になったり、認知症に進行するきっかけにもなりかねません。
一日の始まりとして身だしなみを整えることは、高齢者の気持ちを前向きにし、自立への第一歩となります。
髪型を気分によって変えてみたり、ネイルなどのおしゃれをすることで、生活への意欲向上やリフレッシュ効果が高まります。
実際に訪問理美容サービスを利用したことのある高齢者は、カットしてもらった後におしゃべりになったり、生活に張り合いが持てるようになったという事例を目の当たりにしてきました。
また、身体的な理由でメイクができない方でも、介助者のメイクやネイルなどで季節感を感じることもできます。
私が担当しているAさんは、自宅に訪問してくれるヘルパーステーションの代表が毎月変えているネイルのデザインを見て、季節感を感じており、楽しみの一つになっているそうです。
そのヘルパーステーションでは、あくまで介助しやすい格好が前提になりますが、ハロウィーンになると仮装してケアを提供したりもしています。
自宅や施設にこもりがちな高齢者にとって、こうした周囲のファッションの変化などは気分を高めてコミュニケーションを促す一つの手段になります。
身だしなみを整える環境をつくる
年齢とともに鏡を見るのが嫌になることがあります。歩くのが辛い、立ち上がるのが大変といった体の変化にイライラして、次第に何もかもあきらめてしまうという悪循環に陥ることがあります。
そうなると、気持ちも沈みがちになってしまい、健康に悪影響を及ぼす原因にもなりかねません。
その場合は、少しでも生活しやすい環境を整えてあげることが大切です。例えば洗顔が困難であれば、洗面所に椅子を用意しておいて座って行えるようにするなどの工夫を凝らしましょう。
また、肩が上がりにくいなどの身体的な制限がある場合は、日頃から介助者が手伝うことで見た目を気にかけるようになります。

「ヘアカットをすることで、またおしゃれに興味がでてきた」「見た目を気にするようになり、いきいきとしてきた」など、気持ちの面で積極的に、前向きになれるメリットはとても大きなものです。
身だしなみは、衛生面や感染防止、体力の維持など、さまざまな面でメリットが大きいのです。
趣味活動が広がったり、友人とのコミュニケーションを促すので、介護予防効果が期待できますし、認知症予防にもなります。
身近に身だしなみへの関心が薄れてきた方がいたら、その理由を聞いて身だしなみを整えやすい環境を一緒に考えてあげるといいですね。