目次
  • 水分の減少率とそれの伴う症状の違い
  • 見落とされやすい認知症高齢者の脱水症状
  • 認知症の人に水分を摂取してもらう4つの工夫

人間が生きるためには水分が必要不可欠です。「人間の身体の60%は水分でできている」ということは、皆さんも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

体内の水分量が低下すると、さまざまな健康被害が生じることもわかっています。

中でも、高齢者は水分が不足しやすいため、こまめな水分補給が欠かせません。特に認知症の人は、「喉が渇いた」などを言葉にできない可能性があります。

今回は、認知症介護で大切になる水分補給について考えます。

水分の減少率とそれの伴う症状の違い

まずは、水分不足が人体にどのような影響を与えるのかをみてみましょう。

水分減少率と症状水分
減少率 水分減少に伴う症状 2% 喉の乾き 3% 強い喉の渇き、食欲不振、ぼーっとする 4% イライラする、体温の上昇、だるさ、尿が濃く量が減少、皮膚が赤くなる 5% 頭痛、ほてり 8~10% けいれん、ふるえ、めまい 20% 尿が出ない、生命活動の停止

また、厚生労働省は、必要水分量の計算式も示しています。

【必要な水分量の計算式】

体重(kg)×年齢別必要量(ml)=必要水分量

【年齢別必要量の目安】
  • 30歳未満:40ml
  • 30~55歳:35ml
  • 56歳以上:30ml

例えば、体重60㎏で40歳の人は、60×35=2100mlが1日に必要な水分量になります。これは、あくまで一般的な目安であり、運動や環境によって発汗量が多いときは、それ相応の水分量が必要になります。

水分補給というと、「水を飲む」と考えてしまいますが、食事にも水分が含まれており、一般的に3度の食事で1リットル程度の水分補給ができるといわれています。

ただ、水分をたくさん摂取すればよいかというと、そうではありません。身体が一度に吸収できる水分量は、200~250mlとされています。また、一度に多量に摂りすぎると、心臓・腎臓など内臓に大きな負担を与える場合もあるので注意が必要です。

以上は、一般的な水分と身体の関係ですが、高齢者は特に次のようなことから、水分不足になりやすい傾向があります。

  • トイレの感覚が近くなるからと、水分摂取を控える
  • 喉の渇きを感じにくいため、水分を取ろうとしない

また、認知症の記憶障がいなどにより、水分を飲むこと自体を忘れてしまう可能性もあります。さらに、高齢になると食事摂取量も低下する傾向にあります。

そのほか、高齢者は疾患を抱えて、薬を服用している方も多くいらっしゃいますが、その中には利尿作用のある薬を飲んでいる方もいます。そのため、水分不足に陥りやすい傾向にあると考えられます。

健康に重大な影響を与える高齢者の水不足。認知症の人にも効果的...の画像はこちら >>

見落とされやすい認知症高齢者の脱水症状

認知症の状態にある方は、自分の意思を適切に言葉で表現することが難しくなっています。

頭痛がする、身体がだるい、めまいがする、寒い、食欲がないなどの不調を発信できず、脱水が進んでから周囲が気づくという事態になりやすいのです。

【事例】

施設入所しているアルツハイマー型認知症状態のAさんは、記憶障がいがありますが、施設職員の声かけによって身の回りのことはある程度自分で行って生活していました。

ある日、急にAさんに不可解な言動がみられ、ぼーっとした様子もみられました。さらに、ベッドから起き上がろうとした瞬間に転倒して、病院に救急搬送されました。

結果、右大腿骨頸部骨折をしてしまいました。血液検査で高度の脱水も判明。Aさんの不可解な言動やぼーっとした様子は高度な脱水症状が原因だったのです。

Aさんはこの数日前に発熱し、尿路感染の診断を受けて抗生物質を服用していました。

尿路感染の症状は改善しましたが、職員たちは「脱水が起きている」可能性までは考えていませんでした。不可解な言動などがみられた段階で、適切に水分補給できていれば防げた事故だともいえるでしょう。

認知症の人に水分を摂取してもらう4つの工夫

高齢者は免疫力が低下しやすく、発熱や下痢、嘔吐などによって、水分を失われやすい状態です。そのため、体調変化時は脱水への配慮が必要です。

ただし、水分を多めに飲むように伝えても、なかなか飲んでもらえるものではありません。だからといって強引に水分補給を勧めるのは良くないことです。必要水分量を摂取させることが目的になると、不適切なケアになりかねません。

そこで、効果的に水分を取ってもらうためには工夫が必要です。介護現場などでとられている方法を紹介します。

1.寝起き・寝る前、夜中に水分補給できるようにする

喉の渇きを感じにくい高齢者も、寝起きは水分を欲する方が多くいらっしゃいます。

寝る前や夜、トイレに起きたときに勧めることも効果的です。とはいえ、在宅では介護者が夜中に起きて水分補給を勧めるのは困難です。

枕元にペットボトルやストロー付きコップなどを用意しておくだけでも良いでしょう。

2.一度に飲む水分量を減らし、回数を増やす 一度に吸収できる水分量である200ml程度を5~8回程度に分けて、水分補給してもらうことが一般的です。しかし、200mlを一度に飲めない方もいますので、量を100~150mlに減らして、飲む回数を増やしても良いでしょう。 3.本人が飲みたいものを選んでもらう

バリエーションを複数用意して、選んでもらうことも大切です。本人の意思を無視して、一方的に水、お茶などを提供することはあまり良い対応とはいえません。

私たちは多くの選択肢の中から物事を選択して生活を送っています。

水分一つをとってみても、私たちはのどが渇いたときに、複数の選択肢の中から「今飲みたいもの」を選んで飲みます。「認知症だから、高齢者だから」といって介護者側がこれを飲んでくださいと押しつけないようにしたいものです。

4.電解質調整飲料を活用する

私が働く施設では、食事摂取量が低下している利用者さんに、電解質調整飲料などの水分補給製品を選んで提供しています。

電解質調整飲料は、糖分量が少ないもの、吸収しやすい浸透圧のもの、常温や温めても味が落ちないものに留意して選定します。

糖尿病の持病がある方には、血糖値の上昇リスクが少ないシュガーレスのものを選ぶと良いでしょう。味のバリエーションもあるので、利用者さんからは好評です。

健康に重大な影響を与える高齢者の水不足。認知症の人にも効果的に摂取してもらう4つの工夫
在宅介護でも使える!水分補給をしてもらう工夫

水分不足は、脱水を引き起こし、健康状態に大きな影響を与えます。今回の記事を参考に、在宅介護でも水分補給に気をつけてみてください。

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