目次
  • 実例でみる買い物支援のポイント
  • 自治体にも広がる買い物リハビリ
  • 買い物は、身体と頭を働かせる場面が多い
  • 福祉・介護の大原則を忘れてはいけない

株式会社Qship(キューシップ)代表・介護福祉士の梅本聡です。

今回は、買い物などの日常生活行為を行うことの大切さについてお伝えします。

実例でみる買い物支援のポイント

私が2000~2010年にホーム長を務めていた認知症対応型共同生活介護(グループホーム)では、毎日のように入居者の方たちが買い物に出かけていました。

目的はリハビリではなく、「ご飯を食べるため」です。食事が自炊型のグループホームでは、食材の獲得が必須なので、買い物に出かけていました。その買い物には身体や脳を使う機会がたくさんあります。つまり「日常生活を送るうえで必要なこと(買い物)を自分で頑張っていたら、必然的に身体と脳を使っていた」ということだったのです。

ここからは実際にグループホームで行っていた買い物支援のポイントを、買い物をする入居者の方たちの写真を交えながら解説します。

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入院する入居者がゼロに。高齢者をたくましくする日常生活行為を行うことのメリット
梅本さんPH2枚目


買い物は、複数人で出かけるときもあれば、1人で出かけるときもありました。

人数や組み合わせがその日そのときで違う理由は2つあります。

1つ目は、「本人の行く・行かないなどの意思」を尊重するのはもちろんですが、職員が入居者の方それぞれの「最近の生活状況」から判断して指名するためです。

例えば、「運動量が少ないので運動量を確保してもらおう」「外に出ていないから外に出る機会にしてもらおう」「気持ちが沈みがちなので気分転換を図ってもらおう」などです。

同じ屋根の下で暮らしていても、入居者一人ひとり、最近の生活の様子が違うので、職員は個別の生活状況を踏まえて買い物に出かける人数や組み合わせを考えていました。

2つ目は、それぞれの入居者の歩行状態や認知症の状態と、買い物支援を行う職員の力量(何人までなら連れていけるか、買物中の見守りがどこまでできるかなど)を考慮して、その日そのときの人数と組み合わせが決まるためです。

介護職員の支援(かかわり)の距離も、状況によって異なります。



入院する入居者がゼロに。高齢者をたくましくする日常生活行為を行うことのメリット
梅本さんPH03

(右から2番目は職員)

入院する入居者がゼロに。高齢者をたくましくする日常生活行為を行うことのメリット
梅本さんPH04

 

介護職員がぴったりと付き添って買い物に行く場合と、本人たちに気づかれない距離から見守る場合があります。

見守る場合があるのは、介護職員がそばにいると、ついつい職員に頼ってしまい、入居者の方が主体的に買い物することができなくなる場合があるからです。

ただし、買物中に困りごとやアクシデントに遭遇する可能性もあるため、介護職員は、いざというときにすぐ手助けができる距離を保っていました。

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梅本さんPH5枚目

続いて、介護職員が見守りの距離をとりながら、入居者の方2人がペアになって買い物をしている場面です。どちらも介護職員が傍にいないこともあって、2人で相談しながら品定めをしています。

このように入居者の方だけの買い物は本人同士、職員が同行した場合は職員とのコミュニケーションが図られ人間関係も深まります。

また、入居者の方たちはスーパーなどに向かう道中に、街の人たちとあいさつを交わし、店内では店員さんと言葉を交わします。買い物に出かけることによって、地域住民や地域社会とのつながりができていくのです。

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買い物を通じて地域とのつながりができる

自治体にも広がる買い物リハビリ

この記事を書いていて、今から4年前に知った山形県天童市のショッピングリハビリのことを思い出しました。

当時、ショッピングリハビリに自治体が取り組むのは天童市が全国初でした。

高齢者を商業施設へ送迎し、施設内を歩いて買い物をしてもらい、心身機能の維持向上を図ることを目的に、介護予防・生活支援サービス事業として2018年10月にスタートしました。

冬場は雪に閉ざされ、外出を控えがちになる高齢者も多いため、社会参加の促進や閉じこもり防止という狙いもあるそうです。

入居型の介護施設では、職員が付き添って入居(利用)者の方に商業施設などで買い物をしていただく実践は、よく行われています。

食事が自炊型のグループホームでは、毎日のように買い物に出かけているところが多いでしょう。

ただ、自治体が、日常生活行為のひとつである買い物によって心身機能の維持向上を図ることを目的に事業化したことは画期的だと、私は思います。

今では、名称をショッピングリハビリもしくは買い物リハビリとして事業化している自治体が増えています。

買い物は、身体と頭を働かせる場面が多い

買い物は、身体を動かし、脳を働かせる場面が多くあります。

身体を使う場面 店舗まで「歩く」・店舗内を「歩く」・商品に手を「伸ばす」・商品を「掴む(取る)」など 脳を使う場面 品物を選ぶ、何がどれくらい必要か判断する、品物を評価する(品質や値段)、店内で迷わない(必要な材料がどこにあるかを把握していたり、店内の地図が想像できる)、支払いをする(計算)など

私が勤めていたグループホームの場合、原則1日2回買い物に行っていました。

次の写真は雨が降る中、スーパーに買い物に向かう入居者の方の姿です。雨が降っているからといってご飯抜きにはできないので、当たり前のように買い物に出かけます。

入院する入居者がゼロに。高齢者をたくましくする日常生活行為を行うことのメリット
梅本さんPH06

そんな毎日の買い物がどのように作用したかははっきりとはわかりませんが、明らかだったのは入居者の方たち入居者の方たちが入居前に比べて体力がついていたことでした。開設7年目の頃、18名の入居者の方たちは微熱は出てもすぐに治ってしまうぐらいたくましくなっていました。おかげで、風邪が悪化して入院につながることもなく、2年続けて入院者ゼロでした。

福祉・介護の大原則を忘れてはいけない

2022年4月13日財政制度分科会(財務省)は、右肩上がりの介護費抑制を目的に、「人員配置の効率化(緩和)」「ケアプランの有料化」「要介護1・2を総合事業に」「経営の大規模化・協働化(小規模法人の統合)」などの提言をしました。

よくこれだけ国民と介護従事者に痛みを求めることができるなと思いましたが、介護費を抑制したいのであれば「要介護状態にならないように、日常生活行為を自分で行うことが続けられるようにする」ことに効果が期待できる介護予防の取り組みを応援してもらいたいものです。

買い物だけでなく、掃除や炊事なども含めた日常生活行為は「人が日常生活を送るうえで必要なこと」です。

だからこそ、日常生活行為を「いつまでも自分で続けられるようにする(予防)」ことと、「要介護状態になってもできるだけ自分で続けられるようにする(支援)」ことが、予防と支援の原則ではないでしょうか。

そしてそれは、社会福祉法の理念と、介護保険法の目的に「有する能力に応じ自立した日常生活を営むことを支援する」という言葉で示されているのです。

介護予防、支援・介護、制度設計など、どれを考えるときも、この日本の福祉・介護の根本を忘れてはいけないと私は思っています。

入院する入居者がゼロに。高齢者をたくましくする日常生活行為を行うことのメリット
福祉の根本にある予防と支援の原則


その思いを皆さんにお伝えさせていただき、4年6ヵ月続けたこの連載を終えます。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。どこかで見かけたら、気軽に声をかけてください。

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