日本は、世界に類を見ない超高齢社会です。高齢になればなるほど要介護や要支援となる人の割合が高まっています。

多くの人は、介護を受けて生活を営むのではなく、年老いたとしても機能や能力を失わずに、今と変わらず暮らしたいと願っている人が圧倒的に多いのではないでしょうか。

そこで、介護予防と要介護度の進行防止についてお話します。

介護予防に必要な2つの考え方

人は年をとると身体機能が変化し、時間の経過とともに徐々にできなくなることや、わからなくなることが増えていきます。経年変化の道中にあるのが高齢者の方々です。

できなくなること、わからなくなることが増えれば、そこには人の手を借りる必要が生じます。

『介護保険事業状況報告(令和4年4月暫定版)』によると、日本には691万人の要介護認定者がおり、80~84歳の高齢者のうち、約3人に1人が要介護に認定されています。

かなりの割合に感じるかもしれませんが、裏を返せば3人に2人は要介護状態ではなく、元気に暮らしているということになります。

ところが、85歳以上になると、その割合は2人に1人に上がります。そのため、できる限り介護を必要としない人でいるために介護予防が必要になるのです。

介護予防は、2000年代半ばからよく聞かれるようになり「要介護状態の発生をできる限り防ぐ(遅らせる)こと、そして要介護状態にあってもその悪化をできる限り防ぐこと、さらには軽減を目指すこと」と定義されています。

予防には大きく分けて2パターンあります。一つは介護が必要になる原因をできる限り取り除いて要介護状態を防ぐこと、もう一つはその原因と付き合いながら、できる限り自分のことは自分で行える状態を維持することです。

実は要介護者の24.3%は認知症。介護予防には生活習慣の見直...の画像はこちら >>

生活習慣病予防は認知症予防にもなる

内閣府の『高齢社会白書(令和0年版)』によると、介護が必要になった原因は次の通りです。

  • 1位:認知症(24.3%)
  • 2位:脳血管疾患(19.2%)
  • 3位:高齢による衰弱(11.2%)
  • 4位:骨折・転倒(12.0%)
  • 5位:関節疾患(6.9%)

以前は、要介護状態になる原因として、脳血管疾患(脳梗塞や脳出血)が一番の原因でした。

しかし最近は、認知症が最多となっています。

認知症を引き起こす原因疾患はおよそ80種ほどあるとされており、最も有名なのがアルツハイマー病です。これは今の医学では、防げないものだといわれています。

また、同じようにレビー小体病が引き起こすレビー小体型認知症や前頭側頭型認知症も今の医学では防げません。脳の細胞が何らかの原因で徐々に死んでいく神経変性疾患、いわゆる進行性の難病です。

しかし、すべての認知症が防げないかと言ったらそうではなく、防げる認知症もあることがわかっています。

その一つが脳血管性認知症です。脳血管性認知症の原因疾患は、脳梗塞や脳出血、いわゆる脳卒中といわれるもの。これらの疾患にかかった人のうち約2割が後遺症として認知症を発症するとされています。

こうした脳血管性認知症を防ぐためには、脳卒中の原因となる生活習慣病を予防することが肝心です。高血圧や糖尿病、脂質異常症を予防することで脳卒中になりにくくなります。

つまり、脳卒中を防ぐ生活習慣病の予防が認知症の予防にもなるのです。

最近ではアルツハイマー型認知症もこの生活習慣病に少なからず関係しているともいわれており、生活習慣病をお持ちの方は症状が悪くならないようにコントロールすることが認知症予防につながります。

実は要介護者の24.3%は認知症。介護予防には生活習慣の見直しが効果的
生活習慣病の予防が介護予防にもなる

認知症の進行を遅らせる周囲の人のかかわり

脳血管性認知症は、脳卒中が起こるたびに階段状に進行していく認知症なので、脳卒中の再発を防ぐことが認知症の進行予防ともされています。

また、アルツハイマー型認知症に関しては、進行をゆるやかにできる2つのポイントがあります。それは「薬」と「かかわり」です。

日本には今、4種類の認知症治療薬があります。この薬を使うことで進行を止めることはできなくとも、緩やかすることが期待できます。そのため、早期発見・早期治療が大事なのです。

もうひとつのポイントは適切なかかわりです。私たちが不適切にかかわると認知症の人が焦ったり不安になったりします。そういったストレスは、病気を進行させる大きな要素になるとする医師も少なくありません。

私が複数の専門医から聞いた話では、認知症の進行予防で薬でできるのは2割程度で、適切なかかわりが8割を占めているといいます。

つまり、認知症の進行を遅らせるためには、周囲の人が適切な知識を身につけ、適切なかかわりを保つことが大事なのです。

ポイントは認知症の方の真実を否定しないこと

参考までに、適切なかかわりのポイントを解説しましょう。

本人にとっての真実と介護者が知る現実には、時にギャップが生じることがあります。

事例

アルツハイマー型認知症のAさんは、自宅で長女夫婦とともに暮らしています。ある日、長女から「お母さん(Aさん)が、1週間お風呂に入ってくれなくて困っている。私じゃ無理だから、施設でお風呂に入れてくれるかしら?」と相談されました。

僕は「わかりました」と彼女の依頼に応じました。Aさんがショートステイの利用中、僕は他愛もない話をしながら、お風呂に話題をうつしました。

すると、Aさんは「お風呂は毎日入っているわよ。あたりまえでしょ!」とのこと。このとき、Aさんにとって「毎日お風呂に入っている」のが真実で、長女は「1週間お風呂に入っていない」という現実を認識していたのです。

介護者はつい本当のこと(現実)を本人にぶつけがちです。しかし、認知症の方にとっての真実を否定して現実を突きつけたところで、物事はうまく運びません。

むしろ「何を言ってんだ」と本人が怒ったり、「私おかしくなっちゃったのかしら」と本人を不安・混乱に陥らせてしまう可能性があります。このようなとき、本人の真実を否定せず、受け入れて向き合う視点が重要です。

その人の思いにあてはまることや言葉を探り続ける

では、認知症の方にとっての真実を受け入れた後、どのようなかかわりが良いのでしょうか。これは非常に個別的であり、こう対応すれば良いという明確な答えはなかなかありません。

ただ、ひとつ言えるのは、本人にとって納得してもらえるような言葉をかけることが大切です。そのためには、過去ではなく、今の本人にとって興味・関心の矛先や響く言葉を知っておくことが重要です。

先の事例を基に解説してみましょう。

Aさんは、散歩がとても好きだということがわかっていましたから、入浴の前に「散歩に行きませんか?」とお誘いし、散歩をしながら「汗を流しませんか?」と声をかけるなどをして、Aさん自身が「そうね」と納得いただけるようなかかわりを持ちました。

すると、お風呂を拒まれるようなことはありませんでした。決して強制はせず、本人が「○○しようかな」「○○したい」「しょうがないけど○○するか」と感じられるようなかかわりが大事だと思います。

上記のようなかかわりは、認知症があってもなくても人との関係性を構築するうえで、大切ではないでしょうか。

適切なかかわりをまとめると、「本人にとっての真実を否定しない」「介護者の現実や価値観を押しつけない」「本人の納得感を得るためにその人を知ろうと力を尽くす」ことに尽きると考えます。

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