体が思うように動かなくなってしまった高齢者の方にとって、車椅子は移動の際の強い味方です。ですが、実は車椅子を利用したことによって、重大な事故にあってしまった方も多数いることをご存じでしょうか?

この記事では「みんなの介護」編集部が、車椅子事故の傾向とリスクを回避するための対策についてお伝えします。

車椅子事故の現状

独立行政法人製品評価技術基盤機構(以下「NITE」)が発表した「事故防止対策報告書」(2023年)によると、車椅子利用による事故は2007~2021年度の間に228件発生しています(うち、68件は死亡事故)。


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(※画像提供:独立行政法人製品評価技術基盤機構)

特に電動車椅子の事故件数は2016年以降増加の兆しを見せていますが、NITEはその要因の一つとして、2012年以降運転免許の自主返納が進み、代替手段として電動車椅子を使用する人自体が増えたことで、事故件数も比例して増加したと分析しています。

高齢者の車椅子事故原因は「転落」「転倒」「投げ出され」が多数 “リスク低減”のためにできることとは
画像提供:独立行政法人製品評価技術基盤機構


(※画像提供:独立行政法人製品評価技術基盤機構)

事故要因は「転倒」「転落」と「投げ出され」が多数

また、車椅子による事故の要因としては、「転倒」と「投げ出され」による事故が多く、電動車椅子においては「転落」や「転倒」による事故が半数以上を占めていることが明らかになりました。

なお、「転倒」「転落」「投げ出され」による死亡事故としてNITEが提示した事故シナリオは以下の通りです。

  • 長い坂道を走行していたところ、急に飛び込んできたボールを避けようとして急ハンドルを取ってバランスを崩し、転倒、頭部を打撲して死亡する
  • 高齢者がスロープを使って車椅子で前向きに降りようとして勾配を確認したところ、電動車椅子から前方に転落して重症を負った。なお、車椅子は傾斜は後ろ向きに下りることが基本だが、高齢者は「これくらいの傾斜なら大丈夫」と思い、前向きに下りようとした
  • 電動車椅子にて農道を走行していたところ、知り合いに出会いよそ見をしたことで、側溝へ転落して亡くなる
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    画像提供:独立行政法人製品評価技術基盤機構
  • (※画像提供:独立行政法人製品評価技術基盤機構)

車椅子による事故リスクを減らすために

それでは、このような車椅子事故によるリスクを減らすためにはどうすればよいのでしょうか。

①頭部を保護する

車椅子による事故は、転倒や転落による頭部打撲によって重篤化しています。逆にいえば、高齢者を車椅子事故のリスクから守るためには、頭部に保護具(ヘルメット、保護帽、ヘッドガード)を装着することが有効な手段といえます。

②危険な道は避ける

傾斜路や段差、踏切、交通量が多い道路など、事故の起こりやすい場所の走行はできるだけ避けるようにしましょう。どうしても通る必要のある道では、介助者による同行をお願いしましょう。

③定期的に点検・修理する

車椅子を安全に使用するために、定期的に点検や修理をするようにしましょう。また、点検・修理を行う際は車椅子安全整備士講習を受けた車椅子整備士のいるお店を選ぶとよいでしょう。

④安全講習会に参加する

操作ミスによっても大きな事故が発生していますが、こちらは安全講習会などで操作方法の指導や事故につながりやすい使用方法等を伝えることにより、事故の発生頻度が下がることが確認できています。使用者の方は定期的に安全講習へ参加することが望ましいでしょう。

まとめ

これまで車椅子事故についてお伝えしてきましたが、正しく使用すれば車椅子は有力な高齢者の移動手段のひとつとなります。リスクを理解した上で、対策を講じるようにしましょう。

【参考文献】
製品評価技術基盤機構(NITE).事故防止対策報告書,2023年

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