介護相談で多いテーマの一つは、非協力的なきょうだいの問題です。きょうだいの存在が、意外な形で介護者を苦しめてしまっていることがあります。

今回は介護に非協力的な兄の態度に反発して、本来必要なサービス利用に抵抗を感じてしまっていた方の事例を紹介します。

Tさん(50代女性・会社員)の事例

Tさんは、認知症の父親(80代・要介護3)と、父親を介護する母親(70代)を助けるために週数回、会社の行き帰りに片道1時間かけて実家に通っています。歳の離れた兄は実家近くに住んでいますが、両親との関係は昔から良くありません。

父親が認知症と診断されたときに電話をかけると、兄は「親のことには関わりたくない! 今後、一切連絡してくるな!」と宣言され、それ以来、連絡が取れなくなってしまいました。

介護に非協力的なきょうだいにイライラ… まずは自分の負担軽減...の画像はこちら >>

Tさんは「自分の知らない過去のわだかまりがあるのだろう」と、兄の気持ちを尊重していました。しかし、父親の通院の付き添いや母親の買い物の手伝いなど、この3年間は家と会社、実家との行き来に費やし、疲労が限界に達しています。

ケアマネージャーからは、ショートステイの利用や施設入居の選択肢も考えたほうが良いとアドバイスされています。しかし、Tさんは「施設サービスの利用は、自分の責任を投げ出すことになるのでは?それでは介護放棄した兄と同じになってしまう…」という思いにとらわれ、苦しんでいます。

「兄のようになりたくない!」と、サービスを受け入れられない

Tさんのように、非協力的なきょうだいの存在を意識しすぎて、自分の負担を減らすための行動が取れなくなるケースがあります。

要介護者や介護者の状態、環境、コロナ禍などの社会情勢の変化によって、介護体制は常に変えていく必要があります。サービスを利用することでこれまでの努力が無駄になるわけではありません。お互いにとってより良い環境をつくり、介護体制を整えていくことが必要です。

Tさんも、施設サービスの利用が必要な時期が来ていることはわかっていました。

しかし、「兄のような薄情なことはしたくない!」という考えが根強く、サービス利用へ踏み切ることができずにいたのです。

Tさんには、兄への怒りと不満がTさん自身の負担軽減への足枷になっていること、施設サービスを利用することは家族を見捨てているわけでも薄情なわけでもなく、要介護者、家族ともに必要な選択肢であることをお伝えしました。

Tさんは母親とケアマネージャーに再度相談し、父親のショートステイの利用を開始しました。実家に通う回数が減り、週末を久しぶりにゆっくり過ごすこともできているそうです。

そして「不思議なことなんですけど、施設サービスの利用にOKを出せたら、兄を思い出してイライラすることが減ったんです。兄への不満がなくなったわけではないのですが、『どうして手伝ってくれないのよ!』と思い出してイライラすること自体が、自分を消耗させていたんですね」と驚かれていました。

非協力的なきょうだいに介護に関わってほしい、同じぐらい負担してほしいとの希望を諦める必要はありません。しかし、相手の協力を得るための話し合いや関わり方を考えるには多大なエネルギーが必要です。介護で疲弊し切っているときは、相手と話し合ったり、具体的なリクエストをする余裕はありません。

大変なときほど、まずは介護の専門家であるケアマネージャーに相談して、フォーマル(公的)サービスとインフォーマル(公的外)サービスの利用を検討し、物理的に介護する時間を減らすことを優先してください。心身の余裕ができてから、きょうだいとの関わり方を考えていきましょう。

介護のきょうだい間トラブルの具体的な対応方法は、以下の記事でもご紹介しています。

参考にしてください。

●きょうだい間の意見の相違でトラブルに…。価値観の違いは当たり前だと考えよう
●きょうだい間で険悪な仲になったとき自分の「怒り」を認めることが大切
●「家族や親族が介護に参加してくれない」参加を拒否する方の心理状態を解説!3つの方法で負担を減らしていきましょう。

みなさんが家族間で抱えている悩み、介護で経験されていること、対策をとられていることをぜひ教えてください。お困りのことやご相談には、こちらの「介護の教科書」の記事でお答えできればと考えています。

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