心身のトラブルは病院へ、介護のトラブルはケアマネージャーや地域包括支援センターへ相談すれば良いということは、多くの方がご存知でしょう。

しかし、いざトラブルに直面すると、相談すること自体が頭から抜けてしまったり、「こんなことぐらいで相談してはいけない」と連絡が遅れてしまうことは珍しくありません。

今回は、認知症の母親が服薬を拒むようになり「自分が説得しなければ」と悩んでいたBさんが、主治医やケアマネージャーと連携して解決した事例を紹介します。

【事例】Bさん(50代女性・パート勤務)

Bさんは、認知症の母親(80代・要介護2)を自宅で介護しています。母親は、週2回のデイサービスに加え、Bさんが仕事に行くときに訪問介護を利用しています。

母親は慢性的な便秘症で、長年下剤を服用しています。先日、デイサービス利用中に下剤が効きすぎ、トイレに間に合わないトラブルが起きました。

物忘れ症状が増えてきている母親ですが、排便の失敗はショックが大きく「スタッフさんに迷惑をかけてしまった、恥ずかしい。もう薬は絶対に飲まない!」と、その後の服薬を拒むようになりました。

困ったことに、下剤だけでなく持病の高血圧や心臓の薬も飲んでくれません。Bさんは「これは心臓の薬だから、大丈夫だよ」と説得しますが、母親は薬の袋を見るだけで怒りだすため、対応に悩んでしまいました。

専門家とのチームワークで状況を変える

Bさんのご相談は「母親に薬を飲ませるには、どう説得すればいいの?」というものでした。私はまず、主治医やケアマネージャーと情報を共有しているかについてお聞きしました。

すると、Bさんは、「えっ、こんな些細なことで、ケアマネージャーや主治医に連絡していいんですか?」と驚かれていました。

これは、些細なことではありません。

薬の種類によっては、突然服薬を止めてしまうことで心身へ大きなダメージが起きる可能性があります。

また、母親はデイサービスでトイレの失敗をしたことにショックを受けて感情的になっている状態です。Bさん一人で対応するのではなく、状況についてケアマネージャーと一緒に考える必要もあります。

Bさんは、さっそくケアマネージャーに母親が服薬してくれなくなったことについて相談しました。すぐにケアマネージャーから主治医へ連絡が行き、運良くその日に受診ができました。

認知症の親が服薬を拒否… 些細な悩みでもケアマネに相談しよう...の画像はこちら >>

母親の持病は、血圧がやや高くなっていたものの、今すぐに対策を取らなければいけないような危険な状態ではないことがわかったそうです。

主治医から「下剤は今は止めておきましょう。血圧の薬と心臓の薬は止めてしまうと怖いから、しっかり飲んでくださいね」と説明を受け、母親は納得している様子でした。しかし、帰宅すると受診したことを忘れてしまい、また服薬を拒みます。

Bさんは、ケアマネージャーに再度状況を報告しました。ケアマネージャーは、デイサービスと訪問介護のスタッフを集め、情報共有のための担当者会議を開いてくれました。

そこで、訪問介護スタッフからの提案があり、「心臓の薬」「血圧の薬」と大きな文字で袋に書き、写真つきの説明書を添えて毎回確認して様子を見ることが決まりました。

この方法を試してみると、最初は「騙して下剤を飲ませようとしている!」と興奮していた母親ですが、無理に説得せずに薬の内容の確認を続けてみたところ、1週間ほどで服薬を再開できるようになりました。

その後、服薬への抵抗が和らいだタイミングで、主治医と相談して下剤の種類や量の調整を行い、排便のコントロールもうまく行くようになったそうです。

Bさんは次のように振り返っていました。

「急に服薬を止めた母の持病に、今のところは大きな変化がないとわかったことと、担当者会議で対策を一緒に考えてもらえたことで、私自身がホッとして、落ち着いて対応できるようになりました。相談せずに頭ごなしに説得を続けていたら、母はますます薬を嫌がり、持病に影響が出るまで状況をこじらせていたかもしれません」

また「『何かあったら専門家に相談すればいい』と頭ではわかっていても、こんなことぐらいで相談してはいけないと思いこんでいました」と苦笑いしていました。

一緒に考えてくれる人の存在があることで、介護者の心の負担は大きく軽減します。「こんなことぐらいで相談してもいいの?」と迷うことがあるかもしれませんが、まずは気軽に聞いてみましょう。

認知症の親が服薬を拒否… 些細な悩みでもケアマネに相談しよう
画像提供:adobe stock

みなさんが家族間で抱えている悩み、介護で経験されていること、対策をとられていることをぜひ教えてください。お困りのことやご相談には、こちらの「介護の教科書」の記事でお答えできればと考えています。

申し込みフォームリンク

「介護サービスを嫌がって使ってくれない」といった日々の介護の悩みについては、拙書『がんばらない介護』で解説をしています。ぜひ、手にとって参考にしていただければと思います。

編集部おすすめ