「介護職イメージアップのための資金」をクラウドファンディングで募る

「KAiGO PRiDE」が介護職のイメージ改善に向けたクラファン実施

今年4月、一般社団法人「KAiGO PRiDE」が介護職の魅力、真実を発信するための資金をクラウドファンディングで募集し、注目を集めました。

KAiGO PRiDEが介護職のイメージアップへの取り組みを始めたのは2019年のこと。

世界的に名が知られた映像クリエイターであるマンジョット・ベディさん、当時日本介護福祉士会の会長だった石本淳也さんらが中心となって、「介護の力を拡張、強化する」ことを目的に法人を立ち上げたのです。

今回、クラウドファンディングを行うにあたり、KAiGO PRiDEはプロジェクト概要の中で、日本では介護職へのネガティブイメージが先行し、介護人材不足という社会課題につながっていると問題提起しています。

株式会社リクルートキャリアは、2019年に就職を希望している人を対象にイメージ調査を実施しています。

介護職のネガティブイメージとしては、「体力的にきつそう」(49.8%)、「精神的にきつそう」(41.8%)、「給与水準が低そう」(31.2%)などが回答として多くなっていました。やはり心身にとってきつい仕事という印象が、一般の方には強いようです。

介護職のイメージアップを図る目的でクラファン募集。イメージ改...の画像はこちら >>
出典:『HELPMAN JAPAN「介護職非従事者の意識調査」』(株式会社リクルートキャリア)を基に作成 2022年05月11日更新

KAiGO PRiDEは今回のクラウドファンディングが、介護職へのネガティブイメージを払拭し、「介護の仕事はカッコいい」ことを発信するために行っているとプロジェクト概要の中で説明しています。

介護職魅力発信の第一弾は、ポートレートの作成・展示

今回のクラウドファンディングでは、プロジェクトの第一弾として、富山県内で親子で介護職に就いている10組程度の方のポートレートを撮影し、5月7~8日の母の日に合わせて展示イベントを行うという内容です。

親子に焦点を当てるという試みは、これまでにない斬新なアイデアといえます。また、年齢が若い「子」の側の介護職を取り上げることで、若年層の方に介護職について知ってもらうきっかけにもなるでしょう。

KAiGO PRiDEによると、このプロジェクトの目的は現在介護職として活躍している方々、特に親子で介護職をしているという同じ境遇にある方々に、自分の仕事に誇りを持てるようにすることにあるとしています。

このプロジェクトにかかる費用は、ポートレートの撮影・製作費が100万円、イベント開催日が60万円。クラファンサイトによると支援の募集は4月11日に終了し、目標金額60万円に対して、支援総額は73万4,000円。支援者は81人に上ったとのことです。

撮影され、作品化された親子の介護職のポートレートは、富山市内で開催されるイベントで実際に見ることができます(新型コロナウイルス感染拡大の状況次第では、延期になる場合もあります)。

介護職のイメージアップの必要性

介護分野の深刻な人手不足が背景にある

介護職のイメージアップを行う必要性は、実は日本社会全体で取り組むべき大きな課題でもあります。

介護職のイメージが悪ければ、当然ながらその職に就きたいと希望する若者の減少につながります。

しかし、現在日本では急速に高齢化が進み、介護職の人材不足が深刻な状況にあります。少しでもネガティブなイメージを改善し、介護職として働きたいと考える人を少しでも増やすことは、今や日本社会において急務となっているのです。

公益財団法人介護労働安定センターの「令和2年度 介護労働実態調査」によると、介護事業者における人材の不足感を職種別に調べたところ、「訪問介護員」は80.1%、「介護職員」66.2%に上っています。訪問介護員・介護職員とも、現場で働く人の人手が足りていないのが現状なのです。

介護職のイメージアップを図る目的でクラファン募集。イメージ改善につながるか
介護事業所における介護職の不足感
出典:『令和2年度 介護労働実態調査』(介護労働安定センター)を基に作成 2022年05月11日更新

介護分野における人手不足は、高齢化が急速に進んでいる現在、年々深刻化しているのが現状です。

厚生労働省の資料によると、2019年時点においてすでに介護人材は200万人以上不足しており、このままいくと2025年には約243万人の介護職が不足するとの試算もあります。

介護職が不足すれば、必要な介護を受けられない「介護難民」の高齢者を多数発生させる恐れもあるため、少しでも介護職のイメージアップを図り、就職希望者を増やす必要があります。

介護職に対する誤解も多い

イメージアップが必要になるほど、介護職に対しては誤解が多いのも事実です。

介護職に対しては、高齢者の介護に従事する職種で、毎日食事や排泄の世話ばかりしているのではないか、との印象を持たれがちです。

確かに食事・排泄・入浴の介助も行いますが、そもそも介護職の役目は、自立を支援し、高齢者の生きる力を支えることにあります。

例えば、老人ホームやデイサービスではレクリエーションを日々行っていますが、これらを企画し、高齢者の方と一緒に楽しく取り組むのも介護職の仕事です。介護職の業務の幅は広く、楽しみ・面白みを感じられる側面もたくさんあります。

さらに介護職の勤務先は老人ホームだけ、という印象も持たれがちですが、実際には医療・リハビリ分野に強い介護老人保健施設や、高齢者の方が通いで利用するデイサービスなど、勤務先や業務内容は多岐にわたります。

介護が必要な方のご自宅を訪問し、そこでケアを行うホームヘルパーという働き方も可能です。

他にも、介護職は高齢の利用者を終身にわたって介護していく仕事であるため、他の業界に比べて達成感がないようにも思われがちです。

しかし、実際の介護の現場では、利用者である高齢者の方とそのご家族から感謝されることも多く、さらに高齢者福祉を支えているという自負心も持てます。

介護職は、やりがいを持って取り組める仕事であるのは間違いありません。

社会全体で介護職のイメージアップに向けた動きを

介護職の待遇は近年改善しつつある

一方、介護職のイメージを悪化させている要因の一つが、給与の安さです。実際のところ、確かに現状において介護職の平均給与額は、他職に比べると低い部分はあります。

しかし、賃金の伸び率という点では、介護職は他の職種と比べて高いです。介護職の平均賃金は、2016~2020年にかけて1万5,000円以上アップしていますが、全産業平均は3,700円程度しか上がっていません。

介護職のイメージアップを図る目的でクラファン募集。イメージ改善につながるか
介護職と全産業における給与額のアップ度
出典:『令和2年度 介護労働実態調査』(介護労働安定センター)を基に作成) 2022年05月11日更新

介護職に対しては近年、給与アップを図るべく処遇改善に向けた制度改正が頻繁に実施されています。給与額の上昇傾向は今後も続くとも考えられ、給与額における介護職と全産業の差は縮まっていくとの期待も持てるでしょう。

行政も含めて介護職のイメージアップ戦略を

介護人材の不足感が高まる中、介護職をイメージアップさせようとする動きは、以前から国・厚生労働省の施策においても見られました。最近では、都道府県・市町村自治体レベルでも活発化してきました。

例えば大阪府では、「大阪府介護イメージアップ戦略事業」を行い、「私にもできる!介護職 このまちで自分らしく働く」というパンフレットを作成し、府民向けに配布しています。

パンフレットでは、介護施設の現状や仕事内容、職場の雰囲気などをイラストで分かりやすく説明。介護の仕事を身近に感じられる内容になっています。

また、山口県宇部市では、山口県介護福祉士会との連携のもと、中高生を対象とした「介護職イメージアップ」授業を実施しています。介護職に対する理解を深めてもらうための授業を行うことで、将来の進路として介護の仕事を選ぼうとする子どもの増加も期待できるでしょう。

今回は介護職のイメージアップに取り組むKAiGO PRiDEのクラファンを紹介しましたが、今後こうした動きが行政・地域社会を含めて全国的に広がっていけば、介護職に就こうとする若者のさらなる増加につながるのではないでしょうか。

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