ケアマネの更新研修のあり方が議論の対象に

武見厚生労働大臣が新たな方策を検討すると言明

11月8日、衆議院の厚生労働委員会の場で、ケアマネの更新研修のあり方が議論の対象となりました。

更新研修をめぐっては、研修を受ける際の負担の大きさが以前から問題視されていました。現場からは「更新研修が大変だからケアマネになりたくない」といった声が上がるほどで、制度改善の余地が多分にある領域と言えます。

会議の場で武見敬三厚生労働大臣は、ケアマネにとっての更新研修の重要性を指摘した上で、更新研修の環境整備に努める意向を示しました。また、厚生労働省の局長は、改善すべきところは改善し、負担軽減に取り組んでいくと表明。2023年度に実態把握のための調査を行っており、その結果をもとに必要な対応をするとしています。

今回見直しの議論が行われたケアマネの更新研修ですが、現状では具体的にどのような形で研修が行われ、どのような点について現場から不満の声が上がっているのでしょうか。以下で詳しく見ていきましょう。

ケアマネ資格には5年ごとに更新研修の受講が必要

そもそもケアマネ(介護支援専門員)とは、ケアプランの作成、介護サービス事業者との調整役を担う専門職のことです。

介護サービスの利用者にとって、ケアマネは重要なガイド役となります。

サービス利用に関するあらゆる相談ができる存在であり、居宅介護支援事業所をはじめ、特別養護老人ホームなどの入所施設、地域包括支援センターなどが主な職場です。

ケアマネは介護・福祉職の資格の中でも取得難易度が高い資格の1つで、受験資格を得るには、以下の2点のどちらかを満たす必要があります。

  • 医師、歯科医師、看護師、理学療法士、作業療法士、介護福祉士、社会福祉士といった国家資格に基づく業務に5年以上従事。
  • 生活相談員、支援相談員、相談支援専門員、主任相談支援員といった相談援助業務に5年以上従事。

ケアマネ試験の合格率は毎年20%前後です(2022年度試験は合格率19%)。受験資格要件を満たし、さらに試験も突破する必要があるため、容易に取得できる資格ではないと言えます。

そしてケアマネ資格は、いったん資格を得ればそれで安泰というわけではありません。2005年に5年ごとの更新制が導入されました。更新研修を受講しなければ資格を失効するので、ケアマネとして働いているなら、かならず受講する必要があります。2016年からは主任ケアマネ(主任介護支援専門員)も5年更新制とされました。更新研修は更新期限の1年前から受講可能です。

負担が大きいケアマネの更新研修

更新研修には数十時間をかける必要がある

5年ごとに更新研修の受講が必要なケアマネ資格ですが、これまでの実務経験年数、更新回数によって、受講内容が変化します。必要な研修とその時間は以下の通りです。

なお、「専門研修」という名称の研修も含まれますが、更新時に受講が必要な研修であることは同じです。

  • ケアマネ資格取得後に実務経験がない・・・「更新研修(54時間)」
  • ケアマネ資格取得後に実務経験があり、初めての更新の場合・・・実務経験6カ月未満だと「更新研修(88時間)」、実務経験6カ月~3年未満だと「専門研修Ⅰ(56時間)+更新研修(32時間)」、実務経験3年以上だと「専門研修Ⅰ(56時間)+専門研修Ⅱ(32時間)」。
  • ケアマネ資格取得後に実務経験があり、更新が2回目以降・・・前回の更新で実務経験がない人向けの更新研修(54時間)を受けている人だと、実務経験3年未満であれば「更新研修(32時間)」、実務経験3年以上であれば「専門研修Ⅱ(32時間)」の受講が必要。一方、前回の更新で実務経験がある人向けの研修を受けている人だと、実務経験6カ月未満であれば更新研修(88時間)、実務経験6カ月~3年未満であれば「専門研修Ⅰ(56時間)+更新研修(32時間)」、実務経験3年以上であれば「専門研修Ⅰ(56時間)+専門研修Ⅱ(32時間)」の受講が必要。

受講者の実務経験量によって受講内容が細分化されていて、この分かりにくさも不評となる要因の1つかもしれません。これら研修は仕事をするかたわら、時間を確保して受講する必要あがります。

研修受講者には費用負担も発生

時間がかかることに加え、ケアマネの更新研修を受講するには、受講者に費用負担も発生します。

負担する具体的な費用額は、都道府県ごとに異なります。例えば東京都の場合だと、費用負担は以下の通りです(2023年度時点)。

  • 更新研修・・・受講料2万8,500円
  • 専門研修Ⅰ・・・受講料3万4,500円
  • 専門研修Ⅱ・・・受講料2万3,800円

ケアマネの更新研修は都道府県単位で実施されていますが、基本的なカリキュラム・学習内容については都道府県間において大差はありません。しかし、更新研修にかかる費用負担額が都道府県によって差があります。例えば千葉県の場合だと、費用負担は以下のようになります。

  • 更新研修・・・受講料5万800円
  • 専門研修Ⅰ・・・受講料4万3,280円
  • 専門研修Ⅱ・・・受講料3万2,400円

東京都と千葉県はお互いに隣接していますが、かなり受講額に差があるわけです。

受講料が高い都道府県のケアマネは、学習内容や「資格更新できる」という点では他の都道府県と同等なのに、金銭面でより大きな負担が発生します。

ケアマネ更新研修の問題点と要改善ポイント

ケアマネ業務は忙しさが増し、時間が取れない

ケアマネ更新研修は受講のために数十時間を要しますが、高齢化が進み、要介護者が増えつつある現在、「時間の確保しにくさ」の度合いが増しつつあります。

今から23年前の介護保険制度が始まった当時、ケアマネは制度上定められている業務のみこなしていれば良いという部分が多分にあったと言われています。ケアマネ自体は実際の身体介護なども行わない事務職であるため、「負担の少ない上位職」といった印象もあったようです。

厚労相がケアマネの更新研修を改善すると言及。受講時の負担は減...の画像はこちら >>

しかし近年、ケアマネの業務が増えている、忙しいという声が現場から頻繁に聞こえるようになっています。それは各種事務作業の忙しさもさることながら、制度上定められている業務以外のことも、利用者からお願いされることが増えていることにその要因があります。

例えば本来のケアマネ業務ではない、利用者の通院・入退院の付き添いといったこともその1つです。

ケアマネは利用者が入院する場合、利用者支援のために病院側の担当者とも連絡を取りますが、その際、病院側から入院生活に必要なものを提示されます。利用者に家族がいれば家族が対応しますが、近年では全国的に独居高齢者が増えていることもあり、身内でやる人がおらずケアマネがやらざるを得ない、という事態が増えているのです。

さらに利用者からのお願いで、介護保険に関係のない行政手続きの代理、体調不良時の対応、ゴミ屋敷の掃除、家具・家電の買い物代行などを行っているケアマネは、全国的に多数いると言われています。もちろんこれらの支援は、ケアマネ本来の業務ではありません。

訪問介護の生活援助サービスでも日常生活の支援は受けられますが、制度上できることが厳密に規定されています。そうした厳密さがなく、日ごろから「何でも話せる介護の相談相手」であるケアマネに対して、何でもお願いしてしまう利用者が多いのです。ケアマネとしても、利用者とは長く付き合っていくことになるため、お願いされると断りにくい面もあるようです。

本来の業務・膨大な事務作業に加えて、こうした業務外の仕事も増えているのが実情と言えます。そんな中で更新研修の時間を確保することは、現場のケアマネにとっては極めて大きな負担となるわけです。

都道府県間の費用差の存在が、不満を大きくさせる

また、受講費用の大きさも更新研修への不満を大きくさせる要因です。

更新研修、専門研修Ⅰ、専門研修Ⅱそれぞれが3~5万円の費用がかかります。しかもこの3項目のうち、2つを受けることになることが多く、参考書の費用も含めて5年ごとに6~10万円近くもかかるのが通例です。

しかも先に見た通り、都道府県の間での費用差が大きいです。高めの都道府県(特に隣の都道府県よりも高い場合)だと、当然ながら不公平感、不満感が高まるでしょう。

ケアマネの更新研修の見直しポイントは、やはり「受講時間の長さ」と「費用の負担状況」にあると言えます。コロナ禍以降、オンライン化による受講も普及しつつありますが、パソコン、ウェブカメラ、イヤホン・マイクを自費で用意する必要があり、さらに「受講者以外の第三者が受講内容を視聴できないようにする環境を確保すること」なども必要です。オンライン化は研修の受講場所への移動負担は減らせますが、これまで見てきた問題の根本的な解決にはならないでしょう。

今回は衆議院の厚生労働委員会で議題となったケアマネの更新研修について考えてきました。今年度に実態調査を行うという状況で、すぐの改善は難しい面もあると考えられますが、国・厚生労働省にはなるべく早く対策を打ち出してもらいたいところです。