鍼灸師になるには?資格の種類と取得方法

はり師ときゅう師の違いと資格取得の流れ

鍼灸師という職業は、「はり師」と「きゅう師」の2つの国家資格を持つ医療従事者のことを指します。

はり師とは、鍼(はり)を用いて、身体の特定の部位(経穴やツボと呼ばれる場所)を刺激することで、さまざまな症状の改善を目指す専門家です。一方、きゅう師は、お灸(きゅう)を用いて、経穴に熱刺激を与えることで、体の不調を整えていく専門家を指します。

鍼灸師になるためには、まず、厚生労働省に認可された養成校(専門学校や大学)に入学し、所定の課程を修了する必要があります。養成校では、解剖学や生理学といった基礎医学から、東洋医学の理論、鍼やお灸の技術など、幅広い知識と技能を学びます。

そして、卒業後に、はり師・きゅう師国家試験に合格することで、晴れて鍼灸師として活躍できるのです。

なお、現在、日本の多くの鍼灸師養成校では、はり師ときゅう師の両方の資格が同時に取得できるカリキュラムが組まれています。これは、鍼とお灸をバランス良く組み合わせることで、より効果的な治療を提供できるようになるためです。

2023年度のはり師国家試験の受験者数は4,176名、きゅう師国家試験の受験者数は4,111名で、近年は増加傾向にあります。社会の高齢化が進み、健康志向が高まる中で、東洋医学への関心の高まりが追い風となっているのかもしれません。合格率は、はり師が69.3%、きゅう師が70.2%と、低いわけではありませんが、鍼灸師の道を目指すなら、学業に励み、しっかりと国家試験対策に取り組むようにしましょう。

鍼灸師の資格取得方法や働き方を徹底解説!主婦や社会人、50代...の画像はこちら >>

鍼灸師の資格が取得できる養成校の種類と特徴

鍼灸師になるための養成校には、大きく分けて専門学校と大学の2種類があります。

専門学校は3年制が一般的で、より実践的な技術の習得に重点が置かれています。一方、大学は4年制で、鍼灸の基礎理論や研究により時間が割かれる傾向にあります。ただし、どちらも卒業時には国家試験受験資格が得られます。

はり師・きゅう師に加えて柔道整復師の資格も取得できる学校もあるのが特徴です。

また、大学では鍼灸学部や鍼灸学科だけでなく、医療保健学部などに付属する形で鍼灸学専攻が設置されているケースもあります。医学的な知識をより深く学べる環境が整っているといえるでしょう。

主婦や社会人が働きながら資格を取る方法

鍼灸師を目指す主婦や社会人の中には、仕事や家事・育児との両立が難しいという悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。毎日の生活に追われ、なかなか自分の時間が取れないと感じている人もいるかもしれません。

そんな方におすすめなのが、夜間の時間帯を設けている大学や専門学校です。夜間学校は、夕方から講義がスタートするため、日中は仕事や家事に専念し、夜は学びの時間に充てることができます。

主婦の方も、家族が帰宅した後の時間を有効活用できるでしょう。また、日中働いている社会人の方も、仕事終わりに通学するという選択肢が取れます。

ただし、夜間学校に通うには、体力面での負担も覚悟しなければなりません。仕事や家事で疲れた体で、さらに夜の講義に臨むのは容易ではないかもしれません。

でも、鍼灸師になるという目標を持ち、そこに向かって一歩ずつ進んでいけば、きっと乗り越えられるはずです。家族の理解と協力を得ながら、自分のペースで学んでいくことが大切です。

なお、現状では、通信教育の課程では鍼灸師の資格を取得することはできません。

国家資格である以上、実技や臨床実習などの対面授業が不可欠だからです。自宅学習だけで資格取得を目指すのは難しいので、注意が必要です。

鍼灸師の国家試験の内容と合格率

鍼灸師の国家資格を取得するには、卒業後にはり師・きゅう師国家試験の合格が必須です。

試験は毎年2月に行われ、受験資格は養成校卒業見込み以上となっています。 試験科目は、医療概論(医学史を除く。)、衛生学・公衆衛生学、関係法規、解剖学、生理学、病理学概論、臨床医学総論、臨床医学各論、リハビリテーション医学、東洋医学概論、経絡経穴概論、きゅう(はり)理論及び東洋医学臨床論。

合格基準は、1問1点で102点以上となっています。

過去5年間(2019~2023年)の国家試験合格率をみると、はり師69.4%、きゅう師70.2%で、70~80%を推移しています。

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はり師・きゅう師国家試験の過去5年間の合格率推移

鍼灸師を志す方は、国家試験対策にもしっかり取り組みましょう。養成校のサポート体制を活用しながら、計画的に学習を進めていくことが合格への近道となるでしょう。

鍼灸師の仕事内容と働き方

鍼灸院・接骨院での施術と1日の流れ

鍼灸師の主な働き口は、介護施設に加え、鍼灸院や接骨院が主になります。鍼灸院では主に鍼とお灸を用いた施術を、接骨院では鍼灸に加えて柔道整復術による施術を行います。

施術の流れは、まず患者の症状をヒアリングし、体の状態を診察します。その後、鍼やお灸を用いて、患部やツボに刺激を与えていきます。

施術時間は1回あたり30分から1時間程度が一般的です。

鍼灸師の1日の仕事の流れは、午前中に施術の準備や事務作業を行い、午後から夕方にかけて施術に当たるというパターンが多く、施術の合間には、患者へのアドバイスやカルテの記入なども行います。

美容鍼灸やスポーツ分野での活躍

近年、美容や健康意識の高まりを受けて、美容鍼灸やスポーツ分野で活躍する鍼灸師が増えています。

美容鍼灸は、顔や身体のツボに鍼を刺すことで血行を促進し、肌の代謝機能を高める効果が期待できます。シミ・シワ・くすみの改善、小顔効果など、エイジングケアに定評があります。エステサロンと提携している鍼灸院も増えており、鍼灸師の活躍の場が広がっています。

一方、スポーツ分野では、選手の怪我の治療やコンディショニングを担当する鍼灸師が活躍しています。プロ野球やJリーグなどのトップチームでは、専属の鍼灸師が帯同するケースも。選手をベストな状態に導く重要な役割を果たしています。

このように、美容やスポーツなど、鍼灸師の活躍の場は多岐にわたっています。自身の興味や強みを活かせる分野で、キャリアを築くことができるでしょう。

介護分野での鍼灸師の役割と需要

日本の高齢化率は年々上昇の一途をたどっており、この超高齢社会を支える介護分野でも、鍼灸師の需要が高まっています。介護施設に勤務する鍼灸師は、入所者の慢性的な痛みの緩和や機能回復を手助けします。また、訪問鍼灸では在宅の要介護者やそのご家族をサポートします。

鍼灸は、高齢者の多くが抱える関節痛・腰痛・神経痛などに効果的です。薬に頼らず自然治癒力を高められることから、高齢者やご家族からも人気です。

介護施設の中には、鍼灸師を常勤で雇用しているところも増えてきました。定期的に施術を受けられる環境が整っているのは、入所者にとっても喜ばしいことです。

今後ますます、介護分野で活躍する鍼灸師は増えていくでしょう。

介護分野での活躍を志す方は、高齢者の特性や疾患、コミュニケーションの取り方などを学ぶ必要があります。高齢者ケアのスペシャリストとして、専門性を高めていくことが求められます。

鍼灸師の年収と将来性

鍼灸師の平均年収と給与事情

鍼灸師の平均年収は、厚生労働省のデータによると、459.3万円です。ただし、勤務先や経験年数、自営か否かによって、給与水準には差があるでしょう。

年齢別に見ると、50~59歳が最も高く、平均554.96万円です。

そして、都市部と地方では、鍼灸師の給与水準に違いがあるのも特徴です。東京都の鍼灸師の平均年収は543万円ですが、地方都市では400万円程度にとどまる場合もあります。都市部の方が開業しやすい環境にあり、収入アップのチャンスが多いといえるでしょう。


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開業や独立の方法とポイント

鍼灸師の約半数は開業して、自身の鍼灸院を経営しているそうです。開業のメリットは、自分の理念に沿った施術ができること。

経営が軌道に乗れば、収入アップも見込めます。とはいえ、開業には資金や立地選び、集客など、さまざまな準備が必要です。まずは開業資金の目安を立てましょう。

鍼灸院の立地選びも重要です。人通りの多い商店街や駅前などは、集客面で有利。ただし家賃は割高になりがちです。家賃と集客のバランスを考えながら、物件を選ぶ必要がありますね。

開業後の集客では、ホームページやSNSを活用したWebプロモーションが欠かせません。自院の特色や施術メニューをアピールし、見込み客の獲得を図りましょう。近隣の病院や介護施設への挨拶回りで、連携先を増やすのも効果的です。

鍼灸院の開業成功事例としては、東京都のある鍼灸院が挙げられます。

駅から徒歩1分の好立地に加え、院長の丁寧な施術とカウンセリングが口コミで広がり、開院から3年で月商200万円を達成。鍼灸院の開業モデルとして注目を集めています。

開業には挑戦が付き物ですが、リスクを冷静に分析しつつ、自身の理想の鍼灸院像を追求していくことが何より大切と言えるでしょう。

鍼灸業界の動向と将来展望

日本の鍼灸業界は、高齢化の進展を背景に、今後ますます需要が高まると予想されています。

在宅医療の現場では、鍼灸師の必要性が増しています。2040年には、高齢化率は約35%に達すると予測されており、在宅医療ニーズの増加は避けられません。鍼灸師は在宅での痛みの緩和や、要介護者の生活の質の向上に貢献できるでしょう。

一方で鍼灸業界は、治療院の乱立や療養費制度の改定など、課題も抱えています。厚生労働省の調査では、はり・きゅう療養費の受領委任制度に関する不正請求事案が問題になっており、制度の抜本改革が急務となっています。

このように鍼灸業界は、チャンスと課題が交錯する状況にあります。業界の健全な発展のため、鍼灸師一人一人が高い倫理観を持って施術に当たることが何より求められます。そうすることで、国民の信頼を得ながら、需要に応えていけるはずです。

高齢化の進展で追い風を受けつつ、業界の質の向上を図る。そんな努力の積み重ねによって、鍼灸師という職業の未来は、より輝かしいものになるのではないでしょうか。

50代から鍼灸師を目指すメリットとデメリット

近年、50代以上の方が鍼灸師を志すケースが増えているそうです。セカンドキャリアとして鍼灸の道に進む人や、定年後の生きがいとして鍼灸を学ぶ人など、さまざまなパターンがあります。

50代から鍼灸師を目指すメリットは、これまでの社会人経験を活かせることです。コミュニケーション力や課題解決力など、仕事で培ったスキルは鍼灸の現場でも役立ちます。また、人生経験の豊富さは、患者さんとの信頼関係を築く上でも強みになるでしょう。

都内の学校が好評しているデータでは、はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧科に在籍する40代以上の学生は全体の約25%を占めています。50代も10~15%在籍するなど、キャリアチェンジもしやすいことが伺えます。

一方、50代からのキャリアチェンジには、学費や生活費などの経済的な不安もつきまといます。雇用保険の教育訓練給付制度などを活用し、学びながら生計を立てていく工夫が必要です。

また、解剖学や東洋医学の専門用語など、学習面での負担も大きいでしょう。若い学生に交じって机に向かうのは、精神的なハードルもあるかもしれません。ただ、年齢を重ねた今だからこそ、学ぶことの尊さを実感できるはずです。

50代からの学び直しを支援するため、一部の養成校では社会人優遇制度を設けています。例えば、50代以上の方を対象に、授業料の減免や特別奨学金の支給を行っています。

人生100年時代を迎え、50代は決して遅すぎる年齢ではありません。鍼灸師への道は、新たな人生の一歩となるかもしれませんね。臨床経験豊かな先輩鍼灸師からも、「一番大切なのは、患者さんと誠実に向き合う姿勢だ」という言葉をよく聞きます。

年齢に関わらず、学ぶ意欲と情熱があれば、素晴らしい鍼灸師になれるはずです。

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