「定年を迎えたら引退して、老後は悠々自適にのんびり暮らそう」という高齢者も多いことでしょう。高度経済成長期を必死に働き、支えてこられた今の高齢者は特に、そうした思いを強く持っているかもしれません。

しかし一方で、厚生労働省からは、「高齢者が率先して働ける社会の実現を目指す」というアナウンスがされています。

年齢に関係なく、体力や意欲、能力がある限りは働き続けるというのもひとつの選択肢…というよりも、そうした社会体制を整えなければならないのが今の日本です。

言うまでもなく、日本は今、世界でも他に類を見ないほどの高齢社会を突き進んでいます。

その結果として、介護はもちろん、年金や医療などの社会保障制度が崩壊の危機に瀕しているというのは、【まとめ】ニュース:医療費抑制政策についてわかりやすく解説!現役世代の負担を軽くするために高齢者の負担増は仕方ないのか!?でもお伝えしてきた通りです。

社会保障制度を崩壊させることなく、これからの日本を支えていくための一手が「高齢者の労働」と考えられているのですが、果たしてなぜ、高齢者が働くことが社会を支えることになるのでしょうか?

その理由や、高齢者が働くことによって生まれるメリットについて国、企業、そして高齢者自身…と、それぞれの目線から考えると同時に、高齢者が働く環境整備の“今”について検証してみました。

高齢者が働くことで国の税収もアップ。高齢者の雇用促進が日本の財政・社会保障を救う!?

まずは国のメリットについて考えてみましょう。

そもそも日本人の高齢者は就業意欲が非常に高いと言われており、その実態は下記のアンケート結果を見ても分かる通りです。

高齢者の雇用促進によって生まれるメリットとは?国も企業も…“働く高齢者”が日本を救う!?
雇用・就業体系に関しての高齢者の意識調査

これは60~69歳の男女計3466人へのアンケート結果で、「まだ企業を支えられる」と回答している人が全体の7割以上にも上っています。

つまり、それだけ自らの経験や、それに基づく知識やスキルが十分にあるという意識があり、それを活かす場さえあれば“働く”ということに対して前向きであるとも言えるでしょう。(「年金が十分ではないので働かねばならない」という回答も5割以上に上りますが)。

一方で、「働けない人もいることを踏まえた仕組み作り」を求める人が8割以上の人もいることからも、いかに高齢者の労働に対する欲求が高いかということも分かります。

ぜひ、そうした高齢者にとっての理想的な労働環境が整って欲しいと思いませんか?なぜなら、高齢者が率先して働けるような社会には、財政的な面でも大きなメリットがあるのだから。

今の日本経済には、膨れ上がる社会保障費が大きな問題としてのしかかっています。それは、他でもない“高齢者の生活を支えるため”という名目のもとで支給されている年金・医療・介護にかかる費用。

高齢者自身の負担や社会保険料ではまかないきれず、税金や国債を投入してなんとかやりくりしているというのが現状ですが、例えば働くことによって心身が健康になれば医療や介護にかかる国の費用を抑えることができるでしょう。

高齢者の雇用促進によって生まれるメリットとは?国も企業も…“働く高齢者”が日本を救う!?
社会保障給付費と社会保険料の差額を示したグラフ

また、高齢者自身が収入に対する所得税を納めるようになれば、国としての税収が増えることに。消費税増税が先送りになったことを受け、国の収入源として所得税の割合が増えるのは願ってもないことのはずです。

高齢者の雇用促進によって生まれるメリットとは?国も企業も…“働く高齢者”が日本を救う!?
平成26年度の一般会計予算・歳入の内訳

いよいよ来週の日曜日には衆議院議員総選挙が行われます。

社会保障システムの再構築が争点に挙げられていますが、一方で、高齢者が働きやすい環境を作り、世代を問わず生産性を上げる方向へ導いてくれるような政治家に、これからの日本を引っ張っていって欲しいものですね。

高年齢者雇用安定法が改正されて、実質、定年は65歳に。年金の支給が始まる年齢まで働けるように

高齢者の雇用促進によって生まれるメリットとは?国も企業も…“働く高齢者”が日本を救う!?
高齢の雇用者数の推移を示したグラフ

日本には古くから定年退職制度があり、一定の年齢に達すると自動的に雇用関係が終了するというシステムがありました。1970年代などは55歳を定年としていたほどです。それが、60歳、65歳…と引き上げられる傾向にあるのは皆さんもご存知のことでしょう。

上記のグラフの通り、60~64歳、65歳以上の雇用者(労働者)の数は2013年までの10年間で増加の一途です。

こうして高齢の労働者が増えることになった理由には、主に2つが考えられます。ひとつは、厚生年金の支給開始年齢が引き上げられるようになったこと。もうひとつは、年金の支給が開始される年齢まで働ける環境を整えなければならなくなったこと、です。

国民年金に関しては、制度の発足当初から65歳でしたが、厚生年金は1954年に55歳だったものが、今現在は65歳へと引き上げられることになっています。

例えば定年が60歳だったとすると、年金が支給されるまでの5年間が無収入となってしまい、生活が成り立たなくなってしまう人が続出する…。

そんな事態を避けるために、高齢者でも働ける環境を作る必要が出てきたのです。

国の施策としては、2013年4月に改正高年齢者雇用安定法を施行。

大きなポイントとして、希望者全員を65歳まで雇用することを、雇用主に義務付けています。

これにより、“希望者のみ”という前提ではありますが、定年が65歳になったと考えられ、確かに年をとっても働ける環境づくりの基盤は整ったと言えるかもしれませんね。

全労働力人口の1割は高齢者に。だからこそ、高齢者の労働力を活かさない手はない!

次に、企業側にとってのメリットについて見ていきましょう。

下記のグラフは労働力人口(15歳以上の人口のうち就業者と失業者を足したもの)における高齢者の割合を示したものですが、高齢者の割合が急激に増えていることからも、高齢の労働者が増えるのは当然と言えるかもしれません。

高齢者の雇用促進によって生まれるメリットとは?国も企業も…“働く高齢者”が日本を救う!?
全労働人口の推移を示したグラフ

こうしたグラフを見ていくと、よく「高齢者が引退しないと若者の就業機会が失われてしまうのではないか?」という議論が起こりがちですが、それはある意味でナンセンスだと考えられます。

というのも、その懸念は、働く人の総数が一定であることが前提のものであり、有効求人倍率が高い水準を保ち、様々な業界で“人手不足”が叫ばれる今の日本では、高齢者が働き続けても若年層の雇用機会をなくすことにはつながらないと言えるからです。

また、そもそも高齢者に“任せる”仕事と、若者が“やりたい”と思う仕事は同じものではないという考え方もありますし、高度な知識や経験をもつ高齢者が引退したとして、それをすぐに若者が引き継ぐのも難しいでしょう。

つまり、高齢者が働き続けることと若者の就業機会の関係性について考える必要はなく、自分が持つ知識や経験をいかに社会に還元して貢献していくかということを、単純に考えれば良いのではないでしょうか。

そんな良い例を、以下にいくつかご紹介します。

企業は高齢者の知識・経験・スキルを欲している!? “求められて働く”ことが高齢者にとっての幸せに

高齢者が持つ知識やスキルを存分に発揮すること。それこそが、雇用する側の企業にとっての大きなメリットとなるのですが、一例として、いち早く高齢者の雇用について制度化を始めた空調機メーカー大手の『ダイキン工業(株)』を見てみましょう。

高齢者の雇用促進によって生まれるメリットとは?国も企業も…“働く高齢者”が日本を救う!?
高齢者の知識や経験が企業活動に重要な役割を果たす

ダイキン工業では定年を60歳に定めていますが、1991年には63歳までの再雇用制度を整備。その後、2001年には65歳にまで年齢を引き上げ、2002年になると最長で70歳まで働くことができる「シニアスキルスペシャル契約社員制度」を整備しました。

ただし、この制度を活用して働き続けられるのは“余人をもって代えがたい人材”と規定されています。

「シニアスキルスペシャル」という制度だけあって、豊富な知識や経験をもった人材だけが70歳まで働ける、ということ。

裏を返せば、定年時までに知識と経験を蓄積し、次世代に引き継いでいくべきノウハウを持った人は“代えがたい”と評価されるということになります。

また、福島県に本店を構える地方銀行『東邦銀行』では、パート勤務が可能な年齢を70歳まで引き上げると同時に、契約や嘱託といった扱いではなく、管理職として働ける制度を導入しています。

少子化や不況などによって新たな人材の確保が難しくなる中で、金融における専門的な知識やノウハウを持つ人材は、たとえシニアといえども貴重な存在ということでしょう。

60歳や65歳といった年齢を境目にして、すぐに能力が衰えるなんてことはないですよね。

専門的な知識や経験のある人材に関しては、企業サイドとしても働いて欲しいと思っているのです。

そうして“求められて働く”ということは、高齢の皆さんにとっても幸せなことなのではないでしょうか。

70代のおばあちゃんが葉っぱを売って年収1000万円超え!? 四国の山奥に住む高齢者に働く場を作った、その斬新なアイデアとは?

最後に、高齢者自身にとってのメリットについて見ていきます。これは、「若者がやりたい仕事とは異なる」ことの好例で、人口2000人にも満たない徳島県上勝町にある『いろどり』という会社の話。

高齢者の雇用促進によって生まれるメリットとは?国も企業も…“働く高齢者”が日本を救う!?
葉っぱを販売して利益をあげる徳島県上勝町における『いろどり』の取り組み

高齢化率が約50%という上勝町では、町ぐるみで地域活性化モデルを模索。

そうして結実したのが“葉っぱ”を活かしたビジネスです。

周囲を山に囲まれる上勝町には豊富な森林資源があり、木々の葉っぱを料亭などで出される料理を彩る“つまもの”として販売しているのです。

商品となる葉っぱを摘み取るのが、地域に住む高齢者や女性の仕事です。料亭などに卸して、『いろどり』の年商はなんと2億6000万円!年収1000万円を超える70代のおばあちゃんもいるそうで、少子高齢化が進む地方の山間部の一大産業にまで発展しています。

こうして地域が活性化したことで、なんと町内の老人ホームが閉鎖になったそう。

おばあちゃんたちは収穫した葉っぱの出荷にあたってタブレットパソコンを駆使して、市場の動向を分析してマーケティングを行っているそう。

そうして体だけでなく頭も使うことによって健康になり、老人ホームに入らなくても良くなったのです。

厚生労働省のホームページを見ると、「高年齢者が健康で、意欲と能力がある限り年齢にかかわりなく働き続けることができる社会の実現を目指します」とあります。

それを見事に実現している徳島県上勝町の葉っぱビジネスは、少子高齢化や過疎化、高齢者の雇用について悩める地方部にお住まいの方にとって、とても参考になる取り組みではないでしょうか。

高齢者自身が介護業界で働くのもアリ!?経験を活かすだけでなく、異業種に飛び込むチャレンジ精神も大切

高齢の皆さんの中には「働きたいけれど、働く場所がない」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか?確かに、求人情報を見渡しても採用に関して年齢制限を設けている会社がたくさんあるのは事実です。

しかし一方で、人材不足が叫ばれている業界はたくさんあるのもまた事実。例えば現状では、飲食を含めたサービス業全般や、それこそ介護業界は常に人材不足の状態が続いています。こうした業界で働くという選択肢を一考するのも良いのではないでしょうか?

求人情報をチェックしてみれば、そうした業界では年齢制限を幅広く設定しているところがあるはずです。実際に、60歳を過ぎてから訪問ヘルパーとして活躍する人も少なくありません。

高齢者の労働環境に関しては、国による整備も着々と進んでいます。民間企業の中にも積極的に高齢者を採用している会社もあります。あとは高齢者の皆さんの意識次第とも言えるのではないでしょうか。

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