約束手形とは、期日までに決められた金額を支払うことを約束する有価証券のことです。資金調達までの期間を猶予できるメリットがありますが、今後廃止予定である点に注意しなければなりません。
本記事では、約束手形と為替手形・小切手の違いや、廃止以降の見通しなどについて解説します。
約束手形とは
約束手形とは、期日までに決められた金額を支払うことを約束する有価証券のことです。約束手形を発行し、後日代金を支払うことを約束する人を「振出人」、代金を受け取る人のことを「受取人」と呼びます。
約束手形の振出人は、期日までに指定の金融機関に決済資金を入金しておかなければなりません。受取人は、指定の銀行に手形を提示するか、取引銀行に取り立てを依頼することで期日に現金化ができます。
約束手形を利用する際は、必要的記載事項を確認することが重要です。必要的記載事項とは、支払期日のように記載が漏れていると効力が無効になる項目を指します。
約束手形を活用する方法
ビジネスにおいて、裏書譲渡や手形割引で約束手形を活用することがあります。それぞれの方法を確認していきましょう。
裏書譲渡
裏書譲渡とは、受取人が約束手形の裏面に自分の名前(社名)を記載して押印したうえで、第三者に譲渡することです。これにより、買掛金支払いなどの目的で手形を支払期日前に利用することが可能です。
約束手形の裏面には、「表記金額を下記被裏書人またはその指図人へお支払いください」との文言があります。そのため、この裏書人欄に受取人の署名(記入捺印)、被裏書人欄に譲渡先の氏名・名称があれば、原則として権利を移転させられる点が約束手形の特徴です。
ビジネスで裏書譲渡を利用する際、主に以下の流れで進められます。
1.B社がA社に商品を販売する
2.代金として、B社がA社から約束手形を受け取る
3.B社がC社から原材料を仕入れる
4.代金として、B社がC社にA社から受け取った約束手形を裏書譲渡する
5.C社が取引銀行に対象の約束手形の取り立てを依頼する
6.支払期日にC社が約束手形の金額を受け取る
なお、裏書譲渡で約束手形を受け取った人や会社も、指図禁止の文句が記載されていない限り、さらなる裏書譲渡が可能です。
手形割引
手形割引とは、受取人が支払期日前に約束手形を金融機関や手形割引業者に買い取ってもらい、現金化することです。
本来、受取人は約束手形を銀行に持ち込んでも、支払期日前には現金を受け取れません。そこで、手形割引料を引いて買い取ってもらうことにより、急いで資金が必要な場面でも期日前に現金化ができます。
一般的に、手形割引の流れは以下の通りです。
1.B社がA社に商品を販売する
2.代金として、B社がA社から約束手形を受け取る
3.B社が取引銀行などに手形割引を依頼する
4.依頼された銀行が審査する
5.審査の結果承認になったら、割引料を引いた額を申込人(B社)口座に入金する
なお、手形割引では、申込人だけでなく振出人の信用も審査結果を左右します。
約束手形と為替手形・小切手の違い
約束手形と混同しやすい有価証券が、為替手形と小切手です。それぞれの概要や違いについて詳しく解説します。
為替手形との違い
「2者間取引」か「3者間取引」であるかという点が、約束手形と為替手形の主な違いとして挙げられます。
為替手形とは、振出人が支払人(名宛人・引受人)に対して、受取人(名指人・指図人)が手形を提示した際の代金支払いを依頼する形式の有価証券のことです。主に以下のように為替手形を利用します。
1.B社がA社に商品を販売する
2.B社がA社に対して手形の引き受けを依頼し、A社が了承する
3.B社がC社から原材料を仕入れる
4.B社が代金としてC社に為替手形を発行する
5.C社が取引銀行に為替手形の取り立てを依頼する
6.支払期日にC社が為替手形の金額を受け取る
為替手形の取引で登場するのは、振出人・支払人・受取人の3者です。それに対し、約束手形では、裏書譲渡しない限り振出人と支払人の2者でのみ取引します。
小切手との違い
現金化までにかかる期間やタイミングが、約束手形と小切手の主な違いとして挙げられます。
小切手とは、支払銀行に持参すれば記載した金額を受け取れることを約束した有価証券のことです。小切手を発行する人・会社を「振出人」、小切手を受け取って銀行に持ち込む人を「持参人」と呼びます。
約束手形の場合、裏書譲渡や手形割引を利用しない限り受取人は期日前に現金化できません。一方、小切手の場合、受け取ってすぐ金融機関に持参しても支払いを受けられます。そのため、振出人はいつでも支払えるように、振り出す時点であらかじめ当座預金口座に必要な資金を用意しておかなければなりません。
小切手の仕組みやメリット・デメリットについて、より詳しく知りたい方は以下の記事を参考にしてください。
小切手とは?振出しの流れや手形との違いについても解説
なお、約束手形を振り出す場合も小切手を振り出す場合も、振出人は事前に取引金融機関で当座預金の開設が必要です。
約束手形のメリット・デメリット
ここからは、約束手形を振り出すメリットと、デメリットについて確認していきましょう。
約束手形を振り出すメリット
約束手形を振り出せば、支払いまでの期間を延ばせる点がメリットです。期日まで支払いを猶予できる分、資金繰りを改善できます。
なお、約束手形を利用する際は、手形の支払サイトを意識することが大切です。支払サイトとは、手形を振り出した日から支払期日までの期間を指します。一般的に、手形サイトが長ければ長いほど振出人は資金繰りにゆとりができる一方で、現金を受け取るまでの期間が長くなる受取人は資金繰りが悪化しやすいです。
約束手形を振り出すデメリット
振出人は、万が一不渡りになった場合に各種取引ができなくなる可能性がある点がデメリットです。
不渡りとは、取引口座の残高不足などの事情により、振り出した約束手形の金額が支払われないことです。6か月以内に2回の不渡りを発生させると銀行取引停止処分が下されます。銀行取引停止処分を受けた場合、以降2年間当座預金や融資に関する取引をできません。
約束手形を振り出す際に、収入印紙を貼らなければならない点もデメリットです。収入印紙の金額は、振り出す約束手形の金額によって決められています。
また、受取人にとっても、期日内に換金しないと現金化できなくなる可能性がある点がデメリットです。
今後約束手形が廃止される?
今後、約束手形が廃止される可能性があります。「現金を受け取るまでの期間が長い」「期限前に現金化する際の割引料が高い」などの理由で、取引上立場の弱い受注側の資金繰りを悪化させていたことが、政府が手形の利用廃止を進める主な要因です。
政府・産業界・金融界では、2026年の約束手形の利用廃止に向けた取り組みを進めています。政府では、手形の代わりに「現金による支払い」や「電子記録債権による支払い」を検討することを促しています。
約束手形廃止に向けて検討すること
今まで約束手形を利用していた人や企業は、廃止に備えて代替案を考えておかなければなりません。代わりになる主な手段は、以下の通りです。
・現金振込による取引への移行
・電子記録債権の導入
それぞれ解説します。
現金振込による取引への移行
政府は、受注側への支払いに約束手形を利用している事業者に対し、紙の約束手形の代わりに原則として「現金による支払い」に切り替えることを求めています。なぜなら、現金への支払いを進めることで、受注側がスムーズに資金を受け取れるようになるためです。
「現金による支払い」には、インターネットバンキングによる銀行振込も含まれています。インターネットバンキングを利用すれば、担当者が銀行に行かず社内で手続きできる点や、利用可能な時間が長い点がメリットです。
電子記録債権の導入
約束手形廃止に向けて、電子記録債権を導入する方法もあります。電子記録債権とは、紙の手形を振り出して取引先に譲渡する代わりに、電子債権記録機関の記録原簿に電子記録して効力を発生させる金銭債権のことです。
電子記録債権の代表例として、「でんさい」が挙げられます。窓口金融機関を通じて、でんさいネットの記録原簿に「発生記録」を行うことで発生し、同じく記録原簿で「譲渡記録」を行うことにより譲渡できる点が「でんさい」の特徴です。
支払企業は、「でんさい」の利用にあたって印紙税がかかりません。また、ペーパーレスの分、受け取る側も保管が不要で盗難リスクを軽減できる点がメリットです。
約束手形廃止を見据えて
約束手形とは、期日までに決められた金額を支払うことを約束する有価証券のことです。ビジネスでは、裏書譲渡や手形割引などで約束手形を活用する場面があります。
約束手形を振り出せば、支払いまでの期間を延ばせる点がメリットです。ただし、政府・産業界・金融界で、2026年の約束手形の利用廃止に向けた取り組みを進めている点に注意しなければなりません。
約束手形に代わる主な方法は、インターネットバンキングによる銀行振込や、電子記録債権の導入です。株式投資をしている人は、投資先が約束手形廃止に向けた準備を進めているかチェックしてみてはいかがでしょうか。
参考:一般社団法人 全国銀行協会「『手形・小切手機能の全面的な電子化に向けた自主行動計画』の改定について」
参考:株式会社全銀電子債権ネットワーク「電子記録債権とは」
ライター:Editor HB
監修者:高橋 尚
監修者の経歴:
都市銀行に約30年間勤務。