会社に籍を置いたまま、出産や子育てに専念できる産前・産後休業(産休)や育児休業(育休)。給料が支払われない会社も多いが、給料の50~70%程度に相当する「出産手当金」や「育児休業給付金」が健康保険・雇用保険から支給される。
ここで気になるのが、「産休・育休中も社会保険料を支払わなければいけないのか?」ということ。収入は減ってしまうため、負担ばかりが増えるように感じられる。そこで、ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の川部紀子さんに、産休・育休中の社会保険がどうなるのか、教えてもらった。
産休・育休中は原則「社会保険料が全額免除」
「前提として押さえておきたいのは、産休・育休中に労務に従事しなかった期間は社会保険料が全額免除になるということです。出産日以前6週間(双子以上の場合は以前14週間)から産後8週間まで取得できる産休、原則として子どもが1歳(最長3歳)になるまで取得できる育休の期間すべてが免除の対象となります」(川部さん・以下同)
収入は下がっても社会保険料が免除になるため、支出を抑えることができるというわけだ。ただし、免除の期間に注意が必要とのこと。
「社会保険料は日割りではなく1カ月単位で計算されるので、免除の期間も1カ月単位で見ていくことになります。そのため、正確な免除期間は『産休または育休を開始した月から、休業終了日の翌日(職場復帰した日)が属する月の前月まで』です」
例えば、2024年7月10日から休業に入り、2025年7月10日に職場復帰したとする。この場合は休業に入った2024年7月から、「職場復帰した日が属する月の前月」に当たる2025年6月までの12カ月が社会保険料免除の期間となる。
例外的に「職場復帰した日」がその月の末日の場合は、その月も免除の対象となる。2025年7月31日に職場復帰した場合は、2025年7月分の社会保険料も免除されるのだ。
男性のなかには、数週間~1カ月程度の育休を取得する人も多いだろう。その場合も、月末を挟んで育休を取得していれば、育休を開始した月の社会保険料が免除となる。
「休業取得の直前や休業中に、ボーナス(賞与)が支給されることもあるでしょう。『ボーナスが支給された月の末日を含む連続した1カ月を超えて休業を取得』に該当する場合は、ボーナスにかかる社会保険料も免除となります」
2025年7月10日にボーナスが支給された後、2025年7月20日から2025年8月21日まで育休を取得した場合、ボーナスにかかる社会保険料も免除される。
「産休・育休中は社会保険料が免除となりますが、年金に関しては納めているものとして記録されます。そのため、将来の年金が減ってしまうということはありません」
社会保険料免除の申請は会社に申し出ればOK
産休・育休中の社会保険料を免除してもらうためには、あらかじめ申請する必要があるという。
「産休・育休を取得したら自動的に免除されるわけではなく、申請が必要です。申請を行わなかった場合は、休業前と同等の社会保険料の納付が求められます。ただし、難しい手続きが発生することはありませんし、基本的に申請できない、または申請し忘れたということはないでしょう」
川部さん曰く、「産休や育休を申請する際に、勤務先に社会保険料の免除について申し出れば、会社側で手続きを行ってくれる」とのこと。
「一般的に、会社側が産休・育休の手続きとあわせて社会保険料免除の手続きも行うと考えられます。なぜかというと、社会保険料は会社と社員が折半で納付しているものであり、産休・育休中の免除は会社にも適用されるからです。会社の負担も軽減する制度なので、産休・育休の手続きとあわせて行ってくれるでしょう」
立ち上げられたばかりの会社や小規模の会社などで産休・育休の手続きの経験が少ない場合は、社会保険料免除の申請漏れがないとはいえないため、あらかじめ社内の担当者に確認しておくことが大切とのこと。
「万が一、免除の申請が行われていなかった場合は、産休・育休中に社会保険料の納付が求められますが、後からでも年金事務所で免除の手続きを行うことでさかのぼって対応してもらうことができます。社会保険料免除に関しては2年間という時効期間が設けられているので、2年以内の産休・育休であれば、終わった後でも手続きを行うことが可能です」
復帰直後は「給料ゼロ」になる可能性がある!?
社会保険料に関しては、産休や育休から復帰した後にも注意点がある。
「ただし、給料に関しては、ひと月分きちんと受け取れるとは限りません。給料の締め日に勤務していなかったために給料が発生しない、または締め日までの数日しか勤務していないために日割りで計算される給料が少ないといったことが起こり得るのです。一方で、社会保険料は休業前と同等の金額が求められるので、復帰直後の給料の手取り額が大きく減ってしまう、場合によっては『給料ゼロ』になる可能性もあります」
給料よりも社会保険料のほうが多ければ、足りなかった分は翌月に請求されることになる。復帰直後は休業前の給料がそのままもらえるわけではない、と覚えておいたほうがいいだろう。
さらに、復帰後に短時間勤務に切り替える場合は、休業前よりも給料が下がることが多いため、社会保険料の負担が大きくなりやすい。
「短時間勤務で働く際は、会社が『育児休業等終了時報酬月額変更届』を提出してくれます。多くの会社では、短時間勤務の申請を行うタイミングで、同時に手続きを行えるでしょう。この制度によって、短時間勤務が開始してから3カ月分の給料の平均額から算定した標準報酬月額を用いて社会保険料が見直されるため、負担を抑えることができます」
「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出してから3カ月間の給料をもとに計算し直されるため、その間の3カ月は休業前と同等の社会保険料を支払う必要があり、4カ月目から社会保険料が見直される。
ここで少し気になるのが、標準報酬月額の低下によって、将来の年金額も減ってしまうのではないかという点だ。
「基本的に、産休や育休、短時間勤務を申請する際に『養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置』という制度の手続きも行うでしょう。この制度は、子どもが3歳になるまでの間、休業や短時間勤務によって給料が下がったとしても、休業前の標準報酬月額をもとに年金額を計算するというものです。
社会保険料の免除以外にも、生活を支える制度が充実している。基本的に、産休や育休、短時間勤務を申請する際にあわせて手続きを行えるが、心配な場合は会社に確認してみよう。
(取材・文/有竹亮介)