サントリーウエルネスが研究「推し活×高齢者」によって延びる“...の画像はこちら >>


市場で注目を浴びているトレンドを深掘りする連載「マネ部的トレンドワード」。今回取り上げるテーマは、「1億総推し活」。



健康食品や美容商品を提供しているサントリーウエルネスが、京都大学と大阪公立大学との共同で「推し活」に関する研究を行った。高齢者施設の利用者を対象に推し活と幸福度の関係を調査したところ、「推し活度」と「生きがい」が連携しており、人とのつながりも生まれて幸福度が進展するという結果が見られた。

サントリーウエルネスがこのような調査を行った背景と高齢者の推し活による効果の詳細について、同社経営企画本部の名古路実希さん、関口友香子さんに聞いた。

高齢者施設利用者延べ1万5000人が参加する「Be supporters!」

サントリーウエルネスが研究「推し活×高齢者」によって延びる“幸福寿命”
サントリーウエルネス経営企画本部の関口友香子さん(左)と名古路実希さん(右)

サントリーウエルネスが高齢者の推し活に関する研究を行った背景には、同社が2020年から開始した活動「Be supporters!(以下、Beサポ!)」がある。

サントリーウエルネスが研究「推し活×高齢者」によって延びる“幸福寿命”
画像提供/サントリーウエルネス
「Be supporters!」活動の様子。

「Beサポ!」とは、“いくつになってもワクワクしたい、すべての人へ”というコンセプトのもと、高齢者施設の利用者が地元のJリーグクラブチームを応援する活動で、普段支えられる場面が多い高齢者が、チームや選手を支える存在になっていくことを目指している。2020年12月から活動が始まり、2021年からJリーグとパートナー契約を結び、2025年時点で全国250施設、延べ1万5000人が参加するプロジェクトになっている。

取り組みが始まったきっかけは、ユーザーからの言葉にあったとのこと。

「当社のサプリメントを愛用してくださっていた方から『認知症と診断されたので、定期購入をやめます』というご連絡をいただきました。そのときに、たとえ身体に“負”が生じたとしても、会社として何か貢献できることはないかと考え、『人間の生命の輝きをめざす』というサントリーグループの企業理念を掲げる会社として、病気の“予防”だけでなく、病気であるかないかに関わらず心を豊かにワクワク生きるという“共生”の価値観を大切にし、人生100年時代をネガティブに捉える社会の認識を変えたいという考えのもと、高齢者施設の方々に向けた取り組みを始めようとアクションを起こしたのがきっかけです」(名古路さん)

サントリーウエルネスが研究「推し活×高齢者」によって延びる“幸福寿命”


そこで目を付けたのが、サッカーの試合観戦だった。サッカーのクラブチームは全国に60クラブあるため、各地の高齢者施設との連携がしやすい。さらに、Jリーグが「スポーツを通じて地域を幸せにする」という思いのもと創設したこと、サッカーファンの総称である「サポーター」が「Beサポ!」の“支えられる存在から支える存在へ”という目標にもマッチしたことも影響しているという。

そこで目を付けたのが、サッカーの試合観戦だった。

サッカーのクラブチームは全国に60クラブあるため、各地の高齢者施設との連携がしやすい。さらに、Jリーグが「スポーツを通じて地域を幸せにする」という思いのもと創設したこと、サッカーファンの総称である「サポーター」が「Beサポ!」の“支えられる存在から支える存在へ”という目標にもマッチしたことも影響しているという。

「取り組みを始めた当初は、『高齢者の方はサッカーに興味がないんじゃないか』という声もあったと聞いています。そのなかで、富山の1施設が興味を持ってくださって、施設のリビングで試合を観戦する応援会から始めていきました」(名古路さん)

「高齢者の方が観戦するスポーツというと相撲や野球のイメージが強いので、サッカーを観戦してもらう取り組みは私たちにとっても挑戦でした。ただ、サッカーはボールがゴールに入ったら点数になるというシンプルなルールなので、高齢者の方々も楽しみやすかったようです。意外にも相性がよかったんですよね」(関口さん)

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応援の仕方は施設側の主体性を大切にしており、施設全体をクラブチームのカラーに染めたり、うちわなどの推しグッズを施設利用者と一緒に作成したりするなど、さまざまな形で応援活動が行われている。

「各施設では、高齢者の方々と一緒に応援したり盛り上げたりする独自の方法が生まれています。初めて『Beサポ!』に参加する施設に向けてそのノウハウを伝える機会として、数カ月に一度、説明会や施設同士の交流会を設けています」(関口さん)

「さらに『Beサポ!』を楽しんでいただく取り組みとして、毎年9月の敬老の日には高齢者の方々の直筆メッセージをクラブチームに届ける『人生の先輩からのエール企画』を実施しています。クラブのマスコットキャラクターや選手が施設を訪れることもあり、おじいちゃんおばあちゃんもすごく喜んでくださっています。さらに、毎年12月には『人生100年時代の物語大賞』を開催し、『Beサポ!』の活動から生まれた物語を募集しています。心温まるエピソードばかりで、私自身も毎年感動しています」(名古路さん)

推し活による高齢者のこころとからだの変化

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もともとは“健康であってもなくても人生100年時代を豊かに生きる”ための「Beサポ!」だが、活動を続けるなかで、思いがけない変化が見えてきたそう。

「高齢者の方々のさまざまな変化が見えてきました。例えば、リハビリに積極的ではなく、腕があまり上がらなかった60代の女性が、観戦中は腕を上げて応援されていたんです。

そのほかにも、認知症の症状が出ている80代の女性がスペイン出身の選手にメッセージを書くためにスペイン語を勉強し始めたり、普段は歩行器を使っている90代の女性が壁に貼られている推しの選手の写真を見るために足を上げて乗り出したりと、こころやからだにもプラスの変化が出てきています」(名古路さん)

施設の職員からも「利用者さんの食事量が増えた」「睡眠の質が上がった」「帰宅願望が減った」という声が届いているという。

「『Beサポ!』を始めてから、高齢者の方々のモチベーションが上がっているという話も伺います。試合の日までに応援グッズを完成させるため、切り絵の制作を頑張る方がいたり、選手が施設を訪問する日に向けて『その日まで元気でいなきゃ』とリハビリに励む方がいたりと、先の予定や目標がやる気につながることを再確認するエピソードばかりです」(名古路さん)

そして、「Beサポ!」が参加者の幸福度にどのような影響を与えているのか、調査・研究を実施し、推し活と幸福度の関係を明らかにしたのだ。高齢者施設の利用者、職員、利用者の家族を対象に、質問票やウェアラブル端末を用いて活動の実態を調査したところ、利用者の「推し活の度合い」と「生きがい意識尺度」が連動していることがわかった。

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画像提供/サントリーウエルネス
推し活の度合いが生きがいと連動していることがわかった。

また、「Beサポ!」に参加することで、人とのつながりを意味する「社会関係資本」や自己実現につながる「段階的欲求」が進展していくことも見えてきたという。

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画像提供/サントリーウエルネス
80代男性の事例。施設で「Beサポ!」を取り入れてから、活動の手伝いをしてくれるようになり、利用者との会話も増えたそう。

「研究を通じて、推し活によって生きがいや幸せを感じる指数が連動することがわかってきました。この結果を受けて、私たちが行きついたのが『幸福寿命』です。人生100年時代のいま、身体的な調を抱えていたとしても、幸せを感じる期間である『幸福寿命』を重要な価値観と捉え、いくつになっても自分らしく輝いて生きることを大切にするという考え方です」(名古路さん)

「もともと、日頃は“支えられる”機会の多い高齢者の方々が“支える”人になるということが『Beサポ!』の出発点でしたが、実際に変化が起きていることをうれしく思います。また、推し活を通じて利用者さん同士や職員、家族の方々とのつながりが強くなり、それが幸せにつながることを確認できたという点も、意味のある研究だったと感じています」(関口さん)

施設職員や家族にもプラスの影響を与えている「Beサポ!」

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「Beサポ!」の活動は、施設利用者だけでなく、施設職員にとってもプラスの効果があることがわかってきているそう。



「利用者の方々と一緒に職員の皆さんもクラブチームを応援することによって、『職員同士のコミュニケーションも増えた』という声も届いています。共通の話題が増えたことで、これまで以上に円滑な意思疎通につながっているとのことです。また、職員の採用に影響しているという話も伺っています。利用者の方々と一緒にスタジアムに行く活動に参加した実習生が、『介護の仕事は施設内や周辺だけでの活動が多いというイメージが払しょくされた』と、入社希望を出してくれたそうです」(名古路さん)

介護現場の働き方改善にもつながる可能性があるという。「施設内を徘徊して回る利用者さんが、観戦のときだけは、その場にじっと座って試合を見てくれる」という声があり、職員にとってもリフレッシュの時間になっているのだ。

「利用者の方のご家族や地域の方々とのコミュニケーションも生まれています。ユニフォームを着て散歩をしていると地域の方が声を掛けてくれたり、施設の見学に来られたご家族の方々から『高齢者施設のイメージとギャップがあって、素敵な取り組みですね』という反応をいただいたりすることもあるようです」(名古路さん)

サントリーウエルネスが研究「推し活×高齢者」によって延びる“幸福寿命”


高齢者自身だけでなく、周囲にもプラスの影響を与える可能性を秘めている「Beサポ!」。名古路さんは「この活動を高齢者の方々だけでなく、現役の方々にも知っていただき、老後をポジティブに受け止めてほしい」と話す。

「当社の顧客の中心である50~70代の方は、10~20年後の将来に不安を抱いている層だと感じています。そんな皆さんに『Beサポ!』のお話をすると、『勇気付けられた』『親が認知症の状態にあるけど、ポジティブに一緒に楽しめることをやろうかな』という感想をいただくことがあり、『幸福寿命』の大切さを知っていただける活動だと感じています。おじいちゃんおばあちゃんになっても好きなことが見つけられて、こころもからだも変わっていけることを伝えていくことで高齢化社会のイメージを変え、もう一段ぐらい明るい未来を想像してもらえるようになったらと思っています」(名古路さん)

“人生100年時代”を幸せに生きるためのヒントは、「推し活」にあるのかもしれない。

サントリーウエルネスが研究「推し活×高齢者」によって延びる“幸福寿命”


(取材・文/有竹亮介 撮影/森カズシゲ)

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