みなさんはアルミ弁当箱をお使いになったことがあるだろうか?

 軽くて丈夫とか、洗いやすいなどアルミ弁当箱の利点はいくつかあるが、その最大の魅力はズバリ蓋に描かれた絵や写真。もちろん独特の素材感やちょっとしたギミックなど、アルミ弁当箱の魅力は他にもあるだろうが、その魅力の8割・9割は蓋に描かれた「絵」だったと断言していい。


 昭和の時代に少年・少女の心をときめかせた、そんなアルミ弁当箱について、「日本アルミ弁当箱協会」の会長を務める「マツドデラックス」氏に伺ってみた。350を超えるアルミ弁当箱のコレクターでもある氏は、「キャラクターが描かれたアルミ弁当箱をコレクションし、そのエピソードや時代背景を解き勝手に解説をして楽しむと言うマニアックな活動をしている」のだという。

懐かしのスーパーカーが全開っ!?|あなたの知らないアルミ弁当箱の世界 その1 スーパーカーシリーズ編


まず、アルミ弁当箱の歴史を氏の言葉から紐解いてみよう。

――(マツドデラックス《以下マ》)アルミ弁当箱は、原子番号13番のアルミニウムを素材として1897年頃から製造されたと言われています。ただし、当初は酸に弱く「梅干し」を入れると穴が開いてしまうという欠点がありました。その弱点を補うため「アルマイト加工」が施されたアルミ弁当箱が登場し、一般に広まりました。
ところが、1941年には太平洋戦争のために金属回収となり、一時的に世間から姿を消すこととなります。
戦後、徐々にアルミ弁当箱が復活していくと「無地」だった蓋にも「絵柄」が現われてきます。初めは抽象的な絵柄(花とか風景)でしたが、1960年代後半からの漫画やテレビブームにより「キャラクター」が描かれたアルミ弁当箱が登場し、一気にアルミ弁当箱の黄金時代を迎えます。

 
ーー(編集部《以下編》)アルミ弁当箱が一番華やかだった時代は1960年から1980年代後半。まさにノスタルジックヒーローやハチマルヒーローが取り上げるクルマの時代と重なる。残念ながら当時アルミ弁当箱を製造していたメーカーのほとんどが現存していないという。
だが、それがまた、ロマンを掻き立てるということにもつながっている。当時、その商品がどのような意図で企画され商品として世に送り出されたのか、氏の言葉を借りれば、「あくまでも『想像と妄想』の世界で解説させていただくほかないんです」ということになるからだ。つまりアルミ弁当箱の世界とは「想像と妄想」で楽しむ独特の世界なのだ。

 ということで、ここからは氏のコレクションを元に、「想像と妄想」の世界を展開していこう。

ランボルギーニに始まりマセラティにたどり着くスーパーカー弁当箱など【写真9枚】

 まずトップバッターとして登場するのは1970年代後半にブームとなったスーパーカーシリーズのアルミ弁当箱だ。池沢さとし先生の『サーキットの狼』などの影響で火が付いた「スーパーカー」は、消しゴム、カルタ、カード、ミニカー、プラモデル、文房具など、子供たちが興味を示すものすべてにフィーチャリングされ、子供心を熱くさせるとともに、おねだりされる親の懐を涼しくさせたもの。
そんなスーパーカーブームはしっかりとアルミ弁当箱にも来てたのだ。

 
ランボルギーニ カウンタック LP400(テイネン工業株式会社)

−−(編)このアルミ弁当箱に描かれているのは「ランボルギーニ カウンタックLP400」。なく子も黙るカウンタックだ。当時フェラーリ512BBの最高速は302km/hと表記されていたのに対し、カウンタックは300km/hとわずか2km/hの差で常に悔しい思いをさせられるカウンタック派の心の拠り所となっていたのは、他にはないガルウイングドア。今はシザータイプなどと言われているが、やっぱり「ガルウイング」がしっくり来る。写真の構図もカウンタックならではの特徴的なドアの開き方がわかりやすいようにと「全開」だ。


−−(マ)ちょっとやり過ぎではとも思われますが、「カウンタックLP400」の魅力を伝えるには最高の構図であります。ちなみ池沢先生の『サーキットの狼』では「ハマの黒ヒョウ」がドライバーでした。個人的には好きなキャラでした(リアルタイムでジャンプを読んでいたので)。このカウンタックが、アルミ弁当箱スーパーカーシリーズとして一番最初に販売開始されたものであり、おそらく一番人気があったのではないかと勝手に想像しています。
 

フェラーリ512BB(テイネン工業株式会社)

−−(編)次に発売されたと思われるのが、やはりスーパーカーブームでの人気車種であった「フェラーリ512BB」。カウンタックより2km/h速い最高速302km/hを誇る「最速」のスーパーカーだ。


−−(マ)やはり、『サーキットの狼』にも登場するのですが、ちょっと扱いは地味でした。「ランボルギーニカウンタックLP500S」と並び「謎の走り屋狩り」の1台として登場したに過ぎず、個人的には残念でした。そして、肝心のアルミ弁当箱の絵柄。何故かカウンタックと同様に全てが「全開」なのです。特にドアの開閉方法に特徴があるわけでもない512BBですが、やはり全開。トランクとエンジンフードの開閉に多少特徴はあるとはいえ、せっかくのフェラーリ独特の美しいフォルムが表現できていないのではとツッコミたくなります。
しかもこの写真をチョイスしてしまったことが、後のシリーズ第3弾での悲劇を生むこととなるのです」

−−(編)ガルウイングドアを採用したカウンタックならまだしも、512BBでの「全開」ショットをメインの図柄として採用した点については、確かに疑問が残る。他との差別化を狙って色気を出したのか、第一弾のカウンタックを「全開」で進めてしまった手前、第2弾も「全開」の呪縛から逃れられなくなってしまったのかと、勝手な想像をしたくなってしまうのだ……。

マセラティ メラクSS(テイネン工業株式会社)

そしてスーパーカーシリーズ弁当箱の第3弾。もはや弁当箱であることを放棄しております! 

−−(マ)写真をよく見て下さい。使用されている写真はアルミ弁当箱スーパーカーシリーズ一連の「全開」写真でありますが、形も蓋もよく見るとカウンタックや512BBとは全く違うことがわかります。結果悲しいシールが脇に貼られて販売されることになり、このシリーズは終了となってしまったのです。ちなみに『サーキットの狼』には「メラクSS」は登場しなかったのではないでしょうか? 『マセラティ・ボーラ』(子供の頃区別がつきませんでした)は「切替テツ」(モデルは切替徹)がドライバーとして人気を博しました。

−−(編)確かに形も変わり、ファンシーラブリーボックスという微妙(だが今見返すと実に当時っぽい絶妙な)なネーミングが与えられている。それに車種のチョイスも微妙だ。スーパーカーシリーズでマセラティを採用するなら、マセラティ製V型8気筒エンジンをミッドに搭載した同社初のミッドシップスポーツカーのボーラがその筆頭といえるだろう。いかにチューンしてあるとはいえ、シトロエンSM用のV6エンジンを搭載するメラクはやや子供だまし……、といいたいところだが、実際には子供だましにもならなかったのではないだろうか。なぜなら、子どもたちこそスペックには厳しく、その数字に一喜一憂していたから、V12でも、V8でもないV6エンジン搭載のメラクが採用されたことに、子どもたちもガッカリしたのではないだろうか。しかしながらそんなメラクをなぜフィーチャリングしてしまったのか? 氏の見解はこうだ。

−−(マ)まさか担当者さん、クルマを間違えてはいませんよね?

−−(編)いずれにせよ、このスーパーカーシリーズアルミ弁当箱(マセラティ・メラクSSは「ファンシーラブリーボックス?」と名付けられもはや弁当箱ではなくなっているが)は、第3弾で終止符が打たれることとなったようだ。

−−(マ)人気シリーズで販売が好調なら間違いなく「弁当箱」として継続販売されたはずですが、第3弾で「ファンシーラブリーボックス」と名前を変え、形も変えなければいけなくなり、この第3弾を持って終了となってしまったことは何とも悲しい結末といえます。実は未確認情報ではりますが、同シリーズにカウンタックLP500も存在するという噂もあるようです。しかもこちらは写真が「全開」ではないとの噂も。となると、それはアルミ弁当箱スーパーカーシリーズとは別物とも考えられますし、逆にこのシリーズを存続させようとした担当者が決意の路線変更を行ったのか? とも想像できるのです。
 

−−(編)当時人気絶頂にあったはずのスーパーカーをフィーチャーしたアルミ弁当箱シリーズが、なぜ短命に終わったのか、そしてなぜ「全開」写真が使われたのか、たまたまその構図の写真が安く手に入ったのか、他とは違った特徴付けとして「全開」構図にこだわったのか、今となってはまったく謎のままだが、こうした弁当箱をを眺めニヤニヤとマニアックな想像と妄想を膨らませるのが、このアルミ弁当箱の世界。次回以降は、クラシックカー、レーシングカーのアルミ弁当箱を紹介していきたい。

あなたの知らないアルミ弁当箱の世界【2】【3】へ続く

マツドデラックス氏
懐かしのスーパーカーが全開っ!?|あなたの知らないアルミ弁当箱の世界 その1 スーパーカーシリーズ編

「日本アルミ弁当箱協会」の会長を務める「マツドデラックス」氏。『新人類』と言われた『花のサンパチ』。
元ソフトテニスの日本リーグプレイヤーでもあり、漫画の原作も行う。
350を超えるコレクションの中から、今回は自動車関連やヒーローものなどのアルミ弁当箱をセレクトしていただいた。