連載「37.5歳のための調味料~キホンのキ~」
忙しい毎日を過ごす働き盛りの男たちは、どうしても外食や間食が多めになりがち。そこで覚えておきたいのが、健康的な食事を心がけるうえで欠かせない「調味料」に関する基礎知識だ。

砂糖、塩、酢など食品に含まれる調味料の効能を理解し、フィジカル&メンタルのコンディション維持に役立てよう。

高血圧の原因となることから、年齢を重ねた人にとっては特に「身体に悪い」というイメージが強い塩分。とはいえ、いざ食事を摂る際には、つい塩っぱい味を求めてしまう男性も多いはずだ。

そこで覚えておきたいのが、外食時でも手軽に実践できる減塩のテクニック。代官山のフィットネス施設に併設されているカフェ「FLUX CAFE」の店長で管理栄養士の冨田絵梨香さんに、詳しく解説してもらった。

【今回のアドバイザー】冨田絵梨香さん(管理栄養士)
大学を卒業後、管理栄養士として飲食業界で健康と食をテーマとした取り組みに携わる。

現在はFLUX CAFE でお客様の栄養面をサポートするほか、スポーツブランドとコラボし運動と食事に関してのイベント開催も行っている。

 


「締めのラーメン」のメカニズムも塩分過多に関係があった!?

そもそも、塩分の摂り過ぎと高血圧には、どのような相関関係があるのだろうか? 冨田さんに聞いてみた。

「塩分の摂り過ぎが高血圧の原因になりうると考えられているのは、塩の主成分であるナトリウムの過剰摂取によって血液中の水分が増え、結果的に体内を循環する血液量が増えてしまうから。血液量が増えることで、血管にかかる抵抗が高くなり血圧が高くなる、というわけですね」。

ちなみに、日本高血圧学会が推奨する塩分の摂取量は、食塩換算で1日6グラム以下。一方で、日本人の平均的な食塩の摂取量は9.7グラム(平成27年国民健康・栄養調査より)とされており、通常の食事をしているだけで、すでに塩分過多の傾向があるのだという。

「忙しく働く大人の男性の場合、手作りに比べ味が濃くなりがちな外食が多くなるため、必要以上に塩分を摂ってしまう傾向があるといえるかもしれません。

また、年齢を重ねることで味覚の敏感さが衰え、余計に塩分を求めてしまうという問題もあります」。

要するに、大人の男性になるほど、塩分の摂り過ぎを意識する必要があるということなのだ。さらに、お酒の飲みすぎも塩分の摂取過多を招く原因になりうるというから、気になるところ。

「摂取したアルコールを分解するために、身体がグリコーゲン(ブドウ糖)とナトリウムを求めるようになるといわれているんです。お酒を飲んだ後、いわゆる『締めのラーメン』を食べたくなるのは、ラーメンが塩分と炭水化物(ブドウ糖が含まれる)の豊富な食べ物だから、とも考えられるわけですね」。

酒飲みならばより一層、塩分の摂り過ぎに注意したいところだ。


調味料の置き換えや副菜の選び方が減塩の有効テクニック

とはいえ、すべての食事を手作りすることができない場合、塩分の摂り過ぎに注意するのは、なかなか難しいもの。塩分控えめと説明されているメニューを選んだものの、味に物足りなさを感じて、テーブルの塩や醤油を振りかけてしまう人だっているはずだ。

冨田さんによれば、そんな場合でも、消極策ながら塩分摂取を減らすテクニックが、いくつかあるという。

「いちばん良いのは、徐々に薄味に慣れていくことなのですが、その前段階として、メニューにプラスする調味料を“置き換え”してみる、というテクニックを使ってみてはいかがでしょう」。

たとえば、同じような調味料でも塩分量を比較すると、醤油よりポン酢、ソースよりケチャップのほうが、塩分控えめな場合が多いのだという。

「お刺身や冷奴なら、ポン酢で食べたほうが美味しい場合もありますよね。

このように、塩分少なめな調味料を選ぶ習慣を身につけておけば、減塩につながると思います。もちろん同じ調味料でも含まれる塩分の量は製品ごとに異なるので、可能なら成分表を確かめてくださいね」。

調味料の置き換えという点では近年、海外の美食家たちの間でも注目されている「うま味」を上手に活用するという手もある、とのこと。

「鰹節や昆布などから出るうま味が強ければ、塩分が少なくても美味しく感じることができます。外食では難しいかもしれませんが、塩や醤油のかわりに削り節をかけてみたり、添加物の少ないうま味調味料を使ってみたりするのも良いでしょう」。

一方、塩分を体外に排出する効果が期待できる食材をあわせて摂るというテクニックも併用すべきとも。

「カリウムを摂ると、体内の余分なナトリウムの排出が促されると考えられています。特にカリウムが多い食材が、サトイモやカボチャなどのイモ類や、納豆、ワカメ、キュウリなど。味の濃いメニューを選んだ場合は、副菜としてこれらの食材を使ったメニューをあわせるとよいでしょう。バナナやメロンなどの果物も、カリウムが多く含まれているので、デザートにはおすすめです。ただし腎機能に問題がある人や、健康診断でカリウムの値が多いと指摘された人は、摂りすぎに注意しましょう」。

このように、とにかく控えめにするのに越したことがない塩分だが、例外もある点には気を付けたいところ。

「立ち仕事が多い人やスポーツをよくする人などは、汗を多くかくため、体内のナトリウムが不足してしまう場合もあります。ナトリウム不足は、疲労感や脱水症状につながるため、身体を激しく動かしたり、気温の高いところで作業をしたりする前には、熱中症対策としても、タブレットなどで適切な量の塩分を補うようにしてください」。

年齢を重ねた人の中には、塩分の摂り過ぎに注意するあまり、かえってナトリウム不足に陥るケースもあるのだとか。必要な知識を身につけて、上手に塩分と付き合ってほしい。

【取材協力】FLUX CAFE
管理栄養士がメニューを監修し、日々の食事から健康をサポートしてくれるカフェ。「限りなくグルテンフリーに近いおばんざい」と「アスリート飯」という、ふたつのコンセプトを軸に食を提案している。欧米化が進んだ日本人の生活におけるグルテンの過剰摂取と、それによる腸への負担やさまざまな免疫疾患を軽減してくれる食事を求め、ランチやスポーツ後に足を運ぶ人が多い。

住所:東京都渋谷区猿楽町3-7 代官山木下ビル1F
電話:03-6452-5778
www.flux-cafe.com/
 

石井敏郎=取材・文