来る8月26日、5人組ビジュアル系ロックバンド、アンティック-珈琲店-がシングル「千年DIVE!!!!!」で、まさに“満を持して”と呼ぶに相応しいメジャーデビューを果たす。このメジャーデビュー作「千年DIVE!!!!!」は、他のクリエイターとのコラボレートという彼らにとって初の試みをとっているのだが、作詞を担当しているのが大黒摩季である。90年代ビーイングブームの中心アーティストのひとりであった彼女がビーイングからのリリース作品を手掛けるのは実に16年振りとあって、アンティック-珈琲店-のメジャー進出と同等に“大黒摩季作詞”が報じられているのは、彼女がレジェンド級アーティストの証左であろう。そんな大黒摩季のオリジナルアルバムで最大のセールスを記録したのが4thアルバム『永遠の夢に向かって』。
このアルバムに限ったことではないが、サウンドの基本は言うまでもなく、ロックである。オープニングM1「永遠の夢に向かって」は発売当初から「サビのメロディーがディープ・パープルを彷彿させる」と言われたことがあるが、この楽曲はイントロで逆回転を取り入れている。サイケデリックロックの手法であるが、これをディープ・パープルの「ノー・ワン・ケイム」(アルバム『ファイアボール』収録)のオマージュと見るのは深読みすぎるだろうか。また、M2「ROCKs」はレッド・ツェッペリンやジミ・ヘンドリックスばりのギターリフが聴けるナンバー。タイトルからして文字通りロックである。
かように、主にギターが作るロックサウンドがベースでありながら、多用な要素を取り込んでいるのも見逃せない。これまたシングルナンバーであるM11「夏が来る」が分かりやすいが、パーカッシブなビートでラテンな雰囲気を作り出しているし、M5「Return To My Love」では同期ものを強調することでバブル期のディスコのようなダンスチューンに仕上げている。ゴスペル調のM6「Stay with me baby」は本格的なコーラスワークでかなりブラックミュージック寄りだし、ハーブ・アルパートばりのトランペットが聴けるM8「GYPSY」はジャジーで都会っぽいサウンドメイキングが印象的だ。クレジットを見るとドラマーの名前が明記されていないようなので、リズムは打ち込みだろうが、ミキシングの巧みさからか、それほど無機質感に支配されていないのもいい。若干打ち込みっぽさを感じる場面がなくもないが、そこでは件のギターサウンドがそれを糊塗するように入ってくる。
さて、歌詞である。これもまたロックだ。《みんなと違う 先取(イイ)服を/なけなしのお金をはたいて買う/そういうために 働いたり/貯蓄したり/何かが違う…》《うわべの安全な幸せ/かなぐり捨ててしまえ/死んでもいいと思えるような/何かに向かってツッ走りたい》(M1「永遠の夢に向かって」)や、《大事な何かが消えて行く気がした/もし明日死んでも 安らかに眠れるだろうか…?/大事な何かを探しに行きたい/後悔も嘘も 笑えるようになる前に 行こう》(M7「孤独ケ丘に見える夕陽」)でのポジティブシンキング、あるいは《あんたってまぁよくしゃべる男ね/ためになんない雑学や/閉塞的な僕の軽チャー/親のすねを骨までかじって/金をまいて女抱いて/夢を語っても何だねぇ…》(M2「ROCKs」)、《愛なんてどこにもない/再会? とんでもない/迷惑だわ》《別れて気が付いた 最高の女だって/気をつかわないで/もう遅いのよ その手は通用しないわ》(M5「Return To My Love」)と男に冷や水を浴びせるような物言いは、正調な意味でのロックであるが、個人的にはヒットチューンに隠されたカウンターカルチャー的モードに最もロックを感じるところである。
バブルも弾け、日本経済は衰退期に入っていた1990年代。
2004年に武部聡志、土屋公平、真矢、恩田快人らと “大黒摩季とフレンズ”を結成し、『COPY BAND GENERATION VOL.1』でレベッカの「フレンズ」やTHE MODSの「激しい雨が」等をコピー(カバーではなく、コピー)したことからもロックスピリッツを感じるところではある。筆者は一度だけ彼女に取材をさせてもらったことがあり、大変失礼ながら面と向かって「音源を聴くと、大黒さんってまごうことなき“ロック姐さん”ですよねぇ」なんて軽口を叩いたのだが、結構ウケてくれて、嬉々としてルーツミュージックについて語ってもらった記憶もある。デビューから20年を超え、新しい音源の制作も期待したいところではあるが、病気治療もあって以前のペースでの活動はまだまだ厳しいようだ。ここはひとつ、トリビュートアルバムの制作はどうだろう? 業界内での交友範囲も広い彼女のことだし、現在活躍している女性シンガーソングライターで大黒摩季の影響を受けている人も少なくないはず。バラエティに富んだいい作品になりそうな予感はする。