■「何も手を打たなければ5年で死にますよ」医師からの宣告
「パパが死んじゃったら困るな。もうちょいがんばって!」。これは娘たちとの会話だ。
40歳の時、検査結果が悪化し、医師からは脅しの意味も込めて「何も手を打たなければ5年で死にますよ」と言われたが、6年目の今もどっこい生きている。そんな僕は家族と日常会話で病気について話すようにしている。
「低空飛行ですが、なんとか墜落しないで操縦しています」。知人に体調を聞かれた時、僕はこう答えることが多い。
最近はコツを覚えたので安定してきたが、調子に乗るとすぐに姿勢が傾き、ぶつかりそうになる。整備不良は日常茶飯事、エンジンの故障も抱えながら、それでも飛んでいる。そんな飛行中には、色々と考え事をするし、見える景色も様々だ。
若い頃はそれこそジェット機に飛び乗ってかっ飛ばしていたが、同時に多くのものを見逃していた。今はかなりゆっくり、ふらつきながらも周りを見渡すことができている。
病気をしてから、過去の自分の振る舞いや考えの意味も少し分かるようになったと思う。僕は両親を病気で亡くしているが、その体験がどういう意味を持っていたのか? 僕自身もタイミングが悪ければ死んでいた可能性があったが、病気とは、死とは何なのか? この本はそうした問いに対する今の考え方を書いている。僕は今、ラッパーを名乗っているが、HIPHOPに出会い、大学を中退して音楽の世界に飛び込んだ。そこで身についた考え方が病気後の生き方に大きな影響を与えた。
タイトルの『イル・コミュニケーション』はBeastie Boys(ビースティボーイズ)のアルバムタイトルだ。
HIPHOPにおいてILL(病気)という言葉はカッコいい、ヤバいという意味で使われる。高校生の時、池袋のHMVに向かうエスカレーターでこのCDアルバムから発売された曲「Root Down」が店内から流れているのを聴いた時、全身にビリビリと衝撃が走った。僕はそのままレジに行き、「今かかっている曲をください!」と叫んだ。
自分の本のタイトルを見て改めてあの時の興奮が甦る。
■プロフィール
ダースレイダー/1977年、フランス・パリ生まれ。ロンドン育ち、東京大学中退。ミュージシャン、ラッパー。吉田正樹事務所所属。