これまで減り続けていた住宅など建物を狙った「侵入窃盗」の認知件数が数年前から増加基調にある。空き家を狙った窃盗の認知件数も2025年、統計を取り始めた20年比の4倍に急増している。
―いきなりですが、美しさと防犯は両立しますか。
両立します。むしろ両立しなければならないんです。長い時間を過ごす住居は多くの人にとって癒やしの空間でしょう。防犯対策をするからといって家を鉄格子で覆わなくてもいいんです。くつろぐ家を“刑務所”にしてはいけません。
◇魅せる防犯◇
―その防犯の考え方を一言で表現すると?
“魅せる防犯”です。泥棒、強盗に「この家はきちんと防犯対策をしている」と警告して近づかせないことです。照明やカメラ、音の出る装置・仕掛けなどを泥棒、強盗に見せつけて、見抜かせる(犯行を諦めさせる)ことです。魅せるは、それらを美しく魅せる、“美しい空間”として示すということです。
―逆に言うと家を美しく装うことは防犯対策になる?
そうです。玄関の前にきれいに咲き誇った花のプランターを置くなどするだけでも、近所の人や通りすがりの人は「きれいだなあ」と注目しますよね。もっと本格的な花壇だと、そこを散歩のコースにする人も出てくるでしょう。こうした「花も防犯対策ですよ」と講演やセミナーで話すと「私、知らずに防犯対策してたんだ」とおっしゃる花好きの人が多くいました。意外に、家の美しさは防犯力を高めるということが知られていないんです。
―家の防犯は見た目、外観が大事?
家の“見た目”で狙われるという面は否定できないと思います。よく何回も空き巣に入られる家がありますが、明らかに外観が注目されているはずです。窃盗犯は侵入しやすく、逃げやすく、死角が多いところを好みますので、どうしてもそうした条件を満たす外観の家が狙われやすくなります。
―1回侵入した家で犯行を繰り返す泥棒もいますか。
泥棒がもう一度侵入するという場合はあると思います。その家に1回入っているとどこに貴重品があるのか分かってくるので、2回目は、1回目の時に行けなかった2階の寝室に行こうと狙いを定めてくる場合も考えられます。泥棒が1回侵入した家には泥棒に狙われるだけの理由がある家なので“そこ”を対策しないと再度被害に遭う可能性はありますね。被害者の方には1カ月以内にまた被害に遭う可能性があるのですぐに対策してくださいと伝えていますが「警察も1回来たし大丈夫でしょう」と言う被害者の方もいますね。
◇泥棒心理を分析すると…◇
―泥棒の心理から防犯対策を考えることは必須ですね。
泥棒の考えを分析する「侵入者プロファイリング」は大切です。警察庁HPの「すまいる防犯110番」には、元泥棒へのアンケート結果(都市防犯研究センター調べ)が紹介されています。それによると侵入に5分かかると約7割が犯行を諦め、10分以上かかると約9割が犯行を断念するそうです。
―泥棒に稼がせないためには我々が“時間を稼ぐ”必要がある?
泥棒が侵入時に玄関などでまごつく時間を稼ぐのはとても重要です。私はこの回答結果を踏まえ、建物防犯の基本中の“基本”となる「守る防犯4原則」を提唱しています。守る防犯とは、いずれも泥棒が嫌がる①時間②人の目③音④光―に着目した防犯理論です。
◇守る防犯4原則◇
―その4原則を詳しく教えてください。まず時間から。
時間は先ほど述べた元泥棒へのアンケート結果から得られたものです。繰り返しになりますが、とても大事なので皆さん覚えてください。
―人の目は。
この点は魅せる防犯のところで説明したこととも関係しますが、「みんなが犯行を見ているぞ」と泥棒に思わせることです。先ほどは美的側面から注目させることの重要性を述べましたが、この魅せる防犯は、守る防犯をある程度こなせている人向けのアドバイスなのでここでは、守る防犯の「人の目」の一要素として、“ご近所付き合い”の大切さを説明します。ご近所付き合いをしっかりしていれば、泥棒が現れた時、普段見かけない人として泥棒は、近所の“人の目”にさらされます。
―第3の音、第4の光は。
これは分かりやすいと思います。例えば、泥棒が窓を開けようと思ったらアラームが鳴るとか、泥棒が近づいたらセンサーライトが光るとかです。音は100デジベル以上、光は自転車灯の明るさに相当する300ルーメン以上が必要と言われています。
◇ショールームで魅せる防犯体験を◇
―「魅せる防犯」と「守る防犯」の関係は?
対策としては一部重なり合う部分がありますが、まずは守る防犯を意識し、ある程度守る防犯をマスターした後、魅せる防犯も意識したら良いかと思います。さらに最近は「攻める防犯」も必要になってきています。
―攻める防犯?
最近の闇バイト強盗などを想定した「追い払う」ための防犯です。例えば、泥棒が敷地に侵入したら遠隔地から声を発したり、アラームを鳴らしたりして追い払うための防犯です。録画するだけでなく声も出せる双方向通話機能付きの防犯カメラがいまはあります。守る防犯、魅せる防犯が「静的な防犯」なら、攻める防犯は「動的な防犯」と整理できるかもしれません。
―京師さんが実際に設計して実現した「魅せる防犯」がどういうものか知りたい人はどうしたらいいですか。
ご近所の大手住宅設備メーカーのショールームに行って最新の防犯設備を見たり、触ったりすると、「魅せる防犯」のイメージが湧いてくるかもしれません。私が防犯設計した例えば植込みの中から照明が照らされ、建物が美しくライトアップされているものなどと同じような魅せる防犯がイメージできる展示物を多く拝見できます。私が「防犯環境設計」した建物は、「ここが侵入経路だな」と感じた場所をライトアップして外からきれいに見えるようにしました。住民の方には「カフェみたいできれい」と喜ばれ、泥棒には嫌がられる防犯環境づくりができたと思います。
―住宅設備メーカーや施工店など関係業者も魅せる防犯を意識していますか。
メーカー側も魅せる防犯を意識した商品を開発してきていますし、設置工事を行う施工店側も美しく見えるよう防犯設備の設置の仕方を工夫してきています。美しく装うことは防犯力を高めるだけでなく、建物の物件自体の価値も同時に高めることをメーカー、施工店は理解しているからです。
ネット通販の普及など生活様式の変化に応じた商品開発も進んでいます。最近はインターホンと宅配ボックスが一緒になった「機能門柱」などが人気ですが、機能門柱を選択した場合は設置場所が重要です。私は家の敷地ぎりぎりに設置することを勧めています。侵入者に「ここから入ってくるなよ」というメッセージになるからです。このような最新設備に関してもいろいろ担当の方からアドバイスをもらえると思いますので、とにかくショールームに足を運んで防犯知識のバージョンアップを図るといいと思います。
◇防犯知識の更新を◇
―防犯知識は更新が必要?
地方に講演などに行くと、特に高齢者に多いのですが、防犯知識が昔のままで全く更新されていないと思うことがあります。昔は誰かが在宅すれば泥棒は入ってこないと思われていましたが、昨今は高齢者の在宅中を狙って侵入してくる泥棒もいます。お金のありかを聞けて好都合という考え方もあるからです。また最近の防犯設備はICT(情報通信技術)の進展に伴い、昔の設備と比べてかなり進化しています。最近は自分たちの住居だけでなく、高齢の両親が住む「実家防犯」を検討する現役世帯がいるかと思います。高齢のご両親を誘って遊びに行くくらいの感じで、各社のショールームに足を運ぶのもいいと思いますよ。実家に最新の防犯設備をプレゼントするのも素敵な親孝行だと思いますよ。
◇キャリア生かし独立◇
―防犯の世界に進んだきっかけは?
ドラマで鍵師を演じた渡辺謙さんに憧れて「鍵のスクール」に行ったことがすべての始まりです。民間資格の鍵の免許は取りましたが、防犯セキュリティーのメーカーにしばらく勤め、その後、ヘッドハンティングされて防犯ガラスメーカーに転職しました。鍵、防犯セキュリティー、防犯ガラスの知識を持つ防犯専門家として2005年独立しました。20代は百貨店で当時「エレベーターガール」と呼ばれた接客の仕事をしていました。大阪府警の幹部だった厳格な父は、転職好きの娘を心配していましたが、すべての職業経験が現在の防犯の仕事に役立っています。
―20代の時は空き巣の被害などにも遭ったそうですね。
泥棒やストーカー、盗聴盗撮、詐欺などの被害を受けました。泥棒被害の時は具体的にどんな対策をすればいいのか分かりませんでした。父親や警察に聞いても当時は、防犯設備の知識など具体的なアドバイスは受けられなかった時代でした。ストーカー対策なども含めて気軽に相談できない感じでした。私がいまこうして防犯の専門家として活動するのは、被害に遭った当時「誰にも相談できない。そもそもこうした防犯の悩みにアドバイスしてくれる人はいるの?」と感じたことが大きいと思います。「私がそれになろう」と考え、自分ではこの防犯専門家という職業に就いたというより、この職業を“つくった”と思っています。
◆インタビューを終えて◆
住宅など建物に侵入する「侵入窃盗」の認知件数は2025年、対前年比9.8%増加し、4万7233件に上った。これまで件数は毎年減少し22年には4万件を下回ったが、23年以降は4万台に戻り4万3千~4万7千台で推移している(警察庁「令和7年の犯罪情勢」)。「空き家」の窃盗は統計を取り始めた20年以降増え続け、25年は20年比4倍の1万3971件を記録したという(同)。
京師さんが「防犯知識の更新が必要」と強調した背景にはこのようなデータがある。今回こちらの勉強不足から愚問も多かったと思うが、質問の意図を逸らさず真正面から答えてくれた姿に、被害者の立場から防犯専門家という仕事を“つくった”という京師さんの“原点”を見る思いがした。京師さんのアドバイスは具体的・実践的で、被害者の役に立ちたいという思いがあふれている。
鍵、防犯セキュリティーシステム、防犯ガラスそれぞれの専門家は多いが「この3分野すべてを熟知した防犯専門家は少ない」と京師さんは言う。その上、京師さんは過去の自身の窃盗被害からも学んでいるし、大手住宅設備メーカーとアドバイザリー契約を締結しているので技術革新が進む最新の防犯設備にも詳しい。茶目っ気たっぷりに「(実力は)ピカイチ」と自負するのもうなずける。
大阪府警幹部だった父親をはじめ身内に警察署長や警察官がいる厳格な家庭で育った4姉妹の3女。3姉妹の怪盗が活躍する人気アニメ・マンガ「キャッツアイ」に、京師さんが防犯専門家として登場するとしたら、怪盗キャッツアイと“華やかな名勝負”を展開してくれるに違いない。
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