マイルス・デイビス「ポーギー&ベス」でなじんだ作曲家ガーシュウィンの曲「ラプソディ・イン・ブルー」をピアノ生演奏で聞いた。ピアニスト三重野奈緒さんの演奏は、ガーシュウィンの生い立ち(東欧移民の子、ニューヨーク育ち)をなぞるかのように、都会の小さなチョウが雑踏の底から摩天楼を飛び越え大きな空に舞い上がるような力強い軽やかさと広い世界を喚起させる。

 三重野さんが奏でたピアノはヤマハの「アップライトピアノB30」。ヤマハが一般家庭向けに展開してきた普及価格帯「アップライトピアノ」の16年ぶりの新商品「Bシリーズ」の一つ。よりコンパクトな「B20」と併せて発売する5月27日を2週間後に控え、ヤマハが12日横浜市内で開いたBシリーズの発表記者会見で、三重野さんがラプソディ・イン・ブルーなど3曲を披露した。

 演奏を終えた三重野さんは「幼稚園から小学3年生まで練習で弾いていた昔のアップライトピアノの印象と異なり、今回弾いた新しいアップライトピアノ(B30)は、ピアニッシモ(弱音)はより繊細に、フォルテ(強音)はより豊かに、それぞれ表現できるようになったと感じます。音に丸みがあり温かいヤマハらしい音がするピアノだと思います」と語った。

 Bシリーズはすべて、ヤマハが中国・杭州に2003年設けた楽器製造工場で生産する。同工場では中国人スタッフ約1700人が働いているという。

 この杭州工場に18年から4年間駐在したヤマハの泉谷仁ピアノ開発部長は、木材乾燥施設や木材部品の自動加工設備、塗装ロボット、IT駆使の品質保証システムなど最新の技術・設備を備えた同工場の特長を説明。「ピアノやギターを20年間以上作ってきたこの工場のスタッフは、ピアノ作りに求められるクラフトマンシップ(職人技)を培っており、この工場は最新テクノロジーとクラフトマンシップの融合を体現している」と強調した。

 その上で「ヤマハ本社のピアノ設計者・技術者が何度もこの工場に足を運び、Bシリーズの設計意図を工場スタッフに直接伝えて入念な技術指導をしました。その結果、整音、整調などピアノ作りの重要な技能が一段と向上し、Bシリーズらしい音やタッチを引き出すことに成功しました。Bシリーズはヤマハ本社と工場が力を合わせたからこそ生み出せた、私たちにしか作れないピアノです」と述べた。

 会見冒頭あいさつしたヤマハミュージックジャパンの松岡祐治社長は「日本では小さなお子さんからシニア層まで多くの方が習い事や趣味としてピアノを弾いています。AI(人工知能)やデジタルの音楽技術がどんなに進んでも、アコースティックピアノで自分だけの音を奏でる喜びは、この先いつまでも普遍的な価値であり続けると思います」と話した。

 ヤマハは26年度内に約1500台のBシリーズ販売を見込んでいるという。価格はB20が税込み55万円、B30は税込み66万円。泉谷・ピアノ開発部長は「ハンジョウ(杭州)工場製のBシリーズをピアノの本場であるヨーロッパなど世界にも広げていきたい」と意欲的に語る。

 この日、ラプソディ・イン・ブルーでチョウの羽ばたきを喚起させたB30の音色は、杭州工場のBシリーズが世界のピアノ市場に大きな影響を与える「バタフライエフェクト」(小さな出来事が大きな変化をもたらす現象)の始まりなのかもしれない。

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