■金銭トラブルで殺人、女性が放尿配信
今年3月、22歳の女性ライバーが、山手線徒歩一周のライブ配信中、42歳の男に刺し殺される事件が起きた。女性は「ふわっち」でライブ配信を行っており、ライバーとして上位にランクインしていた。
男はライブ配信で女性を知って連絡を取り、女性の働くキャバクラを訪れていた。女性に請われて計250万円以上を貸しており、返済されないことから恨みを募らせたものを見られている。男は殺人罪で起訴された。
5月に起きた事件も、やはり「ふわっち」で配信されたものだ。30歳の女が大阪市内のラウンドワンで配信中、カラオケルームの備え付けのグラスに放尿、それを飲んで嘔吐していた。
女はラウンドワンに自身で申告、Xなどで反省の弁を述べていたが、威力業務妨害の疑いで書類送検された。ラウンドワンでは、該当する可能性があるグラスをすべて廃棄したという。
■なぜ「やばい配信者」が集まるのか
2023年には、やはり「ふわっち」で32歳の男が旭川市内のコンビニで女性店員を刃物で刺す襲撃の様子を配信。逮捕後に男は、閲覧数などに応じて付与されるポイントが入らなかったため、「運営会社に痛い思いをさせたかった」と述べている。
動画の閲覧数やランキングが伸びず、話題になると考えて犯行に及んだとして、傷害罪などで保護観察付き執行猶予4年の判決を言い渡された。
執筆現在、「ふわっち」で検索すると、「ふわっち やばい」「ふわっち やばい配信者」などと検索される状態であり、他の配信サービスとは異なる状況となっているようだ。
YouTubeやInstagram、TikTokなど数多くのライブ配信サービスがある中、なぜ「ふわっち」ではこのような問題配信が続くのだろうか。
■配信者も視聴者も30~50代が中心
ふわっちは、jig.jpにより2015年にリリースされたサービスだ。同社の「2025年3月期決算説明資料及び事業計画並びに成長可能性に関する事項」によると、同サービスを利用する課金者及び配信者の主力世代は30~50代。その割合は、課金者で77.9%、配信者で71.3%に及ぶ。10~20代の課金者が多い他のライブ配信サービスとは一線を画している。
月間の課金ユーザー数は約4万人、1人当たりの課金額は2万9195円という(2025年1~3月期の月平均)。
配信者はアマチュアメインで97.1%を占める。SHOWROOMなどの事務所に所属するタレントやモデルなど若い女性によるキラキラした配信とは違い、生活感があふれる配信が多い。閲覧者数も全体に少なめで、「11」「19」「35」など、2桁ということも多い。
若い女性配信者もいるものの、全体に年齢層が高い配信者が目立つ。中学1年生から不登校で引きこもりという中年男性が自分語りしていたり、白髪の高齢女性が台所らしき場で悩みを告白していたり、女性が「残金200円たすけて」という配信をしていたりするのだ。
■ポイントを即、現金化できる仕組み
ふわっちでは、視聴者からの投げ銭がポイントとなり、ポイントに応じて報酬が支払われる仕組みとなっている。各配信における視聴者数やコメント数など、配信の盛り上がりに応じて各種ランキングのランクが決まり、ランクによってもポイントが得られる。
サービス内では1ポイント=1円で、1ポイントから換金できる。YouTubeでは最低8000円以上にならないと振り込まれず、翌月以降に繰り越されることを考えると、収益を得やすい場と言えるだろう。
つまりアマチュアでも稼ぎやすいプラットフォームと言えるのだが、さすがに何もしないで稼ぐことは難しい。盛り上がれば収益に直結するため、どうしても配信は過激化しやすくなっている。
日刊SPA!で、ふわっち配信者であるせいZクレイジーパピヨン氏は、配信で月収300万円が得られたと明かしている。「元妻も配信者なんですが、向こうが配信しながら養育費の取り立てにこられたときが一番バズりました。ふわっちは配信者同士の事件もあるので、それを楽しむリスナーさんも多いですね」という。
■「匿名・飲酒OK」がカオスを生む
ライブ配信についての口コミを調べると、ふわっちについては、「荒れている」「配信が過激」「下ネタや暴言が多い」「アングラ系」などというものが目立つ。
ふわっちの「たぬき」カテゴリは、視聴者が匿名でコメントできるようになっている。ユーザーはたぬきのアイコンとなり、誰がコメントしたのか配信者・他の視聴者から分からなくなる。
また、他の配信サービスには、配信中の飲酒・喫煙が禁止されていたり、許可されていても制限があるが、ふわっちでは飲酒・喫煙しながらの配信が可能だ。
そのため、飲みながら暴言を吐く配信も多く、中には泥酔して、冒頭で紹介した放尿事件などを起こす配信者もいるというわけだ。その他にも、配信者同士の罵り合いによるバトル配信なども多い状態だ。
■一般人でも収入が得られるチャンスだが…
ライブ配信自体、配信者にとってはその他大勢でも、視聴者からすれば特別扱いされている錯覚を覚えやすいサービスだ。それがタレントなどではなくアマチュア配信者であれば、実際に距離が近くなりやすい。
視聴者数が少ないため認識してもらいやすく、連絡すれば返信がもらえたり、中には視聴者と会ってしまう配信者もいる。その結果、冒頭の殺人事件などにもつながってしまっているのだ。
アマチュア配信者中心のサービスであり、一般人でも稼ぎやすい一方、収益に直結するため配信が過激化しやすいこと、飲酒・喫煙しながらの配信が可能でトークが過激化しやすいこと、匿名でのコメントができるため荒れやすいことなどが重なって、ふわっちでトラブルが続いていると言えるのではないだろうか。
もちろんサービス自体が問題なわけではなく、一般人でも収入を得る機会が増えることはいいことに違いない。一度配信してしまったことは消せず一生残る可能性があることを忘れず、視聴者との距離感を間違えず安全に配慮しながら配信する節度が必要なのだろう。
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高橋 暁子(たかはし・あきこ)
成蹊大学客員教授
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。著書に『若者はLINEに「。」をつけない 大人のためのSNS講義』(講談社+α文庫)ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。
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(成蹊大学客員教授 高橋 暁子)