※本稿は、工藤孝文『50代から気になる『老けない』やせ方』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■ジム通いのストレスがシワとたるみをもたらす
50代になって仕事や子育てのピークがすぎると、毎日のジム通いをはじめる人がいます。特に、前々から「いつかやせたい!」と思っていた人の中には、「今度こそ必ずダイエットを成功させる!」と決心して、それこそ、雨が降ろうがヤリが降ろうが、何がなんでも毎日ジム通いをする人もいるようです。
しかしこれも、私は決しておすすめできません。
確かにそれだけしっかりジムに通って体を動かせば、体重は減るでしょう。しかし同時に、肌にシワやたるみが増えてしまう可能性が非常に高くなるからです。
その最大の理由は、ストレス。
そこまで必死になってジムに通えば、かなりのストレスがかかっていることは間違いありません。
フランスのある研究チームが、慢性的な心理ストレスを感じている人とそうでない人の肌の状態を比較した結果、中程度のストレスを感じている人は、軽度のストレスの人と比べて、肌の抗酸化力が下がり、細かいシワが増えて肌が粗くなったと報告しています。
また、同じ研究で、ストレスホルモンとして知られるコルチゾールとエピネフリンが、肌細胞にダメージを与え、コラーゲンやヒアルロン酸の産生を抑制してしまうことも判明。さらに、ストレスが高い人は、肌表面の水分量が低下してしまうとも報告しています。
肌の水分量が落ちると肌のバリア機能が低下し、肌荒れやアレルギー性皮膚疾患なども起きやすくなってしまうでしょう。
慢性的なストレスが肌の新陳代謝を乱し、シミやくすみなどのトラブルの原因になっていることも十分に考えられます。
ストレスは、デブと老けの最大の要因。若々しくやせたいのであれば、間違ってもストレスフルな毎日のジム通いなどやろうと思わないでください。
■毎日ジョギングで少しずつ落ちていく皮下脂肪
やせることとは、つまり体についた脂肪を減らすことです。
ただし、ひと口に「脂肪」と言っても、大きく2種類あります。皮膚のすぐ下についている「皮下脂肪」と、お腹の空間内に蓄積されている「内臓脂肪」です。
このうち、若い人が気になりがちなのが皮下脂肪でしょう。特に女性は、「太ももや腰回りの脂肪を落としたい」「二の腕を細くしたい」といった希望を持つ人が多いですが、これは皮下脂肪にあたります。
一方、中年になると気になりがちなのが、内臓脂肪です。お腹だけが妙にぽっこり出てしまっているいわゆるメタボ体型の人は、皮下脂肪よりも内臓脂肪がたまっている可能性が高いです。
実は皮下脂肪はつきにくく、落としにくい脂肪で、長い年月をかけて蓄積されていく脂肪です。
一般に、若い頃のダイエットは、皮下脂肪を落とすことに着目したやり方が多かったと思います。
皮下脂肪は落ちにくいので、なかなかハードなダイエットが必要です。食事は糖質制限をした上で脂質も制限。運動は筋トレが必須であり、毎日ジョギングなどの有酸素運動を続けることで、ようやく少しずつ皮下脂肪が落ちていきます。
■内臓脂肪が減ると、「やせホルモン」が増える
しかし、こうしたダイエットを50代で行うのは危険です。栄養バランスが崩れて脂肪より先に筋肉が落ちてしまう可能性が高く、たとえやせても見た目が老けてしまうでしょう。
また、女性の場合、皮下脂肪からは女性ホルモンも分泌されているので、ハードなダイエットで皮下脂肪を落としてしまうと女性ホルモンもどんどん減ってしまいます。
ダイエットするなら落とすべきは、皮下脂肪ではなく内臓脂肪です。これは年齢にかかわらず言えることではあるのですが、特に50代以上の方には、口を酸っぱくして伝えたいことです。
中高年になると、代謝が落ちてやせにくくなっているので、効率の良いダイエットをしないとなかなかやせられません。
そこで、内臓脂肪です。
反対に、内臓脂肪が増えると、やせホルモンの分泌が抑えられてしまうため、どんどん太りやすく、やせにくい体になってしまいます。
あなたの体に内臓脂肪がつきすぎているかどうかは、正確にはCTスキャンなどでお腹を撮影しないとわかりませんが、外から見て全体に太り気味の人や、お腹がぽっこり出ている人は、内臓脂肪がつきすぎていると考えてほぼ間違いありません。
50代でダイエットするなら、厳しい食事制限や筋トレなどに重点を置いた皮下脂肪向けの方法ではなく、ストレスのない方法で、内臓脂肪を落としていきましょう。
■デブ・スパイラルが生活習慣病を引き起こす
一般的に、若い頃から内臓脂肪がたくさんついている人はそんなにいません。多くの人が、中年をすぎて代謝が落ちてくると、知らず知らずのうちにお腹の中にじわじわと脂肪がたまっていきます。
内臓脂肪がついていること自体が、体が内側から老けている状態ともいえるわけです。
内臓脂肪が増えることの恐ろしさを、もう少し詳しく説明しておきましょう。
まず、アディポネクチンという、脂肪を燃焼させる「やせホルモン」の分泌量が減ってしまい、やせにくい体になっていきます。
しかも、レプチンという、食欲を抑えるホルモンの効果が効きにくくなってしまいます。これを「レプチン抵抗性」というのですが、こうなると人は食欲を抑えられなくなってどんどん食べてしまい、肥満が加速します。
つまり、内臓脂肪が増えることで食欲が増し、脂肪は燃焼しにくくなり、ますます食べる量が増える。
そして、デブ・スパイラルは生活習慣病を引き起こします。
やせホルモンのアディポネクチンは、傷ついた血管を修復したり、インスリンの働きを良くする働きもしています。そのため、内臓脂肪が増え、アディポネクチンの分泌が減ると、糖尿病になるリスクが上がってしまうのです。
このため、アディポネクチンはやせホルモンと呼ばれるだけでなく、長寿ホルモンのひとつともいわれています。
また、内臓脂肪が増えると、脂肪細胞が分泌しているアンジオテンシノーゲンという成分の分泌が増え、これが血管を収縮させ、高血圧のリスクを高めます。
さらに、遊離脂肪酸の分泌も増え、悪玉コレステロールや中性脂肪を増やし、脂質異常症を招きます。脂質異常症になれば、動脈硬化を進行させ、脳卒中や心疾患といった、重大な病気をも引き起こすことになるのです。
■50代以降を健康に楽しく過ごすための最重要課題
内臓脂肪の恐怖は、生活習慣病だけではありません。
一見関係がなさそうな内臓脂肪とがんですが、実は内臓脂肪が増えるとがんのリスクも上昇することがわかっています。
国際がん研究機関(IARC)が4万人以上を対象にした研究結果によると、肥満は大腸がん、食道がん、胃がん、肝臓がん、胆嚢がん、膵臓がん、子宮がん、卵巣がん、腎臓がん、乳がんという、10種類ものがんのリスクを高めるという恐ろしい事実が判明しています。
IARCによると、腹囲が11センチ増えるごとに、がんのリスクが13%増大したとのこと。
理由ははっきりわかっていない部分もありますが、内臓脂肪は細胞からさまざまな炎症物質を出しているため、肥満の人は体が慢性的に炎症状態になっていることになり、がんの発生につながると考えられています。
さらに、50代になると気になりはじめる認知症も、内臓脂肪と関係があることが判明しつつあります。
内臓脂肪が増えると、アルツハイマー型認知症の原因であるアミロイドβというたんぱく質が、脳内に蓄積しやすくなるからです。
実際、アルツハイマー型認知症の患者さんの約6割は内臓脂肪の面積が基準を超えているというデータがあります。中年期に肥満の人は認知症の発症率が3倍高くなるというアメリカの研究報告もあります。
特に、メタボリックシンドロームを発症している場合は、発症率は6倍にもなるといわれています。
50代に入って太っている人は、内臓脂肪を無理なく落としておく。これこそが、その後の人生を健康に楽しく過ごすための最重要課題といえるでしょう。
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工藤 孝文(くどう・たかふみ)
内科医
工藤内科院長。福岡県みやま市の同医院で地域医療を行う。糖尿病内科、ダイエット外来、漢方医療を専門として、テレビや雑誌などでも活躍。著書に『痩せグセの法則』(枻出版社)ほか多数。
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(内科医 工藤 孝文)