※本稿は、菊原智明『決定版 「稼げる営業」と「ダメ営業」の習慣』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■名刺交換で「こういう者です」では不十分
稼げる営業は「どう印象付けるか」を考え、
ダメ営業はアドリブで勝負する。
勉強会やパーティーに出席した際、多くの人と名刺交換をします。
意識の高い人が多く、向こうから話しかけてくる人もたくさんいます。
勉強会の後の懇親会に参加した時のことです。
30代前半の男性が近づいてきます。
男性「名刺交換よろしいですか?」
私「もちろんです」
男性「こういう者です」
私「はっ、はい……」
「こういう者です」と言いながら、細かい英語で書かれている名刺を渡してきました。
名刺を見ても何をしている人か分かりません。
少しだけ、当たり障りのない会話をしてすぐに別れました。
それからしばらくしてのことです。
同じような30代の男性が名刺交換を求めてきます。
今度の男性は名刺を差し出し「ABC会社で顧客管理ソフトの開発をしている山内と申します」としっかり名乗ってくれたのです。
ちょうど顧客管理ソフトに興味があり、話が盛り上がりました。
もし、「こういう者です」ですとか「山内です」だけでしたら、こうはならなかったと思います。
以前、知人のトップ営業が「できる営業は“どう印象付けるか”ということをしっかり準備しているんですよ」と言っていたのを思い出します。
確かにその通りだと思います。
出会った時の印象がよくないと、その後詳しい話を聞こうとは思わないものです。
■出会いの一瞬でお客様の心をつかむ方法
当たり前のことのようですが、出来ていない営業も少なくありません。
キチンと挨拶をせず、なんとなく説明を始める営業には不安を感じてしまいます。
という私も、ダメ営業時代は何の準備もせずにアドリブで臨んでいました。
「こんにちは、どうぞ」といったきり何も話すことが思いつかないこともありました。
この時点で「この人はダメそうだな」と見切られていたのです。
当時の私はお客様との出会いを軽視しており、なんの準備もしていませんでした。
しかもアドリブもきかず、気の利いたことも話せません。
ですから、お客様に相手にされず成績も最低だったのです。
一方、稼げる営業はしっかりと準備して臨みます。
営業は“出会った時にどう印象付けるかが重要だ”ということをよく知っています。
生命保険のトップ営業の女性は「はじめまして、武田と申します。主婦ならではの視点で保険を提案させて頂きます」とあいさつし、さらに「私が必要ないと判断した場合には、お客様が入りたいと言っても保険に入らせません」と続けるのです。
一般的に生命保険の営業は嫌がられる傾向にあるのですが、その人はほとんど嫌がられたことがないと言います。
それどころか、その場で契約が決まったり、さらには知り合いまでご紹介頂いたりすることもあるそうです。
出会いの一瞬でお客様の心をつかんでいるのです。
どう伝えたらいいかを徹底的に考えて準備しているからです。
あなたもしっかりと伝えるメッセージを準備して、お客様の出会いに臨んでください。
「名前+所属」にもうひとつ
自分らしさが伝わる説明を付け加える!
■「リモート営業」が増えた現代に適応できるか
稼げる営業は「会う前が勝負」と考え、
ダメ営業は「会ってからが勝負」と考える。
ほんの少し前まで、営業というのは「お客様と会ってからが勝負だ」と考えられていました。そのこと自体は間違っていませんし、実際そう考えて行動していたトップ営業がたくさん存在していました。
何かで出会ったお客様の警戒心を解き、いっきに懐に飛び込みます。
お客様を買う気にさせ、一気に契約を決めるのです。
今でもこのタイプの営業も存在していますが、やり方はずいぶんと変わってきたようです。一番の変化は「リアルの営業」が減り「リモートの営業」が増えたということです。
リアルの営業で結果を出す方法とリモートの営業で結果を出す方法は異なります。
営業の方式が変わったということは、やり方も変えていく必要があるのです。
ある設備について購入しようと思った時のことです。
知り合いがいないためネットで検索して探しました。ネットでの評価が高い1社を選び、工事内容についてのメールとZoomでやり取りをします。
話を十分にお聞きし、「この会社なら大丈夫」と思いお願いすることに。
この時点で90%決めようと思っていました。
■気持ちのこもったメールを送れるか
その後、営業から「工事担当」の方に窓口が変わります。その担当者の方から届いたメールが「他のお客様と勘違いしている」といった間違いメールだったのです。
最初の接点が間違いメールですから、どうしても印象がよくありません。
営業の人は良かったものの、いっきに「この担当者、ほんとうに大丈夫かな」と疑心暗鬼になりました。その後、お会いして話をしたところ思ったよりはいい対応をしてくれました。
しかし、すでにネガティブな印象を持ってしまったせいか、どうしても欠点が目につきます。結局、決め手に欠け、お断りすることにしたのです。
もししっかりと気持ちのこもったメールを送ってくれたら間違いなく決めたでしょう。
今までのリアルの対面営業でも前もってやり取りしますが、本当の勝負は実際会ってからでした。対面営業では第一印象が非常に大切になります。
営業ノウハウで「出会った15秒で勝負が決まる」というものがあります。
初めてこの法則を聞いた時「そんな短い時間で判断するのかな?」と疑問に思いました。しかし、自分がお客様の立場になって見ると「確かに短時間でいいか悪いかを判断しているな」と実感したのです。
しかし、現在は少し異なります。
今は商談をする前のやり取りの影響が大きくなります。
キチンとメールで対応してくれる方に対しては「きっといい仕事をしてくれるのだろう」と期待しますし、間違えたり雑な対応をしたりする方には「いい仕事はできない」とマイナスに捉えます。この時点で勝負が終わっていることもあるのです。
■会う前から勝負が決まっている
これからの営業では実際に顔を合わせる機会が少なくなっていきます。
「メールだけのやり取り」「短時間のリモート商談」「一度も会わずに契約」といった関係のお客様が増えていきます。ということは、必然的にメールやSNSなどの文字のやり取りが重要になるということです。
今後の営業は初めてのメールやSNSのやり取りで「良いか悪いか」を判断されます。
また初めにネガティブな印象を与えてしまうと、取り返すのが至難の業になります。
せっかくの実力が発揮されずに終わります。
「出会う前に勝負が決まる」と細心の注意を払ってメールを送るようにしてください。
これからの営業は会う前から勝負が決まっている、ということを忘れないようにしましょう。
気合を入れてメールのやり取りをする!
■「ちょっと確認しますね」がいい流れを止めてしまう
稼げる営業は「聞かれそうなことの回答」を準備し、
ダメ営業は聞かれてから対処する。
リフォームの契約をしようと思った時のことです。
ネットでエリア検索し、家から近い会社3社に候補を絞ります。
3社同時にメールを送るとすぐにA社から返信が届き、続いてその日のうちにB社から返信が届きました。C社は2日後です。メールでの問い合わせの返信メールが2日後、という時点でかなりのマイナス評価です。
内容は完全なテンプレート。しかもすぐに対応できないとのこと。
返信メールが2日後で、対応はさらに先では話になりません。ネットで広告を載せる前に社内のスキームを整備しておく必要があります。
ということでC社は検討から外し、まずは一番早かったA社と話をすることにします。
まずはメールで数回、やり取りをします。
レスポンスが早くスイスイ話が進みます。その後、Zoomで面談。担当の営業は感じがよく親切に対応してくれました。
話を聞いて「ここに決めよう」と契約を決めたのです。
ここまでは最高の流れです。
ちょうど両親も家も簡単なリフォームを考えており「親にも紹介しようかな」と思っていました。商談をしている際、「この部分はどうなっていますか?」と質問します。
するとこの営業の方は「ちょっと確認しますね」と言って調べていました。
こういったことが2回続きます。内容はごく当たり前のこと。その対応を見て「そこは即答して欲しかったな」と感じたのです。
■稼げる営業は先回りが出来る
ここまで話が進んだので私自身の契約はしました。しかし「紹介はやめておくか」と思い、両親には薦めなかったのです。
この営業は気づかないところで1件の紹介を失っているのです。
その一方、稼げる営業は違います。
お客様から質問があれば「その件につきましては○○です」とスパッと答えます。
その上、「もしかしたら、それに関連する○○で問題が起こるかもしれません。その場合はこのように解決できます」と先回りしてくれるのです。
こういった対応をしてもらうと「さすがプロ。安心感がある」と信頼を深めます。
契約時にお客様から聞かれることはある程度決まっています。
・契約後にどこまで変更できるか
・補償内容について
・支払い方法
・振込先
・アフターメンテナンス
などなど。
お客様とのやり取りを思い出してもらってもいいですし、同じ営業所の仲間と話し合ってリストアップするのでもいいでしょう。
聞かれそうなことは前もって準備しておくようしてください。
さらにお客様にパッと見て伝えるような資料があれば完璧です。
稼げる営業は聞かれる内容と説明ツールを前もってしっかり準備しているのです。
契約時に聞かれる内容の説明ツールを用意する!
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菊原 智明(きくはら・ともあき)
営業コンサルタント
営業サポート・コンサルティング代表取締役。関東学園大学経済学部講師。社団法人営業人材教育協会理事。1972年生まれ。群馬県高崎市出身。群馬大学工学部卒業後、トヨタホームに入社し、営業の世界へ。自分に合う営業方法が見つからず7年間、ダメ営業時代を過ごした後、手紙で情報を提供する営業に切り替えたことをきっかけに4年連続トップ営業に。2006年に独立し現職。主な著書に『訪問しなくても売れる!「営業レター」の教科書』(日本経済新聞出版社)、『売れる営業に変わる100の言葉』(ダイヤモンド社)、『面接ではウソをつけ』(星海社)、『トップ営業マンのルール』『「稼げる営業マン」と「ダメ営業マン」の習慣』『残業なしで成果をあげるトップ営業の鉄則』(明日香出版社)、『営業1年目の教科書』『営業の働き方大全』(大和書房)、『リモート営業で結果を出す人の48のルール』(河出書房新社)、『仕事ではウソをつけ』(光文社)、『使ったその日から売上げが右肩上がり!営業フレーズ言いかえ事典』(大和出版)などがる。
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(営業コンサルタント 菊原 智明)