※本稿は、林宏昌『上司はリスクばかりを指摘する 会社を潰す「大課長」問題』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
■管理職の役割定義を具体的に
部長以上のポストにあるにもかかわらず、課長と同じような仕事をしている「大課長」が増える根本的な理由は、管理職が自分の仕事を理解していないことにあります。この点を指摘すると、彼らは一様に「そんなことは誰も教えてくれなかった」と言います。部下の社員に聞いてみても「(部長・本部長は)いろいろな会議に出て調整してくれています」という認識で、それが主な仕事だと考えているようです。まずはこの曖昧すぎる役割定義を明確にし、個人レベルで知ってもらう必要があるでしょう。本来の「課長がやるべき仕事」と「部長がやるべき仕事」を課長と部長の双方が理解していないと、現在地と理想の埋めるべきギャップがわからず、前に進めません。
この役割定義で大切なのは、抽象的で曖昧な表現ではなく、具体的な表現で整理し明文化することです。その際には、「やるべきこと」だけではなく「そのポジションでやってはいけないこと」も記載して、各々にしっかり理解してもらうことも重要です。そうすれば、現場から離れない「大課長」や、判断を上に丸投げする「大課長」も減らせるはずです。
■「自分はだいたいできています」
おそらく多くの会社で、おおよその役割定義を設け、資料も作ってはいるでしょう。しかしそれが抽象的すぎるために、誰も参照していないことも少なくありません。
抽象的であることの弊害はもう一つあります。実際に規約などに記載されている役割を部長や本部長の方に見てもらい「できていますか?」と尋ねると、「はい、だいたいできています」という回答をいただきます。
一方で、担うべき業務を具体的に列挙し、さらにやってはいけないことまで整理してみてもらうと、「あ、この『やってはいけない』という行動をしてしまっています」とか、「ここまで現実的な例を示されると、自分ができていることと、できていないことが明確になりますね」などのコメントをいただくようになります。曖昧な表現の役割定義では個人によって理解の仕方が異なり、「これぐらいできていればいいだろう」という自己評価になりがちなのです。以下のような具体的な例で設定することをお勧めします。
○戦略を粘り強く何度も共有し、現場の若手に聞いても部門戦略が何かを語れる状態を作っている。
×戦略を一度伝えただけで伝わったと思い、戦略の浸透が進まず、なぜみんな戦略を理解できないのか疑問に思っている。
■5人に1人が悩む管理職への移行
課長までと部長・本部長以上の役職とでは、求められる役割が大きく異なります。私としては、「管理職」とは、それだけで個別の職種と捉えるべきものだと考えています。それまでの会社人生で得てきたことは、成功体験も含めて、いったんすべてを忘れてほしいぐらい――課長が部長・本部長以上のポジションに就くときには、それほど劇的な変化があると考えています。課長時代までの業務と違って、それまでの経験の延長でこなせることではありません。これはもはや、明確な職種転換です。
英語の「トランジション(transition)」は「移行」や「転換」を意味する言葉で、ビジネス用語では昇格や転職など、キャリア形成における過渡期を指します。とくにマネジメントへの移行期には、本人の意識改革をはじめとする丁寧なレクチャーがあるのが理想です。しかし、多くの日本企業ではそうしたプロセスがないため、当人もどうしていいのかわからず、苦しんだ末に「大課長」となってしまうことがあります。リクルートマネジメント・ソリューションズが『トランジション・デザインブック2.0』で行った調査では、新たに管理職になった人のうち、5人に1人がトランジションに悩んだ(新しい環境への適応がうまくいかなかった)という結果も出ています(図表1)。
■過去の信念も価値観も捨てて
過去の仕事の信念や価値観を意図的に捨てて学び直すことは「アンラーニング(学習棄却)」と呼ばれます。時代の変化や状況に合わなくなった業界や職種などに対して使われることが多いですが、この概念を、課長から部長に役割が変わる際に用いる必要があると思います。
例えば現場で業務をバリバリ推進していた人が、同じ現場を取りまとめるリーダーとして課長職を担う場合は、アンラーニングまでの切り替えは必要ありません。現場への理解度の高さを活かし、メンバーをまとめながらの業務推進、OJT(On the Job Training)による人材育成などを担っていく役割であり、同じカテゴリ内の業務レベルアップと捉えることができるからです。
一方で、課長から部長に役割が変わるときにはアンラーニングが必要になると考えています。課長のときには、現場で起こる問題の一つひとつに、ハンズオンで対応してきたはず。しかし部長になれば、現場で起こる問題の根本的な原因は何か、ということを考える必要が出てきます。
■部長が扱うのは「具体」より「抽象」
あるいは課長時代の業務推進では、メンバーからの相談に乗ったり、月次の業績の確認をしたりしてきたかもしれません。でも部長になったなら、今月の数字よりも次の3年の利益を考えることが求められます。一人ひとりに即効性のあるアドバイスをするのではなく、市場や顧客セグメントの優先順位を整理し、集中してリソースを投下すべき箇所を決定するのが部長です。利益を増やす体制を作るためには、人材育成や採用が必要になることもあるので、そうした横断的な視野を持ち、組織に変化を起こしていく役割を担うことになります。
組織の直接的な実務を担う「現場」を重視し、そこで得られる情報や判断を尊重するのは大切なことで、その意味での「現場主義」を無理に変える必要はありません。しかし、メンバーも課長も部長も、全員が同じ視点で同じ対策を議論していては、組織の進化が遅れてしまいます。現場で起こっていることを軸にしながら、メンバー・課長・部長がそれぞれ違う役割を果たすことが重要です。
とくに課長から部長になるときには、「現場の具体的な事象に、一つひとつ対策を立てる」というポジションから、「事象を抽象化し、根本的な原因を捉えて汎用的な対策を立てる」というポジションに変わります。これまでは現場にいち早く向かい、スピーディーな対策を行うことで認められてきたのですから、同じ行動で解決したくなるかもしれません。その欲求をぐっと抑えて、部長として、これまでとは違う解決法を探る――これがアンラーニングです。
■誤解される「リスキリング」
アンラーニングとともに重要なのが、正しい意味での「リスキリング」です。本来は、配置転換があったときに行き先の部署で必要なスキルを習得したり、世相を受けて変化する業務に対応するため、DXなどの新たな知識を獲得したりすることを指すものです。ポイントは、社員の職業能力向上・再開発を目的に、会社側が実施するものであるということです。会社が示す新しい組織の形やポジションに対して、必要なスキルを社員が習得。これを行った社員のキャリアを会社が保証していくのが、リスキリングのあるべき姿なのです。
しかし世間では、個人が自主性に基づいて自由に取り組むものだというような、表面的な理解が広がってしまっています。「会社が将来を保証してくれない時代だから、個人で副業でも稼げるようにならないといけない」とか、あるいは定年後に備えて「趣味を活かして何かできるようになっておこう」と考える人も多いようです。
でも、本当のリスキリングが社内で適切に行われていれば、ポータブルスキルやマネジメントスキルなどもおのずと鍛えられ、「大課長」の量産も避けられたはずです。
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林 宏昌(はやし・ひろまさ)
リデザインワーク代表取締役社長
早稲田大学理工学部情報学科卒業。2005年リクルートに入社し、経営企画室長、広報ブランド推進室長、働き方変革推進室長を歴任。2017年にリデザインワークを創業し、大手企業を中心とした経営戦略・人事戦略・働き方改革のコンサルティングを推進。
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(リデザインワーク代表取締役社長 林 宏昌)

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