経営層と一般社員が密に意思疎通を図るのは難しい。本来、その橋渡しを担うのは、部長や本部長といった管理職だ。
だが人事・経営のコンサルティングを手がける林宏昌さんは「長期的な視点で組織のビジョンを描き、トップと現場をつなぐという役割を果たせない管理職が増えている」という――。
※本稿は、林 宏昌『上司はリスクばかりを指摘する 会社を潰す「大課長」問題』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
■管理職は経営層と一般社員をつなぐ存在
目先の仕事ばかりに目が行ってしまい、長期的なビジョンを描くことのできない部長以上の管理職が増えています。課長以下のマインドのまま役職だけが上がってしまった人たちのことを、本書では「大課長」と定義しています。ここでは「大課長」の存在によって、企業にどんな問題が生じるのかを掘り下げます。
経営層と一般社員は実務的な関わりが薄く、意思疎通を図ることがやや難しい間柄だと言えるでしょう。その二者をつなぐことは、本来、部長や本部長に求められる大切な役割の一つです。例えば、現場で発案された新たなプロジェクトを動かすために、経営層に訴えて必要な予算や人材などの経営資源を確保すること。あるいは、経営層の求める改革案を嚙み砕いて具体化し、一般社員がなすべきことを示すこと。しかし「大課長」はそうした役割を果たしません。
■「経営層はわかっていない」という不満
自分も現場に下りてきてしまっている「大課長」の場合は、経営層に対しても、短期的な課題ばかりを訴えている可能性があります。「現場はこんなに大変なんだから、これ以上は無理」「部下の負担がこれ以上増えて苦しまないように、俺が守ってやる」と、一見部下に寄り添う心強い上司のように振る舞いますが、現場社員の声を代弁するだけがリーダーの仕事ではありません。
経営層の意図を汲み取り、「これを新たにやるなら、代わりに既存のこれをやめる」など、落としどころを探っていくことも大きな役割です。また、経営層に自分がどう見られるかを考えてイエスマンに徹し、実現性の低い提案をそのまま下におろしてくる「大課長」もいます。
こうした会社では、経営層と現場の分断が深刻になります。現場の社員にとっては、求めている具体的な変化はもたらされず、やたらと大きなビジョンだけが下りてくるように感じられるでしょう。「部長・本部長が経営層の指示を安請け合いしてきて、現場の仕事は増えるばかり、減る仕事は一つもない」という声も出てきます。業務環境は改善されないのに、思いつきで新しい仕事がオンされるような状況では、経営層の言うことを「現実がわかっていない」「お花畑だ」などと冷ややかに受け止めるようになります。
■「とりあえず年収は上がりますから」
十数年前、当時勤めていた会社で営業をしていたときのことです。日本のトップエリートとされる企業の中堅管理職に対して、挑戦的な提案をさせていただいた際にこんなふうに言われたことがありました。
「会社が成長してもしなくても、とりあえず私たちの年収は上がっていきます。だからうちの事業のことは、そんなに気にしないでください」
私は衝撃を受けました。課題に対して解決策を精一杯考え、優先順位を決めて挑戦するのが当たり前だと思っていた、自分との仕事観の違いに何も言えませんでした。生き方としてはこうした姿勢もありかもしれませんが、経営の視点から見ると、変化や挑戦が検討・推奨されずに固定化してしまいます。
課長以下一般社員はそんな先輩の背中を見て、「新規事業をやると言っていたけど、やらないんだな」「人的リソースを増やしてくれる気はないんだな」など、よくない実体験ばかり積んでいきます。新しい企画や改善策を提案しても「大課長」によって却下されたり、うやむやにされたりすると、その社員は「頑張っても、何も変わらない」と、もともと持っていたやる気を失ってしまいます。そしてその無気力ムードは、じわじわと部署内に蔓延していきます。
■変革を求めても、何も変わらない
理想的な部長や本部長は、経営層の示した方針と現場の状況の双方を踏まえ、自ら最適な打ち手を考えて実践します。経営層と現場の橋渡しをするのです。しかし「大課長」の部下たちは、「大課長」自身もどうせ本気ではないことを知っています。結果として、現場の社員は「笛吹けども踊らず」状態になり、経営方針が全社に浸透することが難しくなります。
一方で経営層は、部長や本部長が現場に方針を伝達し、実行しているものと考えています。それなのに効果が出ていないのなら、また別の策を講じなければならないと考えるでしょう。実態とはかけ離れたその認識が正されなければ、次に打ち出される方針は、さらに現場との乖離(かいり)が大きいものになってしまいます。しかも一般社員たちは、「やれやれ、また新しい仕事が降ってきた」という程度にしか受け止めません。現場の第一線で働く社員の一部が「このままではいけない」と危機感を持って変革を求めても、結局何も変わらない。
その結果、次のリーダーと目されていた社員の目はうつろに、その下の若手にも不安が広がっていくのではないでしょうか。
■半数以上が「未来を正しく描いていない」
もちろん経営層側も、何となくのイメージではなく、実現可能なビジョンを描く必要があることは大前提です。しかし、実効性のある方針が示されていたとしても、管理職が現場とのすり合わせをしなければ無意味です。こうして、社内の分断によって悪循環の一途をたどっていくのです。
本書のために実施した管理職516人のwebアンケート結果を見てみましょう。課長から見た部長・本部長の評価(図表1)で「当てはまる」「どちらかといえば当てはまる」の双方で最多の回答を集めた「大課長」の問題点は、「将来のありたい姿が曖昧な中、過去から現在の延長線上で、事業/部の将来を描く(または事業の未来を描いていない)」でした。
自分の上司が正しく未来を描けていないと答えた人の割合は、合計で56.6%という高い水準になっています。次いで多かったのは「定量的な分析が弱い中で、感覚や定性情報のみの現状把握をもとに、事業/部の将来を描く(または事業の未来を描いていない)」と答えた人で、こちらも合計で51.1%と半数を超えていました。
■「大課長」は実際に悪影響を与えている
webアンケートではさらに、「大課長」の存在による悪影響についても聞きました(図表2)。
この結果から、課長クラスが最も問題視している「大課長」による弊害は、「人材が十分育っていない」ことだとわかりました。図表3では、課長クラスが上司に最も力を入れてほしいことを尋ねましたが、こちらもやはり「計画的な人材育成」となりました。部下たちは「大課長」を、組織の方向性を示してはくれないし、将来を担う人材も育ててくれない人だと見ています。


----------

林 宏昌(はやし・ひろまさ)

リデザインワーク代表取締役社長

早稲田大学理工学部情報学科卒業。2005年リクルートに入社し、経営企画室長、広報ブランド推進室長、働き方変革推進室長を歴任。2017年にリデザインワークを創業し、大手企業を中心とした経営戦略・人事戦略・働き方改革のコンサルティングを推進。2025年には2社目となる株式会社スキルキャンバスを創業。情報経営イノベーション専門職大学客員教授。本書が初の著書となる。

----------

(リデザインワーク代表取締役社長 林 宏昌)
編集部おすすめ