メガネチェーン「OWNDAYS(オンデーズ)」会長の田中修治さんは、眼鏡市場やJINSといった業界大手に立ち向かうべく、あえて「陸の孤島」と呼ばれるような地方の僻地へ出店し、業績を伸ばすことに成功した。一体どんな狙いがあったのか。
田中さんの著書『社長がつまずくすべての疑問に答える本』(KADOKAWA)より、2008年の事業再建当時の事例の一部を紹介する――。
■眼鏡市場、JINSに相手にすらされなかった
Q.経営資源が限られた中小企業は、どうすれば大手と同じ市場で戦えるのでしょうか?

A.「ゲリラ戦」に絞って戦うべき
個人商店や中小企業が大手に勝つ戦い方は「ゲリラ戦」に絞るべきです。大企業ができないこと、やらないこと、スピード感や柔軟性、顧客との密な関係構築など、個人店や小規模事業者ならではの強みを突き詰めていくことが重要です。
僕の経験でも、競合相手との企業規模が3倍以上違うと、ビジネスモデルを分析しても、それに基づく戦術はあまり意味を持ちませんでした。社長就任直後のオンデーズは、JINSさんやZoffさん、さらに当時、最大手の眼鏡市場さんにも戦いを挑んでいましたが、正直全く相手にすらされていませんでした。
そこで僕が取った最初の戦略は局地戦に徹することでした。市場が小さく、大手チェーンが出店していないエリアを探し、そこにピンポイントで出店し地域ナンバーワンを取りにいく。これが唯一できたことでした。
■あえて「陸の孤島」と呼ばれる場所に出店
実際に、オンデーズは僕が社長になってからすぐに、東京や大阪などの大都市に出店を重ねたのですが、そこはすでに大手チェーンの独壇場で、知名度もなく、品質にも劣る当時のオンデーズでは消費者から見向きもされず、そのほとんどが失敗に終わりました。
そこで戦略をがらっと変え、徹底したゲリラ戦を展開することにしたのです。
具体的には、当時、競合他社が出店していなかった地方や海外の小さな市場を狙って出店を進めたのです。同時の社員の多くが「なんでそんなところに出店するの?」と疑問に思うような場所ばかりでした。
沖縄、福岡、そして東南アジア。それも沖縄であれば、最初の出店場所は、那覇ではなく、北部の名護市、関西で陸の孤島と呼ばれていた兵庫県の豊岡市、福岡は博多ではなく北九州市といったところです。
結果として、いまオンデーズのシェアが圧倒的に高い地域は、まさにそうした“無風帯”に先回りして旗を立ててきた場所ばかりです。
■「年1回購入」を2回に増やせば売上も2倍になるはず
――経営資源が限られた中小企業はそうした工夫で他社と差別化することが必要なのですね。他にもなにか工夫できる点はありますか?
売上と購入頻度に関して意識を持つことも大切です。
当たり前ですが、売上は、「客数×客単価×購入頻度」で決まります。
どれも重要なポイントですが、客数は先に述べた「習慣に入り込めるか」、客単価は「商品構成」によって大部分が決まっていきます。では「購入頻度」をどう増やすかについても考えていきましょう。
メガネ業界の場合、平均的な購入頻度は年に1回です。メガネ業界がいる耐久消費財の市場は、全般的に購入頻度が低い傾向にあります。購入頻度が年に1回ということは、一度お客様を他社に奪われると、次に取り返せるのは1年後ということになります。飲食のように「今日取られても明日取り返せる」業種や、アパレルのように毎月のように購入されるチャンスがある商材と違って、一度のミスが致命傷になりやすい商材とも言えます。

このような商材を扱う場合、最も重要なのは、1年に一度という固定観念を覆して、「購入頻度そのものを上げること」でした。
今まで1年に1本しかメガネを購入していなかったお客様に、今後は2本、3本と買ってもらうことはできないか? もしくは一度に複数本買ってもらえないか? ここにすべての発想の原点を切り替えたのです。これを可能にするためには、まずお客様の購入動機を深く探る必要がありました。
■収集用、新機能メガネで「買いたくなる理由」を創出
メガネの場合、購入頻度を上げるためのアプローチは大きく分けて2つありました。
1つ目は、潜在需要の発掘です。
例えばデザインの幅を広げる。ビジネスシーンに似合うメガネや、柔らかい印象を持たれるようなメガネなど、デザインに広がりを持たせ、ファッションに合わせたメガネが欲しくなるような提案をしました。
強烈なファンがいるブランドやIP(知的財産)、アーティストなどとコラボして、そのファン層を取り込めるような商品を発売したりもしました。コレクターズアイテムとしてのメガネを販売したわけです。
PC用や紫外線カットレンズ、遠近両用をさらに使いやすくした近々両用や中近両用レンズ、さらにはオーディオがフレームから聞こえてくるウェアラブルデバイスとしてのメガネなど、今までになかった新しい機能を備えたメガネを提案することもしました。
要するに、まだ買い替えを検討していないタイミングでも「買いたくなる理由」をいかに多く作れるか、お客様自身も気づいていない需要(ニーズ)を掘り起こせるかに視点を向け、深く掘り下げて新商品を開発していったのです。
■「買うのに時間がかかる」が購入を思いとどまらせていた
2つ目は、購入時のペインポイント(顧客が抱える不満・不便・悩み・ストレス)の解消です。

メガネの購買体験全体を見直すとたくさんの「面倒」「わかりづらい」「不安」「不満」が存在していることに気づきました。特に大きかったのが「買うのに時間がかかる」という点でした。
本来、お客様はもっと多くの場面でメガネを購入したいと思ってくれていたのに、「メガネは買うのに時間がかかる」という常識が大きな不満となり、購入を躊躇するボトルネックになっていたのです。このボトルネックを解消するために、購買体験にかかるすべてのオペレーションを見直し、1分1秒単位でお客様をお待たせする時間を削減していきました。
このように購買体験に伴うネガティブな要素を徹底的に潰していくことで、買おうと思ったときに、迷わず、ストレスなく買える状態を実現していきました。
この2つのポイントを押さえることで平均購入頻度は、創業当初の1年に1本から、1年に2本まで増やすことに成功しました。購入頻度が2倍になるということは、単純計算で売上が2倍に増えるということです。店舗を2倍に増やすことや、単価を2倍にすることを考えれば、どちらが簡単でリスクが少なく、利益を出しやすいかは一目瞭然でしょう。
売上を2倍にしたければ、購入頻度を倍にする。シンプルに言えば、「買ったばかりでも、また欲しくなるような商品を出し、誰でもいつでも、すぐ買えるようにする」ということです。
■差別化は作るものではなくにじみ出てくるもの
――競合との戦いで他に気をつけることはありますか?
ここで大事なのは、「競合をあまり意識しすぎない」ということです。
業界内で同じような商品を扱っていれば、ある程度、価格帯や店舗の設計、商品ラインナップ、サービスのスタイルなどは似通ってきます。
それは仕方ないし、むしろ自然なことなのかもしれません。現にコンビニの大手3社は、どこも同じような商品構成、店内レイアウト、サービスを提供しています。家電量販店、大型ショッピングモール、牛丼チェーン、回転寿司、どの業界でも同様の傾向が見て取れます。
「競合と被るからこのレイアウトはやめよう」「この看板の出し方も避けよう」……そうやって頑張って自ら“違い”を作り続けた結果、何屋かわからない店になってしまい、せっかくの強みが失われ、競争に敗れて消え去っていく例は枚挙に遑がありません。
差別化というのは、最初から競合を意識して作るものではなく、自分たちの強みや世界観を突き詰めた結果として“にじみ出てくる”ものでなければいけません。
■差別化できていない黒字の会社のほうがいい
それに、競合と違うことをしたからといって、それがすぐに売上につながるとは限りませんし。むしろ、差別化にこだわるあまり、売れなくなってしまうケースのほうが多いように思います。
自社の規模が小さく、業界大手を追う立場にいるのであれば、すでに先行しうまくいっている競合を徹底的に研究し、小さなプライドに囚われず、真似できることはどんどん真似すべきでしょう。そうして規模と体力がついてきたら、自分たちのオリジナルなアイデアを投入して実験していけば良いのです。
金融機関や投資家などは、やたらと「競合とはどう差別化してますか?」と聞いてきますが、オンデーズも最初の頃はよく聞かれました。そんな時は軽く聞き流して、それっぽいことを回答しておけば良いのです。商売というものの本質は、あくまでも顧客に求められていることに応えることの中にしか見出すことはできません。
競合と同じことでも、求められているなら堂々とやるべきです。
「差別化はできているけど赤字の会社」と「差別化はできていなくても利益が出てる会社」なら、僕は後者を選びますし、結局金融機関が融資をしてくれるのも後者です。

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田中 修治
オンデーズ会長

漫画喫茶や居酒屋、携帯販売など複数の事業を手掛け、2008年に債務超過のOWNDAYS再建に挑戦し社長就任。翌年に黒字化達成。2013年にシンガポール法人を設立し海外展開を加速。2022年にインド大手Lenskart社と統合し、アジア最大級のメガネチェーンを築く。現在13カ国600店舗超。

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(オンデーズ会長 田中 修治)
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