睡眠時間を削ってもバリバリ働ける人は何が違うのか。米マウントサイナイ医科大学の山田悠史医師は「GRM1という特定の遺伝子の変異を持つ人は、短い睡眠でも日中に眠気を感じにくく、健康への悪影響も見られにくい。
ただ、こうした体質の人は『宝くじに当たるような確率』でしか報告されていない」という――。
本稿は、山田悠史『最新科学が覆す 体にいいのはどっち?』(サンクチュアリ出版)抜粋の一部を再編集したものです。
■「90分サイクル説」に医学的根拠なし
1.5時間の倍数で睡眠をとったほうがいい?

⇒ ×
・睡眠サイクルは人によっても、日によっても変わる。

・「1.5時間の倍数」に健康効果の実証なし。

・7~9時間睡眠+起床・就寝時間の規則性が最優先。

「睡眠は1.5時間サイクルだから、その倍数で起きるとすっきり目覚められる」。この話、一度は耳にしたことがあるかもしれません。睡眠アプリなどでも、この時間を基準にアラームを設定するものがあります。でも、この「1.5時間ルール」、本当に意味はあるのでしょうか。
実は、「1.5時間の倍数」で睡眠時間を区切ることに、特別な健康効果を示す証拠はありません。
ではどこからきているのか。これは、私たちの睡眠が、「深いノンレム睡眠」と「浅いレム睡眠」が繰り返されるサイクルでできており、このサイクルの長さからきているようです。

しかし、問題はこの睡眠サイクルがすべての人で同じではない、という点です(1)。きっかり90分というわけではなく、人によっても、また同じ人でも日によって、120分と長くなったり90分未満と短くなったり変動するのです。
では、質のよい睡眠のために本当に大切なことはなんでしょうか? ひとつは、「十分な睡眠時間をとること」。大人であれば、1日7~9時間が推奨されています。そしてもうひとつは、可能な限り「毎日なるべく同じ時間に寝て、同じ時間に起きること」。つまり、睡眠の規則性です(2、3)。
毎日決まった時間にベッドに入り、トータルで7時間はしっかり眠ること。こちらのほうが、確実な健康法と言えそうです。

参考文献

1.How Sleep Works - Sleep Phases and Stages | NHLBI, NIH. March 24, 2022. Accessed July 26, 2025.

2.St-Onge MP, Aggarwal B, Fernandez-Mendoza J, et al. Multidimensional Sleep Health: Definitions and Implications for Cardiometabolic Health: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circ Cardiovasc Qual Outcomes. 2025;18(5):e000139. doi:10.1161/HCQ.0000000000000139

3.Gottesman RF, Lutsey PL, Benveniste H, et al. Impact of Sleep Disorders and Disturbed Sleep on Brain Health: A Scientific Statement From the American Heart Association. Stroke. 2024;55(3):e61-e76. doi:10.1161/STR.0000000000000453
■睡眠時間は、数字よりも心身の状態
ベストな睡眠時間は人によって違う?

⇒ ○
・体質・年齢・生活で必要な睡眠量が変動。

・同年齢でも必要睡眠時間に幅がある。

・目安は7~9時間、日中の体調で調整する。

洋服のサイズや好みが人それぞれ違うように、ベストな睡眠時間も、人によって違います。

私たち一人ひとりに、自分に合った「ベストな睡眠時間」がある、というのが現在の科学的な考え方だと思います。
年齢や性別、生まれ持った体質、そして日々の生活スタイルなど、たくさんの要素が複雑に絡み合って、その人に必要な睡眠時間に影響を与えます(1)。
結果として、実際の睡眠時間と「主観的な睡眠の必要量」には幅広い分布があり、同じ年齢層でも必要な睡眠時間には大きなばらつきがあると報告されています(2)。さらに、個々の最適な睡眠時間は、睡眠負債、その日の睡眠の質などによっても変動します。
もちろん、目安はあります。多くの専門機関は、健康な大人に「1日7時間から9時間」の睡眠を推奨しています(3)。まずは、この範囲を基準に考えてみるとよいでしょう。
では、その中で自分にとってのベストな時間を見つけるには? 大切なのは、日中の自分の状態をチェックすることです。「日中に強い眠気を感じないか?」「集中力は保てているか?」「朝、すっきりと起きられているか?」。これらの質問に「はい」と答えられれば、それが今のあなたにとってのベストな睡眠時間と言えるでしょう(4)。
「○時間眠らなきゃ」と数字に縛られるよりも、自分の体と心に耳を澄ませて、最適な時間を見つけていくのが、睡眠の質を高めるいちばんの秘訣です。

参考文献

1.Ashbrook LH, Krystal AD, Fu YH, Ptacek LJ. Genetics of the human circadian clock and sleep homeostat. Neuropsychopharmacology. 2020;45(1):45-54. doi: 10.1038/s41386-019-0476-7

2.Ursin R, Bjorvatn B, Holsten F. Sleep Duration, Subjective Sleep Need, and Sleep Habits of 40- to 45-Year-Olds in the Hordaland Health Study. Sleep. 2005;28(10): 1260-1269. doi:10.1093/sleep/28.10.1260

3.Mukherjee S, Patel SR, Kales SN, et al. An Official American Thoracic Society Statement: The Importance of Healthy Sleep. Recommendations and Future Priorities. Am J Respir Crit Care Med. 2015;191(12):1450-1458. doi:10.1164/rccm. 201504-0767ST

4.Kitamura S, Katayose Y, Nakazaki K, et al. Estimating individual optimal sleep duration and potential sleep debt. Sci Rep. 2016;6(1):35812. doi:10.1038/srep35812
■ショートスリーパーは0.01%未満
ショートスリーパー(でも平気な人)は本当にいる?

⇒ ○
・ごく稀(0.01%未満)にショートスリーパーはいる。



・特定の遺伝子の変異を持ち、短睡眠で健康維持できる。

・6時間以下の睡眠は、大多数にとって病気リスク増。

短い睡眠時間でも元気に活動できる「ショートスリーパー」。なんだか特別な才能のように聞こえますし、憧れを抱く人もいるかもしれません。私自身も実は睡眠時間が短い傾向にありますが、果たして私には特別な才能があるのでしょうか?
結論から言うと、「ごく稀には存在する」というのが答えです。
まず、大前提として知っておきたいのは、ほとんどの大人にとって、6時間以下の短い睡眠は、糖尿病や心臓病、肥満といったさまざまな病気のリスクを高めてしまうということです(1、2)。一般的に、7時間以上の睡眠が強く推奨されています。
しかし、ごく一部に、生まれつきの遺伝子によって、短い睡眠でも健康を維持できる「本物のショートスリーパー」が存在することが分かっています。例えば、GRM1という特定の遺伝子の変異を持つ人は、短い睡眠でも日中に眠気を感じにくく、健康への悪影響も見られにくいのです(3)。
ここで最も大切なのは、こうした体質の人は「宝くじに当たるような確率」でしか報告されていない、ということです。正確な頻度はわかっていませんが、0.01%未満と考えられています(4)。このため現実には、短時間睡眠者の大多数は、自覚症状なく水面下で健康リスクを高め続けているだけです。
個人的にも耳の痛い話です。
特別な遺伝子や才能を持たない私たちには、やはり7時間以上の十分な睡眠が必要です。

参考文献

1.Full KM, Shi H, Lipworth L, Dauer LT, Mumma MT, Xiao Q. Sleep Trajectories and All-Cause Mortality Among Low-Income Adults. JAMA Netw Open. 2025;8(2):e2462117. doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.62117

2.Itani O, Jike M, Watanabe N, Kaneita Y. Short sleep duration and health outcomes: a systematic review, meta-analysis, and meta-regression. Sleep Med. 2017;32:246-256. doi:10.1016/j.sleep.2016.08.006

3.Shi G, Yin C, Fan Z, et al. Mutations in Metabotropic Glutamate Receptor 1 Contribute to Natural Short Sleep Trait. Curr Biol. 2021;31(1):13-24.e4. doi: 10.1016/j.cub.2020.09.071

4.Weedon MN, Jones SE, Lane JM, et al. The impact of Mendelian sleep and circadian genetic variants in a population setting. PLOS Genet. 2022;18(9): e1010356. doi:10.1371/journal.pgen.1010356
■週末の「寝だめ」はリスク大
寝だめで睡眠負債はなくせる?

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・睡眠負債を完全には返済できない。

・寝だめで気分は回復しても、脳の働きは回復しきれない。

・体内時計が乱れやすく、「社会的時差ボケ」に。

平日は睡眠不足でも、週末にたっぷり寝れば大丈夫! そんなふうに、週末の「寝だめ」で睡眠不足をリセットしようとしている方は多いかもしれません。しかし、この方法で本当に「睡眠の借金」は返せるのでしょうか。
残念ながら、科学的な証拠を紐解くと「寝だめだけでは、睡眠負債を完全には返済できない」と考えられています。借金にはリスクが伴いますが、期限を守って返済すれば問題なく済むことも多い。しかし、睡眠の負債には取り返しのつかないリスクがあるようです。
もちろん、週末に長く寝ることで、主観的な眠気は改善し、すっきりした気分にはなると報告されています(1)。しかし、「気分」は回復しても、集中力や認知機能といった脳の働き、体のストレス反応は、完全には回復しないことが示されているのです(1~3)。


さらに、もうひとつの問題は、週末に寝だめして起きる時間が大きくずれると、体の中の「体内時計」が混乱します。これは「社会的時差ボケ」と呼ばれ、寝だめによるリズムの乱れによって、かえって月曜日のパフォーマンスが下がる、メンタル面のリスク増加につながる可能性が指摘されています(4、5)。
つまり、睡眠に関しては「借金をしても返せばよい」は通用せず、「そもそも借金をしない」スタンスが必要なようです。週末に頼らず、日々少しでも長く、安定した睡眠時間を確保してください。そう私も自分自身に言い聞かせています。

参考文献

1.Sallinen M, Holm A, Hiltunen J, et al. Recovery of Cognitive Performance from Sleep Debt: Do a Short Rest Pause and a Single Recovery Night Help? Chronobiol Int. 2008;25(2-3):279-296. doi:10.1080/07420520802107106

2.Leger D, Richard JB, Collin O, Sauvet F, Faraut B. Napping and weekend catchup sleep do not fully compensate for high rates of sleep debt and short sleep at a population level (in a representative nationwide sample of 12,637 adults). Sleep Med. 2020;74:278-288. doi:10.1016/j.sleep.2020.05.030

3.Banks S, Jones CW, McCauley ME, et al. Long-term influence of sleep/wake history on the dynamic neurobehavioural response to sustained sleep restriction. J Sleep Res. 2024;33(4):e14117. doi:10.1111/jsr.14117

4.Hsiao FC, Huang YH, Yang CM. The sleep paradox: The effect of weekend catchup sleep on homeostasis and circadian misalignment. Neurosci Biobehav Rev. 2025;175:106231. doi:10.1016/j.neubiorev.2025.106231

5.Fernandes GL, da Silva Vallim JR, D’Almeida V, Tufik S, Andersen ML. The effects of social jetlag and sleep variability on sleepiness in a population-based study: The mediating role of sleep debt. J Sleep Res. 2024;33(2):e14043. doi: 10.1111/jsr.14043

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山田 悠史(やまだ・ゆうじ)

米国老年医学・内科専門医、医学博士

マウントサイナイ医科大学(米ニューヨーク)老年医学・緩和医療科医師。米国老年医学・内科専門医、医学博士。慶應義塾大学医学部を卒業後、日本全国各地の病院の総合診療科で勤務した後、2015年に渡米。現在は高齢者医療を専門に診療や研究に従事している。AIと医療をつなぐ合同会社ishifyの共同代表。米国では、NPO法人FLATの代表理事として在米日本人の健康を支援する活動にも力を入れている。 著書に、『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』、『認知症になる人 ならない人 全米トップ病院の医師が教える真実』(共に講談社)などがある。


Podcast: 医者のいらないラジオ

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(米国老年医学・内科専門医、医学博士 山田 悠史)
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