物価高が続くなか、できるだけ出費を抑えるにはどうしたらいいのか。消費経済ジャーナリストの松崎のり子さんは「1円でも安い店を探す、食事は手作りにこだわるなど、よかれと思ってやっている習慣が家計を苦しくしている場合がある。
“節約貧乏”から抜け出す7つのポイントを参考にしてほしい」という――。
■値上げが止まらない
新年度が始まったばかりだが、2026年度は気の抜けない物価高の年になりそうだ。その要因は、むろんホルムズ海峡を巡る世界情勢だ。
いったん停戦の気配を見せたものの、原油が人質に取られている状況は変わらない。エネルギー高はあらゆる物流コストを押し上げるし、火力発電の燃料となる液化天然ガス(LNG)や石炭価格にも影響は及ぶ。これから夏を迎える私たちの電気代に影を落とすだろう。
さらに気がかりなのが、石油由来のナフサが十分確保できないと、それを原料とする食品トレイやラップフィルム、洗剤容器などの価格も上がることだ。農家が使う肥料や飼料への悪影響も懸念されている。
私たちが普段買い物をする食品や日用品価格への影響は、ちょっと想像しただけでも恐ろしい。たとえ食品の消費税8%を減税できたとしても、それを超える大きな値上げが襲ってきそうではないか。
家計を防衛するために、何らかの対策をしなくてはと焦るだろう。ただし、方法を間違えると、かえってムダ出費を増やしかねない。
節約しているつもりなのに、なぜか家計が苦しくなる一方なら、こんなことをしていないかチェックしてほしい。
■「1円でも安く買いたい」が逆効果に
家計が苦しくなる習慣

その① 1円でも安い店をハンティング
「1円でも安く買いたい」と、あちこち店を回るのは王道の節約術と言われる。確かに、同じ商品なのに店によって値段が違う事はよくある話だ。
しかし、あまりに多くの店をはしごするのは逆効果になりかねない。まず、店を回れば回るほど、なんだかんだと買い物してしまう。その店ごとに安いモノが目に入るからだ。その結果、払った合計額は1店舗でまとめ買いするより増えてしまう。
ポイントを貯めたい人にとっても効率がいいとは言えない。複数の店で少額ずつ支払うより、1店舗でまとめた金額を払う方が、ポイントはたまるからだ。
メインで買い物する店と、「パンがいつも安い」「卵がお買い得」など指名買いで安い店をサブに回る、くらいがムダ遣いも抑えられてバランスがいい。なお、高いガソリンを使ってあちこち買い回るのは節約とはいえないのは言うまでもないだろう。
家計が苦しくなる習慣

その② ディスカウントストアであれこれ買いだめ
安さは人を興奮させる。
びっくりするような安値が並んでいると、それだけで舞い上がってしまうもの。「これは必要だろうか?」と判断するより、どんどんカートに入れていく。あっという間に1万円以上買ってしまうこともあるほどだ。
激安をアピールするディスカウントストアは、安値で「ついで買い」や「衝動買い」を客にしてもらうのを狙っている。必要のないモノまでたくさん買ってもらうための仕掛けが、「他では見られない驚愕の安値」というわけだ。
■半額、処分品、100円に要注意
普段使ったことがない銘柄の商品でも、「半額」や「処分品」とあれば手にしたくなる。買う理由が「必要だから」「いつも使っているから」から、「安いから」にすり替わる。そして、ついつい必要のないものまで買いだめしてしまうわけだ。
「こんなに安く買えた」は快感だ。しかし、せめてレジに並ぶ前にもう一度、カートの中を見直して、「本当にこれを使うかな?」との思いがよぎったら、その品物は速やかに売り場に戻そう。どんなに安くても、使わないものを買うのはただのムダ遣いでしかない。
家計が苦しくなる習慣

その③ 100均が最安だと信じている
安いからと日用品を100均で買っている人は多いだろう。
ただし、今後は注意が必要になりそうだ。ホルムズ海峡を巡る情勢はこの先も不透明で、原油不足が解消しないと、それを精製して作られるナフサにも影響が出る。
私たちが100均で購入する日用品は、ナフサから作られるポリエチレンなどプラスチック製品が多い。ポリ袋にラップ、密閉容器などのキッチン用品、ゴム手袋にバケツ、ポリタンクに洗剤なども、ナフサ由来だ。原料が高くなれば、100円で売ることは難しくなる。100円以上の値上げをするか、内容量を減らすか、どちらかになるだろう。
100均というビジネスの弱点は細かな値上げがしにくいことだ。値段を100円のままにしようとすれば、内容を減らすしかない。すると、買う回数が増えてしまい、払ったお金は増えていく。それならスーパーやドラッグストア、ホームセンターで購入したほうが安く済んだということにもなりかねない。
一番安く買えるのは100均だという思い込みは疑ったほうがいい。
■余計な買い物をさせる「悪魔の誘い」
家計が苦しくなる習慣

その④ 割引クーポンを使い倒す
毎日のようにスマホに届く割引クーポンは、節約の味方だ。
ただし、自分が欲しいモノ、買う予定だったモノに使えるとしたらだ。そもそもクーポンを出すのは、割引対象となる商品の売り上げを増やしたい狙いがあってのこと。消費者は、クーポンを使うために余計な買い物をしただけ、と言えなくもない。
ほとんどの割引クーポンには使用条件があるものだ。3000円以上買ったら使えます、このメーカーの商品を買う時だけ使えます、発行して1カ月以内に使えます……というように。素直な消費者は、クーポンを使うためにいつもは買わないメーカーの品を買ったり、3000円以上になるまで無理に買い込んだりする。
スマホ決済のポイント還元倍増キャンペーンも同じような構造だ。「安く買って節約したい」はずが、「クーポンを使えば割引になる」「この期間にたくさん買い物すればポイントが多くもらえる」が、消費の目的になってしまう。
本当に節約したいなら、先に必要な買い物をリストアップしたうえで、それに使えるクーポンを探すという順番を守ることだ。それ以外は、どんなに魅力的な割引クーポンを手にしても、なかったことにするのが正解だ。
■損得にこだわりすぎると損をする
家計が苦しくなる習慣

その⑤ カードの年会費は絶対元を取りたい
節約ツールとしてのポイント人気は相変わらずだ。ポイ活目当てに、ゴールドカードなどの年会費がかかってもポイント還元率が高いクレジットカードを選ぶ人も多い。
しかし、どんなサービスでも、年会費を払うと「年会費の元を取りたい」という思考が湧いてくるものだ。ネットにはポイ活名人が語る、「このカードをこう使うことで年会費以上の元が取れる」との指南が溢れているのだし。
ただし、カードとは決済に使うものだ。元を取るにはせっせと支払い額を増やすしかない。年間の決済額が一定額以上になれば、翌年の年会費が無料になるという条件付きカードも多く、また魅力的な優待だってカードを使う前提があってこそ。
こうして年会費を取りもどそうとすればするほど、カード決済額が積み上がっていく。「元を取りたい」という心理は、時に必要以上の消費をさせてしまう。損得にこだわりすぎると、かえってお金を使ってしまう例といえるだろう。
家計が苦しくなる習慣

その⑥ 「食事は手作り」にこだわる
食費を節約するために、外食をやめて手作りしているという声をよく耳にする。インバウンド効果もあって、外食は高くなる一方だ。都心ではパスタとサラダ程度のランチでも1000円超えが当たり前になり、黙っていても金が減っていく。
自炊したほうが安く済むのは間違いではない。
ただ、全て手作りにこだわると、それなりの材料費がかかる。近年では異常気象の影響で、旬の野菜が驚くほど高くなったこともあるし、コメ高騰の折は、外食した方が安かったという声も聞かれた。すべて手作りにこだわると、自炊も高くつくのだ。
■「自炊=お得」という錯覚
また、多くの種類の食材を買い込んで使い切れず、捨てるはめになっては、まさに逆効果だろう。「これを作ろう」というレシピ優先ではなく、安い食材を使えるレシピを探す方がいい。また、メインおかずは手作りするが、サブおかずの1品は総菜や冷凍食品を買ってくるのもいい。サブおかず分の材料費・光熱費・手間と時間を節約できるからだ。
家庭菜園での野菜作りは楽しいが、これまた培養土や肥料などのコストがかかる。節約のためというより、趣味として楽しむことをメインにしたほうがよさそうだ。
家計が苦しくなる習慣

その⑦ 食費を減らしすぎる
「ひと月の食費は2万円」などの記事を見ると、我が家もまだまだ減らせるかと考えてしまうものだ。節約メニューはネットにあふれており、AIも気の利いたアドバイスをくれる。買うのは豆腐とモヤシ、肉の代わりにちくわや卵、そして見切り食品を使いこなせば、今より安くできそうだ。
だが、これまで高級和牛ばかり買っていたならともかく、食費はむやみに削ってはいけない。肉や魚などのたんぱく質が不足すると筋肉が落ちて、肌はカサカサに、髪もパサパサになる。疲れやすくなったり、免疫も落ちてくる。健康面や美容面に不調が起きると、医療費が増えたり美容ケア代がかさんだりする。
■家計の節約貧乏だけでは済まなくなる…
削った食費の額よりも出費が増えることになりかねない。節約のために減らすなら、ご褒美スイーツを買う回数や、おまけ目的のジャンク菓子、飲みすぎを誘うおつまみ類などをターゲットにしたい。
また、食卓が寂しいと家族の不満も増えてしまう。節約は家族の協力が欠かせないが、その気をそいでしまいかねない。平日は粗食で我慢しているから、週末くらいはぱあっと外食を楽しもう――なんてことになれば元も子もない。
「節約しているはずなのにお金が残らない」なら、どこかが間違っている。家計だけでなく、心と体も“節約貧乏”にならないように気を付けたい。

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松崎 のり子(まつざき・のりこ)

消費経済ジャーナリスト

『レタスクラブ』『ESSE』など生活情報誌の編集者として20年以上、節約・マネー記事を担当。「貯め上手な人」「貯められない人」の家計とライフスタイルを取材・分析してきた経験から、「消費者にとって有意義で幸せなお金の使い方」をテーマに、各メディアで情報発信を行っている。著書に『定年後でもちゃっかり増えるお金術』『「3足1000円」の靴下を買う人は一生お金が貯まらない 』(以上、講談社)ほか。

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(消費経済ジャーナリスト 松崎 のり子)
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