トランプ政権によるホルムズ海峡の「逆封鎖」が続いている。狙いはどこにあるのか。
防衛大学校共同研究員の伊藤隆太さんは「核問題への圧力と説明しているが、トランプ大統領の真の目的は世界のエネルギー調達の秩序を書き換えることではないか。泥沼になるほど米国には都合がいい」という――。
■トランプの“逆封鎖”は無謀なのか
トランプ政権によるホルムズ海峡の「逆封鎖」は、自由航行を損なう危険な賭けとして強い批判を浴びている。ブルームバーグ4月13日に配信された記事で「勝ち目なき戦い」と評した。だが、本当にそれだけだろうか。
海峡そのものを閉じず、イラン向けの出入りだけを止める今回の措置は、核問題への圧力だけでなく、世界のエネルギー調達について「有事には米国側に寄るほうが安全だ」と学習させる狙いを持つのではないか。
もしそうなら、米国が握りにいったのは海峡そのものではない。誰が、どの条件で、いくら払って海を使えるのかを決める権限、すなわち物流と供給秩序の主導権である。本稿では、なぜこの「逆封鎖」が一見の無謀さに反して米国の利益になり得るのかを考える。
4月12日、米中央軍(CENTCOM)は、イランの港湾に出入りするすべての海上交通を4月13日から封鎖すると発表した。ロイターの記事よれば、ホルムズ海峡を通ってイラン以外の港に向かう船の自由航行は妨げないとも明記している。
4月14日にはロイターが、封鎖開始後24時間で商船6隻が引き返したと報じている
今回の作戦は、海峡そのものを閉じたのではなく、「誰がその海峡を使ってよいのか」を選別する封鎖だった。
■実態は「物流秩序の書き換え」
その後、4月17日にはイランのアラグチ外相が、イスラエルとレバノンの10日間停戦に合わせ、残る停戦期間中はホルムズ海峡を「全商船に完全開放する」と表明し、原油価格は一時約1割下落した。これに対しトランプは同日、イラン向け・イラン発の船舶に対する米国の海上封鎖は継続すると明言。翌18日、イラン側は一転して海峡の通航制限を再強化し、少なくとも2隻の商船が銃撃を受けたと報じられた。
さらに米中央軍(CENTCOM)の4月19日付発表によれば、米軍は同日、北アラビア海でイラン船籍貨物船M/V Touskaに警告後に発砲して航行不能にし、海兵隊が乗り込んで拘束した。
「逆封鎖」という言葉は、思いのほか実態をよく表している。従来の中東危機で定番だったのは、イランが海峡を閉じて世界を人質に取るシナリオだ。今回は逆に、米国が海峡を開けたまま、イランだけに海の出口を失わせる。軍事作戦に見えて、実態は物流秩序の書き換えである。
しかもこの設計なら、米国はなお「海峡を守る側」の言い分を完全には失わない。海峡を先に大きく不安定化させたのはイランであり、自分たちはその中でイラン向けの出入りだけを管理している、と主張できるからだ。危機を生んだ責任は相手に残しつつ、危機の出口は自分が握る。
トランプが好むのは、こうしたポジションである。
■警察官から「海峡の許認可官庁」へ
海峡が国際公共財として機能するのは、「誰の船でも一定のルールの下で通れる」という中立性があるからだ。今回、米国はその中立性を部分的に剥ぎ取った。4月13日に配信されたロイターの記事によれば、英仏は封鎖への参加を拒んだ。
さらに、4月14日に配信されたロイターの記事によれば、英仏は別枠で海峡の自由航行を回復させるミッションを模索している。これは今回の措置が、多国間の自由航行作戦というより、米国が単独で通行条件を決める権力の行使であることを示している。
ここで重要なのは、海軍の行動が海の上だけで完結しないことだ。どの港に入ったか、どの貨物を積んだか、どの保険が付くか、どの銀行が決済を通すかまで、すべてが「通ってよい船」の条件になる。海の上の封鎖が、保険、港湾、金融のルール変更にまで波及する。
トランプが握りにいったのは、海峡そのものよりも、海峡を使う資格の審査権なのである。
言い換えれば、米国は「海峡の警察官」というより「海峡の許認可官庁」になろうとしている。通れる船と通れない船を分けるだけでなく、通るためのコストまで引き上げるからだ。
ここに、軍事と市場操作が一体化した今回の措置の本質がある。
■「核問題」は表向きの目的にすぎない
もちろん、公式目的は対イラン圧力である。ホワイトハウスは、イラン海軍の無力化と核兵器保有の阻止を繰り返し作戦目的として掲げてきた。これは額面どおり受け取ってよい。
だが、4月14日に出されたホワイトハウスの声明は、今回の海上封鎖を「安全な通航の回復」と説明するだけでなく、米国のエネルギー・ドミナンスが「中東原油から切り離された国々へのライフラインになる」ともアピールした。
軍事行動の説明に、米国産原油や液化天然ガス(LNG)の代替供給力の宣伝が混ざるのは偶然ではない。核問題が表看板だとしても、政権が同時に見据えているのは、「危機のとき、最後に頼れる供給者は誰か」という世界の認識を書き換えることだ。
もし狙いが核問題だけなら、作戦説明と原油・液化天然ガスの供給力アピールを同じ文章に混ぜる必要は薄い。にもかかわらず政権は、自由航行の回復とエネルギー・ドミナンスを一体の成功物語として語っている。つまり今回の一手は、イランを屈服させるためだけでなく、輸入国側に「有事のときは米国側に寄ったほうが安全だ」と学習させる働きも持つ。
この意味で、今回の作戦はイランとの交渉カードであると同時に、同盟国や競争国に向けた供給秩序のデモンストレーションでもある。
■目的は船を止めることではない
この作戦のいやらしさは、物理的にすべての船を止めなくても十分に効く点にある。

4月14日に配信されたロイターの記事によれば、封鎖初日のホルムズ通航量自体には大差がなかった一方で、戦争保険はなお高止まりし、引受条件は48時間ごとに見直されている。
さらに3月6日には、ロイターが、船体戦争保険の料率が平時の約0.25%から3%程度まで跳ね上がったと報じた。インドが保険会社向けに政府保証を検討したのも、4月7日に配信されたロイターの記事によれば、保険料が最大1000%上昇したからだった。
つまり、海峡危機で本当に先に動くのは数量ではない。コストであり、許容リスクであり、契約年限である。調達担当者が「この地域は次も止まるかもしれない」と判断した瞬間、長期契約の相手、保険の付け方、船の回し方、精製所の原油選定が変わる。トランプが突いているのは、まさにこの心理と制度の層だ。
この点で、逆封鎖は「量を止める武器」である前に、「値札を書き換える武器」である。トランプは海峡を閉じたかったのではなく、海峡を通るエネルギーに新しい地政学プレミアムを上乗せした、と市場に読ませる効果を狙ったと考えると筋が通る。
■「中東に依存する国」の弱点を突く
米エネルギー情報局(EIA)の発表によれば、2024年にホルムズ海峡を通過した原油・コンデンセートの84%、液化天然ガス(LNG)の83%がアジア向けだった。
最も影響を受けやすいのは、中国、インド、日本、韓国のような大口輸入国である。日本について言えば、資源エネルギー庁の発表によれば、2023年度の原油輸入に占める中東依存度は94.7%に達している。

対照的に、米エネルギー情報局の発表によれば、2025年の米国の原油輸入に占める中東湾岸の比率は8%にすぎない。
米国は米エネルギー情報局の説明どおり2020年に石油の純輸出国へ転じ、2025年の原油生産は米エネルギー情報局によれば日量1360万バレルの過去最高を記録し、天然ガス生産は米エネルギー情報局によれば日量118.5億立方フィート(Bcf/d)の過去最高を記録した。
液化天然ガス(LNG)でも米エネルギー情報局の発表によれば世界最大の輸出国の地位にある。もちろん価格高騰の打撃は受ける。だが、アジアのように「物が来ない」こと自体が致命傷になりやすい構造ではない。
1970年代の米国にとってホルムズ海峡は、自国が窒息しないために守るべき動脈だった。いまは違う。自国が相対的に身軽になったからこそ、他国の依存の深さがそのまま米国の交渉力になる。かつての弱点が、いまは他国の弱点を管理するテコに変わったのである。
しかも影響は原油だけにとどまらない。液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)、ナフサ、ジェット燃料までが連鎖し、化学、電力、航空、物流のコストが一斉に動く。ホルムズ依存の高いアジアでは、エネルギー問題がすぐに産業コスト問題へ変わる。
トランプが見ているのは、その連鎖の長さである。
■「最後の安全な一滴」を米国と西半球が握る
ここで効いてくるのが、西半球側の供給余地だ。
ロイターは4月1日、アジアと欧州が中東の代替を求めた結果、米国の石油製品輸出が3月に過去最高を更新したと報じた
液化天然ガス(LNG)輸出も、4月1日にロイターが配信した記事によれば、同日記録的水準に達している。
米エネルギー情報局は、ブラジル、ガイアナ、アルゼンチンが2026年の世界の原油増産の半分を担うと予測しており、北米の液化天然ガス(LNG)輸出能力も米エネルギー情報局によれば2029年までに2倍超へ拡大する見通しだ。
ここで挙げた数字は4月13日の選別的封鎖だけでなく、それ以前から続く戦争全体の供給不安も反映している。それでも、市場が米州側の供給余地に目を向け始めていることは確かだ。
しかも米国は、すでに西半球の供給中核でもある。米エネルギー情報局の発表によれば、2025年の米国の主要輸送燃料輸出は平均日量240万バレルで、メキシコがガソリン、軽油、ジェット燃料の最大の仕向け先だった。米国は単に「自給できる国」なのではなく、周辺市場を支えるハブとして振る舞っている。そこへブラジルやガイアナの増産が重なれば、西半球は単独の産油国の集まりではなく、供給圏としての重みを増す。
ここでのポイントは、「米国だけで中東を全部置き換えられるか」ではない。そんなことはできない。だが、商品市場で値段を決めるのは、しばしば最後の数%の不足だ。
その「最後の安全な一滴」を米国と西半球が握れば、価格決定力と外交的な優位性を手に入れることができる。トランプが欲しいのは、世界の全需要ではなく、世界の限界需要を自陣に引き寄せることだ。
■泥沼化で中東原油を高コストに
その兆候はすでに出ている。ロイターは4月6日には、アジアと欧州が代替供給を奪い合う中で、米国産原油のプレミアムが過去最高まで上昇したと伝えた
また、中国はロシア産の調達再開を探り、アジアの買い手は3月4日にロイターが伝えたようにブラジル産や西アフリカ産の原油にも目を向けている。
日本も米国やブラジル、アフリカ産原油の調達を急いでいると、4月10日にロイターが報じている
ここで起きているのは、単なる地政学的対立ではない。保険会社、船主、精製所、商社、国家備蓄の担当者が、それぞれのスプレッドシートを更新し始めることだ。「どこから買うのが安いか」ではなく、「どこから買えば次も止まらないか」へと判断基準が変わる。いったんこの癖が契約に落ちると、危機が去っても調達地図は元に戻りにくい。
逆封鎖とは、海の戦争というより、世界の調達行動に対する介入なのである。
中国がロシア調達を探り、日本が米国やブラジルを探し、インドが国家保証を検討する、という流れも3月17日にロイターが報じている。エネルギー安全保障が「価格の問題」から「地理と制度の問題」へ戻りつつある、ということである。
だからこれは、「どの海を誰が支配するか」という昔ながらの地政学だけでは説明しきれない。むしろ「どの調達行動を、どのコストで、どちらの陣営に寄せるか」という地経学の問題である。海峡は戦場であると同時に、市場参加者の行動にも介入しているのだ。
■日本は「調達先」を増やすべき
4月15日に配信されたロイターの記事によれば、日本政府は追加の備蓄放出を進める一方、米国、マレーシア、アゼルバイジャン、ブラジル、ナイジェリア、アンゴラなどへ代替調達を打診している。
危機対応としては妥当だ。だが、本当の教訓は「何日分ためるか」だけではない。「どの海から、どの契約で、どの原油を持って来られるか」を平時から変えておくことにある。
備蓄は時間を買う手段であって、脆弱性そのものを消す手段ではない。真に問われるのは、危機のたびにどの地域へ振り替えられるのか、そのための船、保険、決済、精製能力を平時から持っているかどうかだ。
日本の弱点は、中東依存そのものだけではない。依存先、航路、油種、保険、決済の選択肢が狭いことである。どれか一つが詰まっても他で回せる構造になっていなければ、備蓄を放出しても市場の不安は消えにくい。逆に言えば、日本が本当に増やすべきなのは在庫ではなく、振り替え先のポートフォリオなのである。
■石油需要を西半球に引き寄せる
日本に必要なのは、第一に湾岸外の長期契約を増やすこと、第二に中東以外の油種を処理できる製油所の柔軟性を高めること、第三に船舶・保険・決済まで含めた調達能力を強くすること、第四に米州での上流権益やオフテイク契約を厚くすることだ。そうしなければ、次のホルムズ危機でも日本はまた「値段を受け入れる側」「物流条件をのまされる側」に回る。
日本企業に必要なのは、平時の最安値調達だけを評価する発想から抜けることだ。多少高くても止まりにくい供給源を持つこと、危機時に切り替えられる油種や船腹を確保すること、米州やアフリカとの関係を「非常時のオプション」として契約化しておくことが重要になる。エネルギー安全保障とは、在庫の厚みだけでなく、選択肢の厚みなのである。
トランプのやり方は乱暴に見える。だが、ホルムズ海峡を「選別装置」に変え、世界の限界需要を西半球へ引き寄せる作戦だと見ると、そこには冷酷な筋が通っている。本稿の見立てでは、今回の狙いは、イランにウランを手放させることだけでなく、「安全な供給はどこにあるのか」を世界に学び直させることにもある。
そう考えると、この逆封鎖は軍事作戦であると同時に、供給秩序を組み替える地経学の実験でもある。

----------

伊藤 隆太(いとう・りゅうた)

防衛大学校 共同研究員/戦略コンサルタント

防衛大学校共同研究員、NovaPillar Advisory LLC戦略コンサルタント、博士(法学)。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。同大学大学院法学研究科後期博士課程修了。慶應義塾大学・広島大学助教、日本国際問題研究所研究員等を経て今に至る。Co-Chairs of the IPSA Research Committees (RC12)、APSA Committee of Best International Security Article等を歴任。単著論文はInternational Affairs誌に‘Hybrid Balancing as Classical Realist Statecraft’ (2022)、‘Hubris Balancing’ (2023)、International Relations誌に‘A Neoclassical Realist Model of Overconfidence and the Japan–Soviet Neutrality Pact in 1941’ (2023)、‘Outrage Balancing’ (2026)、単著研究書は『進化政治学と国際政治理論』(芙蓉書房出版、2020)、『進化政治学と戦争』(芙蓉書房出版、2021)、『進化政治学と平和』(芙蓉書房出版、2022)、編著研究書に『インド太平洋をめぐる国際関係』(芙蓉書房出版、2024)等がある。

----------

(防衛大学校 共同研究員/戦略コンサルタント 伊藤 隆太)
編集部おすすめ