※本稿は、内山真『やってはいけない睡眠の習慣』(SB新書)の一部を再編集したものです。
■40代以降は「寝だめ」ができなくなる
必要な睡眠時間は、加齢とともに短くなっていきます。これまでに行われた世界の調査研究をまとめると、健康な人たちの夜間の睡眠時間は15歳前後で8時間、25歳で7時間、45歳で6.5時間、65歳で6時間と、年を重ねるごとに短くなります。
40代に入ると、平日に溜まった睡眠負債(睡眠不足)を週末にその分眠って返済することができなくなる人が出てきます。これを裏づける実験データはありませんが、医療の現場で不眠の悩みを聞いている実感です。
平日の5日間は一晩6時間弱しか睡眠時間が確保できなくても、週末の2日間で9.5時間ずつ眠ると、1週間で49時間となり、一晩平均で7時間の睡眠時間になります。若い頃は、このような帳尻合わせがうまくできます。平日の1日1時間の睡眠負債を週末に一気に返すことができるのです。
しかし、40代を超えてくると休日だからといって、そんなに長く眠っていることが難しくなり、8時間くらいで起きてしまうようになります。この時期は、生活時間が乱れる夜遊びや深夜のお酒からも卒業し、自分の生活を規則正しくしようと考え始める時期とほぼ一致しています。
適正な睡眠時間が加齢とともに減るにもかかわらず、思いがけず、長く眠ってしまう問題に悩む中高年もいらっしゃいます。
■眠りすぎに隠された大きな問題
もう1つは、夜に眠る時間を取れているのに昼間に眠気に襲われて支障が出ることです。両者は性質が異なります。夜の睡眠時間が延びてしまう場合は、誰もが経験しているものとしては風邪やインフルエンザに罹(かか)った時です。
免疫物質に睡眠を促す作用があり、1日中眠くなります。体調が悪くなった結果、眠りが長くなるのです。他には、うつ病、とくに双極症(躁うつ病)や季節性うつ病の方はうつ状態の時に睡眠が長くなることがわかっています。
また、病気ではなくても体内時計が刻んでいる適切な睡眠時間帯に対して遅い時間帯に眠ると睡眠時間が長くなることが報告されています。夜にしっかり眠っているのに昼間に眠くなってしまう場合は、3つの原因があります。
1つ目は、本人の認識とは違い、夜の睡眠時間が量的に足りていない場合です。睡眠が不足していれば昼間に眠くなってしまいます。
2つ目は、夜の睡眠時間の確保はできているのにもかかわらず、睡眠が浅くなっている場合です。睡眠時無呼吸症候群のように呼吸が乱れて睡眠が浅くなっている場合や、周期性四肢運動障害のように眠っているのに体が勝手に動いてしまう不随運動のために、睡眠が浅くなっている場合が考えられます。睡眠時無呼吸症候群や周期性四肢運動障害は中高年に多く見られる睡眠障害で、医師による治療が必要になります。夜の睡眠時間が取れていたとしても、睡眠が非常に浅くなり、昼間に眠くなってしまうのです。
■10時間以上寝る高齢者の健康リスク
3つ目は、夜の睡眠には大きな問題がないのにもかかわらず、昼間に目を覚ましておく仕組み、覚醒を保つ仕組みがうまく働かなくなっている場合です。夜に十分眠っていても日中に耐え難い眠気に襲われ居眠りを繰り返すナルコレプシーが知られていますが、これは10代半ばが発症のピークであり、中高年で急に発症することはありません。
60歳以上は睡眠過多の状態が健康リスクになるといわれています。九州大学の研究チームが、1つの町の住民を対象にした久山町(ひさやままち)研究というものに取り組んでいます。
認知症のない60歳以上の人を最長10年追跡したところ、平均睡眠時間が5時間から7時間未満の人と比べ、平均睡眠時間が5時間未満の人は認知症リスクが2.64倍、死亡リスクが2.29倍、10時間以上の人も認知症リスクが2.23倍、死亡リスクは1.67倍高いことがわかりました(※1)。
※1 『Journal of the American Geriatrics Society』2018年「Association Between Daily Sleep Duration and Risk of Dementia and Mortality in a Japanese Community」(Ohara T ら)
東北大学の研究チームが1つの地域で行っている大崎国保コホート研究からも、画期的なレポートが出されています(※2)。65歳以上で疾患による問題のない高齢者を対象にした調査で、睡眠時間の変化と認知症発症リスクの関係を調べました。
※2 『Sleep』2018年「Changes in sleep duration and the risk of incident dementia in the elderly Japanese: the Ohsaki Cohort 2006 Study」(Lu Y ら)
■満足度がいちばん高い睡眠時間とは
12年前と比べて睡眠時間が1時間以上長くなった人は、睡眠時間が変化していない人に比べて認知症の発症が1.31倍、2時間以上長くなった人は同2.01倍となり、睡眠時間の延長が高齢者における認知症発症リスクの上昇と関連していることが報告されました。
ただし、睡眠時間の延長が直接的に認知症や死亡リスクを高めているのかというと、それは不明です。こうした調査では明らかにするのが困難な身体的な問題があり、それが原因となって睡眠時間の延長と、認知症・死亡リスクを同時に高めている可能性があるからです。従って、この点については、さらなる研究が必要です。
しかし、年を重ねてから必要以上に長く眠っている状況が続いていたら、健康リスクを抱えていることを疑っていいと思います。そもそも、長く眠ったからといって、必ずしも十分に眠ったという満足感を得られるわけではありません。健康・体力づくり事業財団の調査(1997年)では、十分に眠ったと感じる人では6時間台の睡眠の人がいちばん多くて40.4%(※3)。
※3 財団法人健康・体力づくり事業財団の調査(1997年)
■睡眠へのこだわりが不眠を招くワケ
次いで7時間台の人が31.6%で、5時間台の人が15.5%と続きます。一方、8時間台の人は11.5%に止まりました。長く眠れば熟睡感が得られるとは単純にはいえません。熟睡については「自分以外の誰かは(熟睡)しているのに、自分は(熟睡)していない」と他者と比べて考えがちです。
しかし、他人の熟睡と自分の熟睡を比べるのは困難です。睡眠や熟睡を考えるうえでは、他の誰かと比べるのではなく、眠りに悩む前の自分の睡眠と比べたほうがいいでしょう。
そうしないと、熟睡が捉えどころのないものになり、自分の睡眠に対する不満足感が強くなります。理想の熟睡像、睡眠イメージを勝手に作り出して、それを追いかけようとすると、そのこと自体が睡眠のさらなる不満足感、つまり不眠を招いてしまうのです。
そこで眠りに困っている人には「自分が熟睡したと感じた時のことを思い出してください」と最初に問いかけています。すると、学生時代、試験前に睡眠時間を削って無理をした翌日や、若い頃に寝る間を惜しんで働いたその週末に、泥のように眠ったことを思い出す方が多いのです。
■自分にとって心地よい睡眠の基準を持つ
このような特別な睡眠が毎日続くわけはありません。泥のように眠ったのは、その前の睡眠不足や疲労という原因があるからなのです。
他には「心身面でもっとも充実していた時期はいつ頃で、その時の睡眠はどうだったか」ということも話題にします。
すると、大抵の人はその時の睡眠状況を覚えていません。充実している時、私たちは睡眠を意識しないのです。しかし、睡眠を意識しない生活が年単位で続けられたのでしたら、その人なりにバランスの取れた生活をしていたことになります。こういう話をして、睡眠を他の誰かではなく、ご自身の過去の睡眠と比べる考え方になってもらうことが重要です。
すると、睡眠の理想像を外に求めなくてもよくなります。
しかし、この客観的に良しとされる睡眠と、自分の睡眠に対する満足感にはズレがあります。まずは、このことを知っていただきたいと思います。
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内山 真(うちやま・まこと)
東京足立病院名誉院長
1954年生まれ。80年、東北大学医学部卒業。 東京医科歯科大学神経精神科、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所部長を経て、日本大学医学部精神医学系主任教授(2006~20年)、日本睡眠学会理事長(17~21年)を務める。厚生労働省の睡眠や睡眠障害研究班等の班長を歴任し、検討会座長として「健康づくりのための睡眠指針2014」の作成に尽力した。2020年からこころの医療と高齢者医療を専門とする東京足立病院院長を務め、外来診療も担当。2026年4月より
同病院の名誉院長に。著書に『睡眠のはなし』(中公新書)、『眠りの新常識』(KADOKAWA)、『睡眠障害の対応と治療ガイドライン 第3版』(じほう)など。
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(東京足立病院名誉院長 内山 真)

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